尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

築地本願寺をめぐるー築地散歩②

2024年11月04日 21時46分31秒 | 東京関東散歩

 築地という地名は読んで字の如く「土地を築く」という意味で、まあ埋め立て地のことである。時代は江戸初期、明暦の大火で焼失した浅草の本願寺の再建場所として、幕府から与えられた代替地だった。佃島の門徒が造成を担当したという。その後寺町として発展し、また大名屋敷も多かった。ということで、築地と言えば成り立ちからしても本願寺なのである。なお、今も浅草(地下鉄田原町近く)に本願寺があって、浅草浄苑という霊園のCMで知られる。あっちは東本願寺で、築地は西本願寺。 

   (歩道橋の上から)

 地下鉄築地駅を出れば、もう目の前に築地本願寺の偉容が広がる。なかなか写真では魅力が伝えられない。そのぐらい独特で、忘れがたい姿をしている。何枚写真を撮ってもよく撮れたという満足感がない。今は外国人客が多く、人が入らないように撮るのが難しいということもある。階段を登って中を見ることが可能。無料のお寺では珍しいが、写真を撮ることは憚られる雰囲気。いつも法会を行っていて、その日に申し込むことも出来る。お坊さんに様々なことを相談出来る「僧談」申し込みコーナーもある。ネットで写真を探すと、以下のような感じ。椅子席である。ニコライ堂の内部見学は有料だから、ここは貴重。

  

 東京の建造物は大体関東大震災で焼失したところが多い。築地本願寺もその一つで、現在の本堂は1931年に竣工して、1934年に完成した。まだ100年は経っていないが、2014年に重要文化財に指定されている。日本の寺院と言えば、どうしても中国風を思い浮かべて、それが通念になっている。でも築地本願寺だけが違うのである。これは「古代インド風」なのである。設計したのは伊東忠太で、当時は東京帝大名誉教授だった。本願寺派法主で探検家としても有名な大谷光瑞と知り合いで依頼された。

   (重要文化財指定)

 伊東忠太(1867~1954)は建築界で初めて文化勲章を受けた人で、現時点で重要文化財に5つが指定されている。他は橿原神宮平安神宮本願寺伝道院(建築当時は真宗信徒生命保険本館)、伊賀上野にある芭蕉記念の「俳聖殿」。明治神宮の共同設計者でもあり、武田神社、弥彦神社、上杉神社、靖国神社遊就館などの設計もしていて、近代神社建築の第一人者だった。現存しない台湾神宮、朝鮮神宮、樺太神社なども設計していて、まさに「帝国の建築家」というべき存在である。

 築地本願寺は当時としては珍しい鉄筋コンクリート建築で、インドの仏塔(ストゥーパ)風の塔屋を持っている。仏教は本来インド発祥だから、外観は古代インド風を取り入れたわけである。当初は異様だったと思うが、今となってはなじんでいる。歴史的な観光寺院を別にすれば、見ていて一番見ごたえがある寺じゃないか。しかも、この寺は今も多くの人を受け入れている。2017年にはインフォメーションセンターと合同墓が作られた。前者にはカフェが併設され、いつも賑わっている。あんまり並んでるので、まだ入ってないけど、実は本堂右手奥にある「伝道会館」でも食事が出来る。オシャレ度では劣るが、こっちで十分。

(カフェ)(第一伝道会館)

 境内にはいろんな碑があるが、あまり知られてない。下の写真で順番に、都旧跡の「土生玄碩」(はぶ・げんせき)の墓で、19世紀前半の眼科医。国禁を侵して開瞳術を施した西洋眼科の始祖だという。次が「酒井抱一」(1761~1829)の墓。姫路藩酒井家の次男に生まれ、画家・俳人として知られた人である。江戸琳派の祖とされる。次は九条武子の碑。大谷家に生まれ、九条侯爵家に嫁いだ。歌人として知られ、また「大正三美人」とうたわれた。慈善活動でも知られ、仏教婦人会を組織した。震災孤児の支援や築地本願寺再建に尽力したが、完成を見ずに1928年に亡くなった。最後が親鸞聖人の像。

   

 碑はもっと多いんだけど、余り載せても大変だから省略する。つまり史蹟指定などはない碑である。築地本願寺はプロがじっくり写真を撮れば、とても面白いところだと思う。今回何度か行ったけど(見つからない碑があって、探し回ったため)、一番最初に行った晴れた日の夕方の本堂を最後に数枚載せておく。

   

 荘厳な感じがうかがえる。ものすごくたくさん来ている外国人観光客は何を感じるんだろうか。ここは「日本美」じゃないんだけど、理解出来ているんかな。築地場外市場の方も行ったけど、時間もなくてちゃんと見なかった。人が多すぎるのもあるし、マーケットなら「アメ横」の方が近くていいなと思った。それにしても、聖路加周辺の碑を探し歩き、本願寺でお茶して場外市場へ回るというのは、東京の半日散歩としては充実したコースなんじゃないかと思った。


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