尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

あってはならない「内奏」の政治利用

2019年05月25日 22時59分11秒 | 政治
 天皇に対して首相などが面会して国政の報告を行うことを「内奏」と呼んでいる。憲法で規定されたものではなく、法的根拠はない。帝国憲法時からの慣例で「内奏」と呼ばれているが、天皇は国政に関する権能を持たないから、「内々にたてまつる」というのは本来おかしい。天皇には国会や外交などの国事行為があるので、国政報告を一概に否定できないとも考えられる。しかし実際に会って話せば、天皇の意向(らしきもの)が首相に伝わることもあり得るので、行き過ぎると「国民主権」に反する。何にしても微妙な問題をはらむので、今まで政治家の側もあまり触れなかった。

 時には内奏に触れた大臣もいないではなかったけれど、そういう大臣は批判された。特に天皇の発言をもらした増原恵吉防衛庁長官(当時)は辞任に追い込まれた(1973年)。左右両極どっちからも批判される可能性があるわけで、天皇との関わりを公にする首相も少なかった。そもそも「内奏」がどう行われているかもよく判らなかった。初めて「内奏」の写真が公表されたのは、2013年10月に行われた安倍首相の「内奏」である。そして2回目が安倍首相による新天皇に対する5月14日の「内奏」である。もう左翼も右翼もなくなっているということかもしれないが、天皇即位から2週間、あまりにも早い「内奏写真公表」は「天皇の政治利用」そのものじゃないんだろうか。
 (安倍首相による新天皇への「内奏」)
 もっとも「内奏」の内容はもらしていない。だからいいじゃないかと思ってるんだろうが。だからこそ「自己宣伝色」を感じ取ってしまう。この「内奏」に関しては、16日付けの毎日新聞が「関係者によると,首相は『前の天皇陛下はいつも座ったままだったが,今の陛下は部屋のドアまで送って下さって大変恐縮した』と話した。」と報道したという。僕は知らなかったが、宮内庁のホームページに反論が掲載されている。(「天皇陛下に対する総理内奏に関する記事について」5月22日)

 一部を引用すると、「総理の内奏は,天皇陛下と総理二人だけの行事であり,他に同席する者はなく,その内容も室内の様子も外からは分かりませんが,「前の天皇陛下」すなわち上皇陛下が,座ったまま総理をお見送りになることはあり得ません。上皇陛下は,行事に際し,宮内庁職員に対しても必ず席を立って挨拶をお受けになっており,外から来られた方を座ったまま出迎え,見送られた例は,相手が誰であれ一度もなかったと思います。」「この度の記事は,上皇陛下が座ったままお見送りになったとの総理発言を内容とするもので,上皇陛下のこれまでの人々へのご対応とは大きく異なるものであるため,宮内庁は,官邸に記事内容の事実確認を求めましたが,総理は記事にあるような発言はしていないという回答でした。」といった内容がアップされている。

 「結果として,総理発言に基づかない上皇陛下への非礼となる内容」だと宮内庁は毎日新聞を非難している。別にまあどうでもいいような話だと思うが、「内奏」はこのように政治家として神経質に対応するべき問題だった。前天皇は高齢だったから、安倍首相だって座ったままで結構ですと言ってたのかもしれない。それが天皇も若返って、久しぶりに見送ってもらって「恐縮した」といった程度の話じゃないかなと思う。その問題自体は大したものじゃないと思うが、もともと「内奏」写真を公表した時点で「人気取り」を否定できないと思う。

 もともと「左翼」はフランス革命時の反国王勢力を指すわけで、社会主義者じゃなくても「反君主制」である。だから国民主権をないがしろにする「内奏」には批判的スタンスとなる。一方、「右翼」は「王政派」を指したわけで、日本では天皇絶対主義者となる。その立場からも、政治家が天皇を利用して人気を得ようというのは非常な「不敬行為」となる。今じゃ「左翼」は議会内に絶滅した感じだし、安倍首相は反対派を「論破」できると思い込んでいるタイプらしいから気にしてないだろう。しかし今まで安倍首相は「右派」だと思われ、右翼勢力に配慮しているかに思われていた。だけど、よく見ると「伝統的右翼」も弱体化しているのかもしれない。右翼なら、内奏写真発表やトランプ歓迎を非難するはずだから。

 天皇システムに関して多くの人が様々なことを語っている。僕にも考えがないわけじゃないが、何回も書くのが面倒で先延ばししている。ただ注意していないといけないのは、「天皇の政治利用」と「宗教的な天皇制への強制的同化」だと思っている。細かい問題だけど、「内奏」問題を書いたのはそういう理由からで、本来はマスコミや野党がもっと批判して欲しいことだ。
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