北村亘著「政令指定都市」(中公新書)を読んだ。まさに今求められている概説書。少し面倒なところもあるが、まずは判りやすい本だと思う。7月の新刊である。
僕の知り合いには政令指定都市に住んでいる人がかなりいる。北は札幌から南は熊本まで、いろいろなきっかけで知ってる人がいて、今はFacebookですぐに連絡できる。特に新潟は妻の関係でよく行くところである。そう、うっかり知らない人もいるかもしれないが、新潟も熊本も政令指定都市である。全部で20にもなる。全部言える人はまずいないのではないか。神奈川県の相模原なんて、悪いけど政令指定都市になってるんだ、と驚く人も多いのではないだろうか。
今まで「政令指定都市」の説明をしてないけど、簡単に言うと「区がある大都市」である。東京23区は「特別区」となっていて、区が基礎自治体である。基礎自治体とは、生活に一番身近な自治体で、教育や福祉を担当している自治体のこと。「政令指定都市」は、区があるけど、それは市のスケールが大きいから行政運営上設けているだけで、基礎自治体は区ではなく市になる。だから、東京23区では区立小中学校になるけど、大阪も横浜も市立小中学校になる。この大阪の場合、市を解体して区を基礎自治体にしようというのが「大阪都」構想と言われるものである。
著者は大阪大学大学院の教授で、最後に「大阪都」問題に触れている。その問題を理解するためにも、また自分の住んでいる「特別区」を理解するためにも、是非この本を読んでおきたいと思った次第。で、まず本当は「政令指定都市」ではなく「指定都市」なんだと言う。近代史上、東京は首都として別格で、次いで大阪、京都、名古屋、横浜、神戸が5大都市だった。東京を入れると6大都市になる。ここに「区」が置かれた。
戦前は都道府県知事は内務省の役人だったが、戦後になって日本国憲法で地方自治が認められる。そこで大都市の性格が議論され、大都市側からは「大都市独立論」もあった。(世界には、重要都市は県や州から独立して「特別市」とか「直轄市」という制度になっている国がかなりある。)一方、県側は重要都市の「独立」を認めたくない。戦後の地方自治法で一端「特別市」制度ができたものの、1956年にはその規定は削除され「政令指定都市」が、いわば妥協として作られたという。その時に、政府が意図していたのは、戦前来の5大都市の指定であった。しかし、戦前は100万都市だった神戸が、空襲で港湾が破壊された後なかなか復旧できず、人口が98万人にしか戻っていなかった。この時神戸が百万都市だったら、政令指定都市の条件は人口百万になったはずだと言う。でも神戸への配慮が必要だった。まさか90万とも言えず、結局「50万人以上の人口」が条件となった。これが今20にもなっていく「意図せざる結果」を生んだという。
全部の論点を紹介している余裕はないが、この本を読むと政令指定都市にもいろいろあるなあと言うことがよく判る。また権限は委譲されても、税源は委譲されていないという決定的な問題があるという。まず、政令指定都市は道府県の権限の7割から8割が委譲されるという。これは大都市には人口、商業施設、文化施設、交通機関など様々なものが集中しているので、特別な権限を与えて行こうということだろう。だから大都市の特徴は、「昼夜間人口の違い」にあるとも言える。大都市は昼間は仕事や買い物のために多くの人を集めるが、夜間はその人々の多くは他県他市に帰る。そしてそっちで住民税を納めるわけである。大阪は昼夜間人口比が1.38で最高になっている。大阪の人は仕事で成功すれば芦屋などに住む。東京は一応23区内に成城とか田園調布などという場所を持っているが。
一方、意外なことに昼夜間人口比が1以下の政令指定都市がある。横浜(0.9)、川崎(0.87)、さいたま(0.92)、千葉(0.97)、堺(0.93)である。東京、大阪の通勤圏である。横浜は人口が一番多い市であるが、北部が開発されて東京への通勤圏として人口が急増してきた。川崎も同じ。JRの横浜、川崎駅だけを見ていては判らない。この大阪の特性が「大阪都」の発想の基にある。大阪は日本の大都市の未来を写す縮図で、高度成長時代に労働者として流入したまま高齢者になった独身男性が多数にのぼる。そのため、5.72%と言う生活保護率になっているのである。これは構造的な問題で大阪市政に問題があったということではない。
「大阪都」に関しては、市内で互助していたものを各区に独立させると、かえって地方交付税交付金が増える見通しだという。国家全体の観点から言うと、どんなものだろう。また大都市側から言うと、いかに県から独立していくかというのが悲願だった歴史がある。今回の「大阪都」は、市制を解体して府に権限を集中させようというんだから、全く逆方向である。それでいいのか、という問題がある。いろいろな問題があるということを豊富なデータで説明する本。地方議会、職員などの記述も詳しい。
僕の感覚では、東京23区というのは住民に一番良い制度ではないと思う。でも東京では23区内の人口や施設集中度が高く、今になって東京市を復活させることは現実的ではない。ただ言えることは、東京市の解体と言う大ナタをふるえたのは戦時下という条件が大きい。平時に民主主義のシステムの中で複雑な利害をどう調整していけばいいのか。僕にはどうすればいいのか、よく判らない。なお、東京市が解体されたため、東京では教員の異動が全都にわたる。島も含めて、ものすごく多い異動先がありうる。政令指定都市は教員の人事権を持つから、教員の異動は市内に限られるはずだ。(市立の小中の場合。)でも、東京の感覚から言えば、都市中心部、周辺部、農村部などでは生徒像がかなり違い、ある程度広く異動することで教師の力量がアップするのではないか。県下で一番予算のある政令指定都市で研修した教師が、全県に異動できないというのは、僕にはどうも全国レベルで言えばもったいない気がするのだが。
僕の知り合いには政令指定都市に住んでいる人がかなりいる。北は札幌から南は熊本まで、いろいろなきっかけで知ってる人がいて、今はFacebookですぐに連絡できる。特に新潟は妻の関係でよく行くところである。そう、うっかり知らない人もいるかもしれないが、新潟も熊本も政令指定都市である。全部で20にもなる。全部言える人はまずいないのではないか。神奈川県の相模原なんて、悪いけど政令指定都市になってるんだ、と驚く人も多いのではないだろうか。
今まで「政令指定都市」の説明をしてないけど、簡単に言うと「区がある大都市」である。東京23区は「特別区」となっていて、区が基礎自治体である。基礎自治体とは、生活に一番身近な自治体で、教育や福祉を担当している自治体のこと。「政令指定都市」は、区があるけど、それは市のスケールが大きいから行政運営上設けているだけで、基礎自治体は区ではなく市になる。だから、東京23区では区立小中学校になるけど、大阪も横浜も市立小中学校になる。この大阪の場合、市を解体して区を基礎自治体にしようというのが「大阪都」構想と言われるものである。
著者は大阪大学大学院の教授で、最後に「大阪都」問題に触れている。その問題を理解するためにも、また自分の住んでいる「特別区」を理解するためにも、是非この本を読んでおきたいと思った次第。で、まず本当は「政令指定都市」ではなく「指定都市」なんだと言う。近代史上、東京は首都として別格で、次いで大阪、京都、名古屋、横浜、神戸が5大都市だった。東京を入れると6大都市になる。ここに「区」が置かれた。
戦前は都道府県知事は内務省の役人だったが、戦後になって日本国憲法で地方自治が認められる。そこで大都市の性格が議論され、大都市側からは「大都市独立論」もあった。(世界には、重要都市は県や州から独立して「特別市」とか「直轄市」という制度になっている国がかなりある。)一方、県側は重要都市の「独立」を認めたくない。戦後の地方自治法で一端「特別市」制度ができたものの、1956年にはその規定は削除され「政令指定都市」が、いわば妥協として作られたという。その時に、政府が意図していたのは、戦前来の5大都市の指定であった。しかし、戦前は100万都市だった神戸が、空襲で港湾が破壊された後なかなか復旧できず、人口が98万人にしか戻っていなかった。この時神戸が百万都市だったら、政令指定都市の条件は人口百万になったはずだと言う。でも神戸への配慮が必要だった。まさか90万とも言えず、結局「50万人以上の人口」が条件となった。これが今20にもなっていく「意図せざる結果」を生んだという。
全部の論点を紹介している余裕はないが、この本を読むと政令指定都市にもいろいろあるなあと言うことがよく判る。また権限は委譲されても、税源は委譲されていないという決定的な問題があるという。まず、政令指定都市は道府県の権限の7割から8割が委譲されるという。これは大都市には人口、商業施設、文化施設、交通機関など様々なものが集中しているので、特別な権限を与えて行こうということだろう。だから大都市の特徴は、「昼夜間人口の違い」にあるとも言える。大都市は昼間は仕事や買い物のために多くの人を集めるが、夜間はその人々の多くは他県他市に帰る。そしてそっちで住民税を納めるわけである。大阪は昼夜間人口比が1.38で最高になっている。大阪の人は仕事で成功すれば芦屋などに住む。東京は一応23区内に成城とか田園調布などという場所を持っているが。
一方、意外なことに昼夜間人口比が1以下の政令指定都市がある。横浜(0.9)、川崎(0.87)、さいたま(0.92)、千葉(0.97)、堺(0.93)である。東京、大阪の通勤圏である。横浜は人口が一番多い市であるが、北部が開発されて東京への通勤圏として人口が急増してきた。川崎も同じ。JRの横浜、川崎駅だけを見ていては判らない。この大阪の特性が「大阪都」の発想の基にある。大阪は日本の大都市の未来を写す縮図で、高度成長時代に労働者として流入したまま高齢者になった独身男性が多数にのぼる。そのため、5.72%と言う生活保護率になっているのである。これは構造的な問題で大阪市政に問題があったということではない。
「大阪都」に関しては、市内で互助していたものを各区に独立させると、かえって地方交付税交付金が増える見通しだという。国家全体の観点から言うと、どんなものだろう。また大都市側から言うと、いかに県から独立していくかというのが悲願だった歴史がある。今回の「大阪都」は、市制を解体して府に権限を集中させようというんだから、全く逆方向である。それでいいのか、という問題がある。いろいろな問題があるということを豊富なデータで説明する本。地方議会、職員などの記述も詳しい。
僕の感覚では、東京23区というのは住民に一番良い制度ではないと思う。でも東京では23区内の人口や施設集中度が高く、今になって東京市を復活させることは現実的ではない。ただ言えることは、東京市の解体と言う大ナタをふるえたのは戦時下という条件が大きい。平時に民主主義のシステムの中で複雑な利害をどう調整していけばいいのか。僕にはどうすればいいのか、よく判らない。なお、東京市が解体されたため、東京では教員の異動が全都にわたる。島も含めて、ものすごく多い異動先がありうる。政令指定都市は教員の人事権を持つから、教員の異動は市内に限られるはずだ。(市立の小中の場合。)でも、東京の感覚から言えば、都市中心部、周辺部、農村部などでは生徒像がかなり違い、ある程度広く異動することで教師の力量がアップするのではないか。県下で一番予算のある政令指定都市で研修した教師が、全県に異動できないというのは、僕にはどうも全国レベルで言えばもったいない気がするのだが。