尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「維新」的発想=「中間組織の排除」がもたらすものー「維新」考②

2024年09月25日 22時23分25秒 | 政治
 「維新考」は何回か予定しているが、まずは2回で止めて断続的に続ける予定。今回は7月に刊行された吉弘憲介検証大阪維新の会ー「財政ポピュリズム」の正体』(ちくま新書)を読んで思ったことを書きたい。著者の吉弘氏は財政学、地方財政論が専門の桃山大学経済学部教授。この本では主要政策や支持者の分析を行った後、「維新の会は「小さな政府」か」「「維新は大坂を豊かにした」は本当か」などを実証的に検証している。支持者が必ずしもカジノや万博は支持していない調査結果も示している。そして「小さな政府」を指向しているようなイメージがあるが、案外そうでもない現実が提示されている。

 それらは興味深いのだが、関心がある人は本書で見て貰うとして、この本を読んでなるほどと思ったことを書いてみたい。「維新」は2008年2月に大阪府知事に当選した橋下徹氏が府議会自民党会派と対立を深め、2010年4月に松井一郎氏ら府議6人と「大阪維新の会」を結成して誕生した。それ以来、当初は「橋下・松井」の「2トップ」を売りにしていたわけだが、両者ともに今は政界を引退している。それは「大阪都構想」が二度にわたり大阪市の住民投票で否決されたことがきっかけだった。この意味でも大阪市民が「維新」を完全に信認しているわけじゃないことが判る。
(創設者の橋下徹氏=2012年衆院選)
 一方で、自民党はもちろん、立憲民主党のリーダー層にも長年見てきた顔が多い。公明党や共産党も同様なのに、「維新」だけは結党時のリーダーが引退し、より若い吉村洋文大阪府知事(2014~15に衆議院議員、15~19、大阪市長、19~大阪府知事)が次のリーダーとなった。1975年生まれの吉村氏は2024年現在49歳なのである。こうして、維新には「新しいリーダー」を擁する清新な政党というイメージが生まれたわけである。しかし、「維新」は民主党政権時代に野党の安倍晋三元首相に接近し、やがて安倍政権復活によって「大阪・関西万博」やIR法案(カジノ)に政権の支持を得た。そして最大の大型公共事業とも言える万博を、都構想敗北後の「目玉」にする「古い発想の党」というもう一つの顔がある。

 同時に、主要な政策として「身を切る改革」を掲げて議会の定数削減などを進めて来た。2011年までは109議席だったものが、一挙に88議席に削減、さらに2022年には79議席に削減された。まさに公約を実行してきたかに見えるが、地方の議会選挙は定数1人と複数定数が混合している。2人から1人になった選挙区では維新しか当選しない。共産党や民主党系は複数区の下位じゃないと当選が難しく、定数削減により府議会は「維新」が圧倒的になるわけである。
(松井一郎大阪市長=2022年参院選)
 このような発想のもとには「中間的組織」を敵視する発想があるという。中間的組織には業界団体や職能組織があり、自民党の票田、資金源でもある。そういう組織が票や金と引き換えに「利権」を得てきたと考えるわけである。そこで自民党の政治のあり方に反発する「改革政党」的イメージが生まれる。だが同時に野党を支持する労働組合市民運動も同列の組織として排除される。労働者の「団結権」や一般市民の「表現の自由」を尊重するという発想が浮かばないのである。それらも「行政トップ」が推進する正しい政策を妨害する「抵抗組織」とみなされるわけである。

 恐らく「議会」や「役所」さえ、余計なものに見えているかもしれない。自分たちの正しい政策が途中で妨害されずに住民に直接届けば、それが最も望ましいわけである。これは言ってみれば「政治の産地直送」とでも言うべき発想だ。この間、日本では高齢化、少子化が予想を越えて進行してきた。社会の担い手がどんどん減っていく中で、増税することなく社会を維持し一定の行政サービスを行っていくためには、出来る限り「中間的組織」を排除して、安く仕入れる工夫をするしかない。このような日本を覆う危機への対処が「身を切る改革」なんだろう。そしてそれは一定の支持を得てきた。
(吉村洋文し大阪府知事=2023年統一地方選)
 その結果、「公務員削減」が実行される。市民病院や市営地下鉄の民営化などもあるが、「維新」政権下で正規の公務員が減り、代わりに2008年~2019年までの12年間で、市全体の非常勤職員は1845人から4924人と2.66倍に増えているという。区役所窓口や証明書発行から生活保護の受給相談まで非正規職員が担っているという。これは「団塊の世代」が定年を迎えた後、後任に正規職員を配置しなかったことが多いんだろうと思う。だが「公務員」はその職務内容上、地元自治体(または隣接自治体)に長年居住することが多い。そしてそこで自分の生活を営むとともに、育児や介護に従事してきた。

 そのような地元を支える「消費者」から、身分が安定しない非正規職員に代わる。人件費自体は削減されるだろうが、同時にそれは地元の経済にマイナスになるのである。そして「派遣社員」を公開入札で決めるとなると、東京に本社がある大手人材派遣会社が採用されることが多くなる。つまり、正規職員という安定した地元経済の担い手を減らして、東京一極集中を後押ししてきたわけである。またマジメな大学生、高校生の就職先としての公務員を減らせば、民間企業に行くしかないが、民間では転勤がある。(もちろん公務員にも転勤はあるが、自治体内部に限られる。)そして有能な人材が地元から逃げてしまうのである。

 橋下氏のもとで、かつて文楽協会への補助金停止、大阪市民楽団解散などの措置が問題になった。「文化」への投資をしないとなると、「文化」を求める若い世代はますます東京を目指すしかなくなる。また学校でマジメに勉強して地元の公務員を目指すという進路目標がなくなってしまえば、公立学校の役割も大きく変わってしまう。こうして、「身を切る改革」がかえって大阪を貧窮化してしまうという「合成の誤謬」が起きるわけである。

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