クレール・ドゥニ監督『美しき仕事』(1999)という映画が4K版で日本初公開された。しかし、上映時間が夕方しかないので困ったなと思ってるうちに渋谷のロードショーが終わってしまった。柏のキネマ旬報シアターでその映画を一週間だけ上映しているので、見に行ってきた。イギリスの映画雑誌「サイト&サウンド」が10年おきに「世界映画ベストテン」を選んでいるが、最新の2022年版でなんと7位に選出されている。『東京物語』が4位、『2001年宇宙の旅』が6位である。(詳しくは『世界映画ベスト100、2022年版の結果はどうなったか』参照。)一体どんな映画なんだか気になるじゃないか。
2022年版の世界映画ベストワンは女性監督シャンタル・アケルマン作品が選ばれた。世界的に「映画と女性」をめぐって再発見が行われている。クレール・ドゥニもフランスを代表する孤高のアート系女性監督である。それは大切な視点だと思うけれど、『美しき仕事』(Beau Travail)は僕には全く理解できないタイプの映画だった。そもそも「美しき仕事」とは、ジブチにあるフランスの「外人部隊」のことなのである。もっとも戦闘シーンは出て来ない。ひたすら美しい映像で撮影された「(上半身裸体の)男たち」のトレーニングが続く。その中で「男の嫉妬」が起きてくる。そんな映画なのに驚いた。
女性が裸体を披露し、「男からの受け」をめぐって相争うという娼婦やストリッパーの映画はかなり存在する。男社会である「軍隊」の汗にまみれた訓練風景に「萌える」女性というのも、かなり存在するらしい。この映画は男女の視点を逆転させた映画なんだろうか。アフリカで育ちカメルーンで撮った映画でデビューしたクレール・ドゥニ監督は、アフリカにフランス軍が存在することそのものを問う視点はないようである。ジブチの海や砂漠がこんなに美しく撮られているのに、部隊内部には嫉妬が存在する。「美しき仕事」は反語なんだろうか。いや、ここでの訓練シーンには官能的な美意識が明らかに見えている。
主演するのは上級曹長を演じるドニ・ラヴァンである。レオス・カラックスの『ポンヌフの恋人』や『ホーリー・モーターズ』で主演した人である。上級曹長は上司に憧れる一方で、人望のある新兵を陥れる。こんなことをするヤツがいるのかという感じだが、そのことで自分も外人部隊での地位を失い本国送還、軍法会議となる。そして、今過去を回顧している。訓練風景は男どうしがぶつかり合うという、何か相撲部屋の猛稽古みたいなものである。「身体性」に注目し、しかも女性監督の目で作られた映画。興味深くはある。世界で再評価されるのも理解はできる。
軍隊の訓練を描く映画としては、山本嘉次郎『ハワイ・マレー沖海戦』やスタンリー・キューブリック『フルメタル・ジャケット』、ロバート・アルトマン『ストリーマーズ』などがある。それらは戦意高揚、または反軍意識のもとで作られた。しかし、「外人部隊」は軍隊としては異例な存在なので、ナショナリズムを植え付けるような訓練は行わない。戦前のフランス映画『外人部隊』や『モロッコ』などでも同様。しかし、「外人部隊」もフランス軍の一部であり、むしろフランス軍が行けないようなところに行かされる暴力装置である。フランスは植民地を今もたくさん所有し、植民地主義の清算が遅れている。その問題意識がこの映画にはないのが難点だ。
(クレール・ドゥニ監督)
クレール・ドゥニ(Claire Denis、1946~)は1988年の『ショコラ』でデビュー。フランス映画の女性監督としては、アニエス・ヴァルダなどを継ぐ世代として映画を撮り続けてきた。『パリ、18区、夜。』(1994)で評価された。その後『ネネットとボニ』(1996)、『ガーゴイル』(2001)などは公開されたが見ていない。その後は映画祭や特集上映などで上映されても正式公開される新作が少ない。そのため僕には評価する材料がないのだが、映像の素晴らしさは魅力的だった。ジブチはこんなところかとも思った。あまり見る機会もないと思うけど、一応紹介。
2022年版の世界映画ベストワンは女性監督シャンタル・アケルマン作品が選ばれた。世界的に「映画と女性」をめぐって再発見が行われている。クレール・ドゥニもフランスを代表する孤高のアート系女性監督である。それは大切な視点だと思うけれど、『美しき仕事』(Beau Travail)は僕には全く理解できないタイプの映画だった。そもそも「美しき仕事」とは、ジブチにあるフランスの「外人部隊」のことなのである。もっとも戦闘シーンは出て来ない。ひたすら美しい映像で撮影された「(上半身裸体の)男たち」のトレーニングが続く。その中で「男の嫉妬」が起きてくる。そんな映画なのに驚いた。
女性が裸体を披露し、「男からの受け」をめぐって相争うという娼婦やストリッパーの映画はかなり存在する。男社会である「軍隊」の汗にまみれた訓練風景に「萌える」女性というのも、かなり存在するらしい。この映画は男女の視点を逆転させた映画なんだろうか。アフリカで育ちカメルーンで撮った映画でデビューしたクレール・ドゥニ監督は、アフリカにフランス軍が存在することそのものを問う視点はないようである。ジブチの海や砂漠がこんなに美しく撮られているのに、部隊内部には嫉妬が存在する。「美しき仕事」は反語なんだろうか。いや、ここでの訓練シーンには官能的な美意識が明らかに見えている。
主演するのは上級曹長を演じるドニ・ラヴァンである。レオス・カラックスの『ポンヌフの恋人』や『ホーリー・モーターズ』で主演した人である。上級曹長は上司に憧れる一方で、人望のある新兵を陥れる。こんなことをするヤツがいるのかという感じだが、そのことで自分も外人部隊での地位を失い本国送還、軍法会議となる。そして、今過去を回顧している。訓練風景は男どうしがぶつかり合うという、何か相撲部屋の猛稽古みたいなものである。「身体性」に注目し、しかも女性監督の目で作られた映画。興味深くはある。世界で再評価されるのも理解はできる。
軍隊の訓練を描く映画としては、山本嘉次郎『ハワイ・マレー沖海戦』やスタンリー・キューブリック『フルメタル・ジャケット』、ロバート・アルトマン『ストリーマーズ』などがある。それらは戦意高揚、または反軍意識のもとで作られた。しかし、「外人部隊」は軍隊としては異例な存在なので、ナショナリズムを植え付けるような訓練は行わない。戦前のフランス映画『外人部隊』や『モロッコ』などでも同様。しかし、「外人部隊」もフランス軍の一部であり、むしろフランス軍が行けないようなところに行かされる暴力装置である。フランスは植民地を今もたくさん所有し、植民地主義の清算が遅れている。その問題意識がこの映画にはないのが難点だ。
(クレール・ドゥニ監督)
クレール・ドゥニ(Claire Denis、1946~)は1988年の『ショコラ』でデビュー。フランス映画の女性監督としては、アニエス・ヴァルダなどを継ぐ世代として映画を撮り続けてきた。『パリ、18区、夜。』(1994)で評価された。その後『ネネットとボニ』(1996)、『ガーゴイル』(2001)などは公開されたが見ていない。その後は映画祭や特集上映などで上映されても正式公開される新作が少ない。そのため僕には評価する材料がないのだが、映像の素晴らしさは魅力的だった。ジブチはこんなところかとも思った。あまり見る機会もないと思うけど、一応紹介。
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