「3.11」1周年が近づき、読んだり見たりもしてるので書きたい気持ちもあるけど、ちょっと違うものに触れたい気持ちもあって。それでこの一年断続的に読んできたアガサ・クリスティの「トミー&タペンス」ものの最終、「運命の裏木戸」を読んでます。
アガサ・クリスティはミステリーを読まない人でも少しは読んでる、ミステリー初心者が最初に読むような人ですね。僕も若い時にいくつか読んでます。有名な探偵である「灰色の脳細胞」を持つベルギー人、エルキュール・ポアロはテレビドラマにもなってるから見た人も多いでしょう。ポアロものはハヤカワのクリスティ文庫で34冊もあります。しかし、「アクロイド殺し」や「オリエント急行の殺人」とか、あまりにも有名で若い時に読んだけど、この誰にも真似できない「一発芸」にちょっと驚き、はっきり言うとフェアではない感じもして、なんかあまり読んでないまま今まできました。
クリスティの名探偵にはもう一人、イギリスの村の編み物とゴシップ好きの老婦人が村の難事件を解決する「ミス・マープル」がいます。元祖「おひとりさま」の「アームチェア探偵」として、今はこの人の方が人気があるかも。そして案外知らない人が多いと思うけど、もう一組シリーズ・キャラクターがあって、それが「トミーとタペンス」です。でも長編4冊と短編集1冊しかないというミニ・シリーズです。ただ、それらの5作品はクリスティの31歳から83歳まで書き継がれました。主人公の二人も50年近く一緒に年を取って行きました。
トミーは「トマス・ペレスフォード」、タペンスは愛称で「プルーデンス・カウリー」。第一次世界大戦に従軍したトミーは復員して求職中。牧師の娘で戦争中は病室メイドをしていたタペンス。二人の幼なじみが地下鉄で再会、お金に困っていた二人は「青年冒険家商会」を結成することに。そして謎に満ちた事件に巻き込まれていく。これがクリスティ第2作の「秘密機関」(1922)。若い時期のユーモア青春スパイ小説という感じ。
この事件を機に二人は結婚、探偵事務所を開くとあやしげな事件が続々と。これを様々な名探偵の方法を生かして解決していくという短編集「おしどり探偵」(1929)。これはパロディ・ミステリーです。「事務所」の受付係アルバートも事件解決に一役買い、以後ずっと協力していきます。
その後はしばらく書かれず、二人はどうしてますというファンの声も寄せられたそうですが、第二次世界大戦とともに、この二人にも役割が与えられます。ドイツのスパイを探りだすという国家の要請にこたえる「NかMか」(1941)。これはクリスティのスパイ小説の最高傑作です。ミステリーとしても面白いけど、最初はトミーだけの仕事に子供二人がいるタペンスがいかに関わっていくか、そこが最高に面白い。このシリーズでは、女性のタペンスが常に積極的に謎の中に飛び込んでいくという趣向になっています。
ここで終わらず、老境に達した二人が老人ホームや村の生活で謎にぶつかる「親指のうずき」(1968)、「運命の裏木戸」(1973)が書かれます。二人は最後には75歳。それでも謎があると駆けずりまわるという高齢化時代先取りの小説です。40年ほど前のイギリスですが、福祉や暮らしに対するボヤキや意見が面白いです。最後の作品には「ハンニバル」という愛犬が登場して重要な役を演じます。(いや、「羊たちの沈黙」以来、ハンニバルはレクター博士ばかり思い出させるネーミングになってしまったけど、それ以前にクリスティは犬の名前にしてたわけ。)どこでも犬は同じだなと感じる描写が面白いです。掃除機を「不倶戴天の敵」と思ってほえかかるとか。(これは昔うちで飼ってた愛犬も全く同じ。)
ということで、どっちかというと、若い時は戦争を背景にした「愛国的ユーモア小説」の感じが強いですね。でも最後は老夫婦小説の趣で、ミス・マープルものと並び今後受けるんじゃないかと思います。いくつになっても好奇心旺盛で謎に立ち向かうタペンスという女性。最初は懐疑的ながら、結局妻を支えて一緒に解決していくトミー。ミステリーとしては大味な所が多く、なんだか能天気な小説なんですが、謎の解決やスリリングな展開ではなく、主人公カップルと一緒に謎に悩み、一緒に年取っていく小説。こんなのもいいのではないかと思う今日この頃。いや、純文学やお勉強本ばかりでは疲れる時は、こういうミステリーもあるといいなと思うわけ。
なお、クリスティにはノン・シリーズに傑作があって、もちろん有名な「そして誰もいなくなった」が最高傑作。あと「ゼロ時間へ」という小説がとてもいいと思います。映画にもなった「ナイルに死す」はミステリーファンだとトリックが判るかもしれないけど、小説としての読みごたえはあります。
アガサ・クリスティはミステリーを読まない人でも少しは読んでる、ミステリー初心者が最初に読むような人ですね。僕も若い時にいくつか読んでます。有名な探偵である「灰色の脳細胞」を持つベルギー人、エルキュール・ポアロはテレビドラマにもなってるから見た人も多いでしょう。ポアロものはハヤカワのクリスティ文庫で34冊もあります。しかし、「アクロイド殺し」や「オリエント急行の殺人」とか、あまりにも有名で若い時に読んだけど、この誰にも真似できない「一発芸」にちょっと驚き、はっきり言うとフェアではない感じもして、なんかあまり読んでないまま今まできました。
クリスティの名探偵にはもう一人、イギリスの村の編み物とゴシップ好きの老婦人が村の難事件を解決する「ミス・マープル」がいます。元祖「おひとりさま」の「アームチェア探偵」として、今はこの人の方が人気があるかも。そして案外知らない人が多いと思うけど、もう一組シリーズ・キャラクターがあって、それが「トミーとタペンス」です。でも長編4冊と短編集1冊しかないというミニ・シリーズです。ただ、それらの5作品はクリスティの31歳から83歳まで書き継がれました。主人公の二人も50年近く一緒に年を取って行きました。
トミーは「トマス・ペレスフォード」、タペンスは愛称で「プルーデンス・カウリー」。第一次世界大戦に従軍したトミーは復員して求職中。牧師の娘で戦争中は病室メイドをしていたタペンス。二人の幼なじみが地下鉄で再会、お金に困っていた二人は「青年冒険家商会」を結成することに。そして謎に満ちた事件に巻き込まれていく。これがクリスティ第2作の「秘密機関」(1922)。若い時期のユーモア青春スパイ小説という感じ。
この事件を機に二人は結婚、探偵事務所を開くとあやしげな事件が続々と。これを様々な名探偵の方法を生かして解決していくという短編集「おしどり探偵」(1929)。これはパロディ・ミステリーです。「事務所」の受付係アルバートも事件解決に一役買い、以後ずっと協力していきます。
その後はしばらく書かれず、二人はどうしてますというファンの声も寄せられたそうですが、第二次世界大戦とともに、この二人にも役割が与えられます。ドイツのスパイを探りだすという国家の要請にこたえる「NかMか」(1941)。これはクリスティのスパイ小説の最高傑作です。ミステリーとしても面白いけど、最初はトミーだけの仕事に子供二人がいるタペンスがいかに関わっていくか、そこが最高に面白い。このシリーズでは、女性のタペンスが常に積極的に謎の中に飛び込んでいくという趣向になっています。
ここで終わらず、老境に達した二人が老人ホームや村の生活で謎にぶつかる「親指のうずき」(1968)、「運命の裏木戸」(1973)が書かれます。二人は最後には75歳。それでも謎があると駆けずりまわるという高齢化時代先取りの小説です。40年ほど前のイギリスですが、福祉や暮らしに対するボヤキや意見が面白いです。最後の作品には「ハンニバル」という愛犬が登場して重要な役を演じます。(いや、「羊たちの沈黙」以来、ハンニバルはレクター博士ばかり思い出させるネーミングになってしまったけど、それ以前にクリスティは犬の名前にしてたわけ。)どこでも犬は同じだなと感じる描写が面白いです。掃除機を「不倶戴天の敵」と思ってほえかかるとか。(これは昔うちで飼ってた愛犬も全く同じ。)
ということで、どっちかというと、若い時は戦争を背景にした「愛国的ユーモア小説」の感じが強いですね。でも最後は老夫婦小説の趣で、ミス・マープルものと並び今後受けるんじゃないかと思います。いくつになっても好奇心旺盛で謎に立ち向かうタペンスという女性。最初は懐疑的ながら、結局妻を支えて一緒に解決していくトミー。ミステリーとしては大味な所が多く、なんだか能天気な小説なんですが、謎の解決やスリリングな展開ではなく、主人公カップルと一緒に謎に悩み、一緒に年取っていく小説。こんなのもいいのではないかと思う今日この頃。いや、純文学やお勉強本ばかりでは疲れる時は、こういうミステリーもあるといいなと思うわけ。
なお、クリスティにはノン・シリーズに傑作があって、もちろん有名な「そして誰もいなくなった」が最高傑作。あと「ゼロ時間へ」という小説がとてもいいと思います。映画にもなった「ナイルに死す」はミステリーファンだとトリックが判るかもしれないけど、小説としての読みごたえはあります。
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