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尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

飛鳥山散歩と渋沢栄一

2013年08月25日 23時20分21秒 | 東京関東散歩
 東京都北区の王子駅前にある飛鳥山(あすかやま)は、江戸時代から桜の名所として知られてきた所だけど、僕は行ったことがなかった。自分の家からは、もっと桜がいっぱいの上野公園や隅田公園が近かったからである。でも、そこには戦前に渋沢栄一の邸宅があり、タゴールや蒋介石も訪れた場所だった。空襲でほとんど焼けたが、小さな建物が2つほど残り、国の重要文化財に指定されている。近代の重文建築は、東京では非常に貴重なので是非一度訪れたいと思っていた。今日は暑くなくて散歩日和だから…ではなく、栄一の孫の渋沢敬三の誕生日で無料なので、行ってみることにした。(ま、300円なんですけど。)重文の建物は、青淵文庫(せいえんぶんこ)と晩香慮(ばんこうろ)。こんな感じ。
 

 で、僕の家からはいろいろな行き方がある。でも、まあ都電でしょ、やっぱり。唯一の都電(東京の路面電車ですね)、荒川線は三ノ輪橋-早稲田間を結んでいる。早稲田や三ノ輪はまた別に散歩記を書きたいんだけど、今日は「貸切都電」というのが停まっていたので、写真をちょっと。三ノ輪橋停留場は、オロナミンCやボンカレーのホーロー看板が今も残っている不思議な場所である。広告の顔が誰か、もう知らない人が多いかもしれない。(大村崑と松山容子)
   
 さて、都電は王子を過ぎるところ(というか早稲田から来れば手前)に大カーブがあり、これが有名。つい飛鳥山まで乗ってしまったが、飛鳥山ではなくて王子の方が良かった。歩いて戻る。というのも、もう一つ乗りたいものがある。ケーブルカーみたいなモノレール、あすかパークレールという無料の乗り物が2009年に出来たのである。飛鳥山はこんなものがなくても登れるけど、まあタダだし。たった2分で山頂へ。他の客はいない。前を見てると、山の観光地に来た感じもちょっとする。
  
 山頂駅まであっという間で、後は水平の道をずっと歩いて行く。碑がいろいろある。まず1881年に建てられた、幕末の佐久間象山が詠んだ桜賦の詩碑。もう少し行くと、飛鳥山の碑。1737年というずいぶん昔のもので、飛鳥山に将軍吉宗が桜を植えて整備したなどと書いてあるらしい。けれど、江戸時代から漢文が難し過ぎて花見の庶民にはチンプンカンプンの碑として有名だったということである。北区のサイトに細かな解説がある。園内はちょっとした山の風情。
  

 もう公園の終わりの方に三つの博物館エリアがある。「紙の博物館」「北区飛鳥山博物館」「渋沢資料館」である。何で「紙の博物館」がここにあるかというと、王子製紙があったからである。明治初期に渋沢栄一が作った。東京西部の玉川用水を、さらに練馬、板橋から王子まで引いた千川用水といううのがあったのである。それを利用して、抄紙会社(後の王子製紙)や大蔵省紙幣寮抄紙局(今の印刷局滝野川工場)が作られた。しかし王子工場は空襲でほぼ壊滅、唯一残った建物を「紙の博物館」にしたのが、今は飛鳥山に移ったという歴史がある。王子製紙という会社は知ってるけど、今の王子には工場もビルもないから、今まで全然意識しなかった。
 
 さて、渋沢資料館。(上の写真。右は資料館2階入り口の渋沢像。)ここはとても面白い博物館だった。僕はほとんど全然渋沢栄一(1840~1931)を知らないので、とても感心してしまった。幕末にパリの万博に派遣された話も面白いが、何と言っても日本初の銀行はじめ、無数の会社を作った人なのである。数字が付いてる銀行が今もあちこちにあるが、「第一銀行」(今の「みずほ」)は渋沢である。他にあげてみると、先の王子製紙、さらに東京ガス、東京海上火災、秩父セメント、帝国ホテル、サッポロビール、東洋紡績、帝国劇場など、非常に多彩。その分野で日本初の会社というのが多い。しかも、それらで得た利益は社会事業や教育につぎ込んでいる。商業教育や女子教育、社会福祉や国際協調などに活躍してるんだから、すごく「進歩的」である。会社経営を引退しても、福祉や教育は引退していない。90歳近くになってから日本女子大校長、中央盲人会会長、癩予防協会会頭などを引き受けている。日米親善のため人形を送るというのも渋沢栄一の活動。大正、昭和初期の古稀(70歳)を過ぎた老人が、驚くほど若々しく、未来を考えている。いやあ、これはすごい人ですね。

 栄一の孫、渋沢敬三(上のチラシの人)が後継者となるが、彼は会社経営から、日銀総裁や大蔵大臣を務めた。さらに柳田國男に師事した民俗学者として著名で、ぼう大な民俗資料を収集し、著述も多い。今は民俗学の巨人として多くの人を育てたことが最大の業績として有名だろう。そういう後継者を育てたということこそ、渋沢栄一の特徴かもしれない。敬三の没後50年ということで、今は敬三の号、祭魚洞(さいぎょどう)にちなんだ「祭魚洞祭」という企画を行っている。連続講座もあるし、また無料日もあるので、くわしくはホームページで。

 さて、近くに重文の建物があり、資料館開館時はそちらも見られる。どっちも小さな建物で、東京に残る洋館、旧岩崎邸や旧前田邸などを期待するとガッカリするが、細部までこだわった美しい建築に小さいながら満足できる。まず、晩香慮(ばんこうろ)だが、1917年に栄一喜寿を祝って現在の清水建設が贈ったという、1階しかない小さな建物だが、談話室に当時の面影が残る。中は写真が撮れないので、外だけ。中の様子は貰ったパンフを載せておく。
 
 一方、青淵文庫は1925年に、傘寿(80歳)と子爵になった記念(それまで男爵、ちなみに財閥当主は男爵止まりに対し、社会活動が認められ渋沢栄一だけ子爵に栄進できたらしい)で贈られたもの。「文庫」というのは、もともと徳川慶喜伝を作るための資料や栄一の思想的バックボーンの「論語」関係書籍を収めることを目的にしたから。でも本は関東大震災で焼けてしまい、もっと早く出来ていれば良かったと残念に思ったという。ここは2階があるが見られない。内部はフラッシュなしなら写真も可。ここも細部が素晴らしい建物で、とても気持ちがいい場所である。裏から見ても素晴らしい。この2つだけでも残ったのが、大変貴重である。とても大事な場所だと思うが、東京でも知らない人が結構多いのではないか。一度は是非。
   
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才教学園ケース-教員免許法違反事件

2013年08月25日 00時34分41秒 |  〃 (教育行政)
 教師になることのできる資格は「教育職員免許法」で決まっている。それに違反すると「教育職員免許法違反事件」ということになるけど、ほとんどの教員はそんなケースを見聞きしたことがないと思う。それが今月だけで2つも報道されている。そのケースをもとに、教員免許というものを考えてみたい。

 多くの教師がなんで教員免許法違反事件を知らないかと言えば、そんな事件はほとんどないからである。何かの問題に関与して、懲戒免職になる教師はいる。教師というのは、地方公務員がほとんどで、学校法人職員(私立の場合)や国立大学法人職員(独立行政法人の一種で、昔の「国立」)もあるけど、いずれにしても雇われて働いている。だから教員を雇っている側の懲戒規定に基づき、一番重ければ免職ということがある。そのことはもちろん意識している。

 でも、雇われてる条件である教員免許そのものについては、あまり意識していない。(教員免許更新制度ができたことで、免許の更新は意識せざるを得ないけれど、それはまた別。)免許法によれば、実は公立学校の教員が懲戒免職または分限免職(の大部分の場合)になれば、教員免許の方も自動的に失効する。それは官報に掲載される。でも、懲戒免職になるような場合は、新聞に載ったりするから、また教員試験を受け直すとか、非常勤職員に応募するとかは普通は考えにくい。

 さて、一つ目のケースはかなりレアだと思うけど、いくらなんでもこれはひどいと思う。福岡の中学で勤務していた時に児童買春・ポルノ禁止法違反容疑で有罪判決を受け教員免許が失効。それを隠して、山口市の私立高校に非常勤で勤務し、2010年に山口県教委から免許再交付を受けた。しかし、交付前から無免許で勤務していたことが発覚して再交付分も失効。しかし教員免許を返納せず、今年4月に埼玉県秩父市内の中学校で臨時教員となるも、保護者から学校への問い合わせで発覚。県教委は4月12日に採用無効を決定、5月1日に免許返納を求める文書を発送したものの、返納する前の5月上旬に群馬県の臨時教諭に採用された。免許返納に応じたのは20日だった。結局、群馬県の小学校で1学期間教えたという。この場合は悪質であるとして逮捕、再逮捕されている。(群馬ケース、埼玉ケースで別に逮捕。)

 何と言うか3県を渡り歩いた無免許教員で、こういうケースは前代未聞だろう。では、免許そのものはどういう時に失効するのか。この人の場合、最初は懲戒免職だろうから、その時点で失効するから、他のことは普通考えない。でも法律にはちゃんと規定されていて、「禁錮以上の刑に処せられた者」には免許を交付しない。これは弁護士や医師なども同じである。「禁錮以上」というのは、「執行猶予付きの懲役」も入るが、「罰金」は入らない。教員の場合、執行猶予でも報道されることが多いと思うが、道路交通法違反でも悪質(無免許など)なら起訴され執行猶予付の懲役または禁錮になることはある。その程度の事件なら新聞に載らないし、誰も気づかないまま勤務してて、そのうち発覚するというケースが稀にある。

 だけど、ある意味では、このケースを見ると、地方では教員の成り手がいないと言う現状をうかがわせるのではないか。もともと正教員がいれば非常勤を雇う必要がない。群馬では担任してたらしいけど、その学校に他に正教員はいなかったのか。義務教育費国庫負担が2分の1から、3分の1に減らされて以来、(2005年度からの小泉内閣「三位一体改革」である)、地方では非常勤教育職員が増えているという話である。「非常勤公務員」というのは、待遇的にとても恵まれていないし、交通の便が悪い地方では成り手を探すにも大変なんだろうなあと推測される。だからこそ、すぐに次の学校が見つかったわけだろう。

 もう一つは、長野県松本市の才教学園という小中一貫校のケースである。2005年に開校した私立学校だが、ウィキペディアによれば構造改革特区に申請して作られたらしい。またウィキペディアには興味深い指摘が幾つかある。小学校1年から英語をやっているとか、卒業生の半分が松本深志高校に進学してるとか。(中学も最初から募集したから卒業生が出たということだろう。そうじゃないと、05年に小学生に入学した生徒はまだ中3のはず。)また「小学校が20学級315名、中学校が8学級151名」(昨年5月段階)とも出てるから、ものすごい少人数学級である。ウィキペディアばかり引用してるけど、それは「才教学園ホームページ および さいきょうダイアリーサイトは、児童生徒の写真が多数掲載されているため、影響を考慮し、しばらく閉鎖させていただきます。」ということで、学校側のデータは見られない。

 その掲示が載ってるサイトには、「必要な免許を有しない教員がクラス担任をする、あるいは教科を担当して教えるという教育職員免許法に違反することをいたしました。」とおわびが書いてある。ここのケースはもうこの言葉につきている。現在長野県警が捜査に入っている。免許法第22条「第三条の規定に違反して、相当の免許状を有しない者を教育職員に任命し、又は雇用した場合には、その違反行為をした者は、三十万円以下の罰金に処する。」という条項に該当するということだろう。

 小中一貫校だから、小学校免許、中学校免許をそれぞれ持ってないものがいて、お互いに担任したり、授業を受け持っていたということである。校長は免許法を知らなかったなどと言ってるらしいが、ニュースで見た教頭の説明では県に出す書類は書き換えて免許法に合うようにしていたという。免許のことを知らない校長がいるとは、僕には考えられない。中学と高校の免許は、普通同時に取れる。(「道徳教育」の単位を大学で落とすと、中学の免許が取れない場合もあるが。)つまり、中高は教科担任制だから、歴史だの数学だの、まず教科の専門の勉強をして、その上に教職に関する講座を取る。一方、全科を担当する小学校教員は、教育学部など教員養成系の学部に入るのが普通である。だから中高免許は一緒に持ってるけど、小学校免許は独自である。これを知らない教育関係者がいるとは考えられない。

 この学校のようなケースがなぜ起こったかは僕にはよく判らない。でも、これが示すものは何か。要するに、免許は必要ないのではないかという思いである。医者になるには確かに専門知識と専門技術がいるだろう。でも、親は子供に算数を教えたりできるし、子どもの生活指導もする。塾や予備校で教えるのに免許はいらないし、専門性と言っても親も高校までは大体出てるんだから、自分が勉強した範囲のことである。学校の地域性はいろいろだし、生徒も千差万別である。同じように教えられるというものではない。大学出たての新米教員より、免許がなくてももっと頼りになるという人がいっぱいいるだろう。熱意があれば、免許の有無より大事なものが生徒に伝わるとこもあるのではないか。でも、まあ法律に罰則もある以上、問題になるのは仕方ないだろうなあと思いつつも。(なお、東京都は「小中高一貫校」を作るという方針を明らかにした。「4・4・4」に分けるという。その意味はないわけではないと思うが、現行規定では、真ん中の「4」は小中の、最後の「4」は中高の免許を持つ教員がいないと成り立たない。大丈夫だろうか。)

*2013年12月26日、松本区検(長野地検松本区検察庁)は才教学園の元理事長と元教頭を起訴猶予処分にした。「元」が付いていることで判るように、退職して「社会的制裁を受けた」ことや「免許法違反はあったが、免許そのものがない教員がいたわけではない」ことなどが考慮されたという。また長野県は同学園に対して補助金計7100万円の返還を求めている。今後加算金1500万円ほども請求される見込みという話である。
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