野坂昭如が亡くなった。12月9日没、85歳。長く闘病中だったから驚きは少ないけれど、この数年だけで、小沢昭一や菅原文太や愛川欣也などが続々と亡くなってしまった。「ある世代」が消え去りつつあるのだ。「ある世代」とは、つまり「焼け跡闇市世代」である。そして、野坂昭如という人も、「火垂るの墓」の「反戦作家」として語られてしまう。選挙に立候補という話題も、1983年衆院選で田中角栄の選挙区から出たことが主に語られる。間違いではないけど、野坂昭如が突然立候補を表明して大きな話題となったのは、1974年の参院選東京地方区である。この時の野坂の選挙運動は大きな話題となり、選挙戦最後の日の新宿の演説は「辻説法」というLPレコードにもなった。僕はこれを持っているのである。そして今、何十年ぶりに聞いてみた。先に挙げた小沢、菅原、愛川などは皆、この日の新宿に駆けつけた面々である。そのレコードの写真には小沢昭一が映っている。
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野坂昭如という人は、「中年御三家」と言われた(まあ、自分たちで勝手に言った)歌手でもあった。他の二人は、小沢昭一と永六輔。(念のために書いておくと、徳川御三家をもじって最初に御三家と言われたのは、橋幸夫、舟木一夫、西郷輝彦で、70年代になって野口五郎、郷ひろみ、西城秀樹を「新御三家」と呼んだ。「中年御三家」はそれのパロディ。)これらの人々も「中年」だったんだと感慨深い。今の人は、「黒の舟唄」は長谷川きよしの、「バージンブルース」は戸川純の歌だと思っているかもしれないが、これは野坂昭如の歌だったのである。(選挙演説最後には、「黒の舟唄」を大合唱している。)だけど、やっぱり「マリリン・モンロー・ノーリターン」こそ、野坂昭如のいちばんの持ち歌なんだろう。「このようはもうじきオシマイだ…」である。さらに「ジンジンジンジン、血がジンジン…」「男と女の間には…」などと、訃報を聞いた時から頭の中でリフレインしてしまっている。
野坂昭如という人は、20代からテレビ界で活動し始めたが、当初は非常に怪しげな人物だった。大体、黒いサングラスなんか、当時は怪しいイメージ。出した本は「プレイボーイ入門」(1962)で、怪しげな人物としてマスコミに登場した。最初に書いた本も「エロ事師たち」(1966)というブルーフィルムを作っている男の話。これは同年に今村昌平監督の「人類学入門」として映画化され主演の小沢昭一の代表作となるが、小説も傑作で今も新潮文庫に生き残っている。そして、1968年1月に「火垂るの墓」「アメリカひじき」で直木賞を受賞。新人賞である直木賞作品がいつまでも代表作と言われるのは不本意だろうけど、後にたくさん書いた小説は、多忙の故か、関心の広さの故か、あまり大評判になった小説が少ない。読んでないものが多いが、当時の時事的な興味が薄れた現時点でどう評価すべきか。
僕は高校時代に新潮文庫の「火垂るの墓・アメリカひじき」を読んだ。その本には6編の小説が収録されていたが、中で「焼土層」という小説が気に入って、シナリオ化しようとしたことがある。まあ中途で挫折したが、なんだか映画向きで映像が頭の中で見えるような気がしたのである。「エロ事師たち」も思い切って読んでみて、とても面白いし、単なる「エロ小説」ではなかったことに驚いた。当時文庫に入った「真夜中のマリア」などという小説も読んだ。このパロディも面白かったけど、まあスラスラ読めるだけだったかもしれない。これらを読み始めて判ったのは、この人は怪しげなイメージ、セックスやプレイボーイで売ってきたけど、サングラスは照れ隠しのようなもので、本質は戦争を心から憎み、「国家権力」に警戒感を持つ人物だということである。
1974年という年は、前年の秋に第3次中東戦争が起き「石油戦略」が発動され「オイルショック」が起きた翌年である。物価は3割ぐらいあがってしまい、後の首相・福田赳夫が「狂乱物価」と呼んだ。当時、自民党内では田中角栄首相に対し、福田赳夫や三木武夫の反主流派が対抗していた。そして、74年夏の参院選では田中首相による「金権選挙」が繰り広げられた。そういう参院選に野坂昭如が立候補したのは、まさに「時宜を得た」というか、僕には至極当然のわかりやすい行動だった。じゃあ、僕も選挙を手伝ったのか、投票したのか。いやいや、僕は選挙権がまだない浪人生でありました。
最初に評価されたのは作詞家として。「おもちゃのチャチャチャ」でレコード大賞作詞家賞を取っている。伊豆の伊東温泉「ハトヤ」のコマーシャルも野坂の作詞。これは関東圏では誰でも知っている曲である。父・野坂相如(すけゆき)は内務官僚で、新潟県副知事をした。新潟県知事選や参院選に出たこともある。(いずれも落選。)妻と二人の娘はそろって「宝塚」で、実はそういう環境の人だったけど、だからこそ反俗を貫いたと言えるんだろう。
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野坂昭如という人は、「中年御三家」と言われた(まあ、自分たちで勝手に言った)歌手でもあった。他の二人は、小沢昭一と永六輔。(念のために書いておくと、徳川御三家をもじって最初に御三家と言われたのは、橋幸夫、舟木一夫、西郷輝彦で、70年代になって野口五郎、郷ひろみ、西城秀樹を「新御三家」と呼んだ。「中年御三家」はそれのパロディ。)これらの人々も「中年」だったんだと感慨深い。今の人は、「黒の舟唄」は長谷川きよしの、「バージンブルース」は戸川純の歌だと思っているかもしれないが、これは野坂昭如の歌だったのである。(選挙演説最後には、「黒の舟唄」を大合唱している。)だけど、やっぱり「マリリン・モンロー・ノーリターン」こそ、野坂昭如のいちばんの持ち歌なんだろう。「このようはもうじきオシマイだ…」である。さらに「ジンジンジンジン、血がジンジン…」「男と女の間には…」などと、訃報を聞いた時から頭の中でリフレインしてしまっている。
野坂昭如という人は、20代からテレビ界で活動し始めたが、当初は非常に怪しげな人物だった。大体、黒いサングラスなんか、当時は怪しいイメージ。出した本は「プレイボーイ入門」(1962)で、怪しげな人物としてマスコミに登場した。最初に書いた本も「エロ事師たち」(1966)というブルーフィルムを作っている男の話。これは同年に今村昌平監督の「人類学入門」として映画化され主演の小沢昭一の代表作となるが、小説も傑作で今も新潮文庫に生き残っている。そして、1968年1月に「火垂るの墓」「アメリカひじき」で直木賞を受賞。新人賞である直木賞作品がいつまでも代表作と言われるのは不本意だろうけど、後にたくさん書いた小説は、多忙の故か、関心の広さの故か、あまり大評判になった小説が少ない。読んでないものが多いが、当時の時事的な興味が薄れた現時点でどう評価すべきか。
僕は高校時代に新潮文庫の「火垂るの墓・アメリカひじき」を読んだ。その本には6編の小説が収録されていたが、中で「焼土層」という小説が気に入って、シナリオ化しようとしたことがある。まあ中途で挫折したが、なんだか映画向きで映像が頭の中で見えるような気がしたのである。「エロ事師たち」も思い切って読んでみて、とても面白いし、単なる「エロ小説」ではなかったことに驚いた。当時文庫に入った「真夜中のマリア」などという小説も読んだ。このパロディも面白かったけど、まあスラスラ読めるだけだったかもしれない。これらを読み始めて判ったのは、この人は怪しげなイメージ、セックスやプレイボーイで売ってきたけど、サングラスは照れ隠しのようなもので、本質は戦争を心から憎み、「国家権力」に警戒感を持つ人物だということである。
1974年という年は、前年の秋に第3次中東戦争が起き「石油戦略」が発動され「オイルショック」が起きた翌年である。物価は3割ぐらいあがってしまい、後の首相・福田赳夫が「狂乱物価」と呼んだ。当時、自民党内では田中角栄首相に対し、福田赳夫や三木武夫の反主流派が対抗していた。そして、74年夏の参院選では田中首相による「金権選挙」が繰り広げられた。そういう参院選に野坂昭如が立候補したのは、まさに「時宜を得た」というか、僕には至極当然のわかりやすい行動だった。じゃあ、僕も選挙を手伝ったのか、投票したのか。いやいや、僕は選挙権がまだない浪人生でありました。
最初に評価されたのは作詞家として。「おもちゃのチャチャチャ」でレコード大賞作詞家賞を取っている。伊豆の伊東温泉「ハトヤ」のコマーシャルも野坂の作詞。これは関東圏では誰でも知っている曲である。父・野坂相如(すけゆき)は内務官僚で、新潟県副知事をした。新潟県知事選や参院選に出たこともある。(いずれも落選。)妻と二人の娘はそろって「宝塚」で、実はそういう環境の人だったけど、だからこそ反俗を貫いたと言えるんだろう。
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