尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「言語道断」なトランプのガザ所有論

2025年02月06日 20時07分29秒 |  〃  (国際問題)

 ドナルド・トランプが2期目のアメリカ大統領に就任してまだ2週間ほどだが、いかに危険な人物が超大国の指導者になったのか、すでにあまりにも明らかだ。いくらひどくても「パリ協定離脱」など事前に想定されていたことにはまだ覚悟が出来ている。しかし、4日にイスラエルのネタニヤフ首相との会談で主張した「アメリカのガザ所有論」はあまりにもひどさのレベルが凄すぎで、呆然とした。「唯我独尊」「奇想天外」「荒唐無稽」など、いくつもの四字熟語が脳裏を駆けめぐる。一応「言語道断」にしておくが、何にしても実現不可能でありながら、トランプ流発想法を探る意味で検討しておかないといけない。

 トランプ発言では、「ガザ地区の住民を全員(近隣アラブ諸国に)移動させる」(その際の資金面は原油富豪国に出させる)、「ガザ地区をアメリカが所有して、破壊されたビルの撤去や不発弾処理などを行う」「その後、ガザ地区にリゾート施設を建設して中東のリヴィエラにする」というようなものだ。これはあからさまな国際法違反だが、トランプの辞書には「国際法」は載ってないだろうから、何の問題も感じていないだろう。そこに大規模なスラムがあれば、リニューアルして再開発するのが当然であり、そこに住んでいた人は追い出すのも当然。トランプにとって、今までやって来たことの繰り返しと理解してるだろう。

(破壊されたガザ地区)

 国内なら無理を通せても、国際的には無理である。しかし、だからこの案はなくなるかというと、それは判らない。むしろもっと悪い形で進行する可能性もある。そもそも現在ガザ地区は「イスラエルが不法占領している状態」にある。1967年の第3次中東戦争でイスラエルが占領したままである。その後、限定的にパレスチナ自治政府が作られたが、独立した国家として承認されたわけではない。従って、(元はエジプト領だった)ガザ地区をイスラエルが領有宣言をして、アメリカがそれを承認した後で、ガザ地区をイスラエルから「租借」する。シリア領ゴラン高原は、すでにイスラエルが領有宣言をして、トランプ前政権で承認している。同じことをガザでもやれば一応アメリカ所有に近くなる。こういう「奇手」を繰り出す可能性はあるだろう。

(イスラエルとガザ地区)

 トランプによれば、ガザの住民がそこに居続けるのは他に行く場所がないからだという。だから周辺のアラブ諸国が責任を持ってガザ地区住民を受け容れろという暴論になる。もちろん戦火を避けて避難した住民もいるだろうし、自由に移動出来ればもっと多くの人が国外に避難したかもしれない。(エジプトのシーシ政権は、最大の政敵であるムスリム同胞団が組織するハマスの流入を恐れてエジプトへの避難を制限してきた。)だけど最も基本的には、ガザ地区の住民が瓦礫の中に住み続けているのは、「ガザが生まれ育った故郷」だからだろう。そしてガザ住民はガザ地区に住み続ける権利を持っている

 ガザ地区住民を全員追放するのは、もちろん許されない国際法違反である。だから、その後は政権内で少しトーンダウンした発言も見られるようだ。だがガザ地区住民は「移民」ではない。もとから住んでいた人々である。イスラエルのユダヤ人の方が、後から移住してきた人々ではないか。だから「ガザ地区住民を全員移住させる」ことが可能なのならば、論理上「イスラエル国民を欧米に全員移住させる」ことも可能になるはずだ。(現実性の問題ではなく、「全員移住」の論理の問題として。)

 もちろん周辺アラブ諸国は、このトランプ案に賛同することは出来ない。トランプはもしかして「本気」で発言していて、これで中東に平和をもたらしノーベル平和賞を取るグッドアイディアだと思っているかもしれないが。だけど、アラブ諸国といえど本気でアメリカの「暴君」と事を構えることが出来るだろうか。賛成すれば国内で大反発を受け政権基盤が危うくなる。だが、どうせ出来るかも判らないトランプ案に真っ向から反対して、高率関税でも掛けられたら大変だ。

 「王様は裸だ」と誰もが口をつぐむ中で、本人だけが「俺様のアイディア凄いだろ」とはしゃぐ。当面そういうことが多くなると思う。トランプ流には「人権への配慮」「国際法への配慮」がない。ここまでやるなら、国連だって脱退すれば良いようなものだが、安保理で拒否権を持っている特権があるから、それはない。逆にロシアがやってることをアメリカもやって何が悪いと言うだろう。マッキンリー改名問題の時にちょっと書いて置いたが、この人は「古典的帝国主義者」なのではないかと思う。

 僕が書いても何が変わるわけでもないが、どうせ夢みたいなことをぶち上げてると放っておくんじゃなく、世界中の皆で批判の声を挙げないといけない。ロシアならまだしも、日本だけでなく世界中の国でアメリカとの経済関係を絶つわけにはいかない。従って「アメリカに経済制裁を科す」ということは不可能だ。だが政府には不可能でも、ひとりひとりの個人で「出来る限りアメリカの会社と縁を切る」(アメリカ株に投資しない、アメリカ製の食品・飲料などを買わないなど)必要もあるかもしれない。(だけど、アメリカ映画を見ないわけにもいかないしなあ。)


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