2015年の「ノーベル医学・生理学賞」(この呼称については後述)を受賞した北里大学特別栄誉教授の大村智博士という人は、現代日本には稀な巨大なる偉人だと思う。多くの人がそう思ってるだろうが、改めて書いておきたい。その授賞理由に挙げられた「イベルメクチン」による「オンコセルカ症」(河川盲目症)治療については、一年に2億とも3億とも言われる人々の役立っているという。オンコセルカ症は2025年までに、またリンパ系フィラリア(象皮症)は2020年までに、「公衆衛生上の問題ではなくなる」と大村博士はノーベル賞講演会で述べた。このイベルメクチン投与療法が始まって25年を記念して、北里大学には彫刻が建てられている。ということで、過日彫刻を見に行ってみた。
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この彫刻は2005年に建てられたもので、台座の文章を見ると「アベルメクチン」と表記されている。ウィキペディアによると、アフリカのブルキナファソの彫刻家による「オンコセルカ症の大人を導く子供の像」である。同様の彫刻が、WHOやブルキナファソにあるWHOオンコセルカ症制圧プログラム、製薬会社のメルク社などに建てられているそうだ。北里大学はどこにあるか僕も知らなかったけど、東京都港区の白金にある。地下鉄白金高輪から徒歩15分くらい。あるいは渋谷と田町を結ぶバスが大学前に停まる。今、大学は工事をしていたが、交番の横を曲がっていくのが一番この彫刻には近いと思う。大学前の壁には大きく受賞の幕が掲げられ、道にも受賞を喜ぶ垂れ幕が下がっていた。
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日本人2氏ノーベル賞のニュースを聞いたのは、函館の旅行中だった。特に大村博士のニュースは、当初は北里大学から中継していたが、その後「大村氏に関係した美術館から中継します」と変わった。いやあ、この大村さんという人は、なんと美術館を建ててしまったのだとか。次の日の新聞を見たら、そこには温泉もあるんだとか。(「韮崎大村美術館」と「武田乃里 白山温泉」のサイト参照。ちなみにこの温泉は源泉掛け流しの日帰り温泉で、なんと蕎麦屋まで出来ている。)さらに、大学院に行く前は都立の定時制高校の教諭(都立墨田工業)だったという。驚くような話がどんどん伝わってきた。
僕はこの大村智という人を知らなかった。知ってましたか?知ってても全然不思議ではなかった。何故ならば、2012年の文化功労者に選ばれていたから。あるいは、2014年度の朝日賞にも選ばれていたから。さらにちょうど一年ほど前の東京新聞に大きく報道されていたから。これを全部読み逃したとは思えない。たぶん読んで、その時はすごい学者がいると思っても、そこで忘れてしまったのだろう。そういう記事はエライ学者の紹介というトーンだし、美術への貢献はほとんど触れていない。アフリカでどんなに多くの人々を救って来たかという関心も伝わらない。こういう他分野の人の業績は新聞やテレビが伝えないと、なかなか僕たちは知らないことになる。でも、国際、科学、文化、社会などマスコミでも多くの分野にまたがって活躍した人は、なかなか全体像を伝えにくいんだろうと思う。
今、美術への貢献と書いたけど、これは単に美術館を開いたというだけの事ではない。特に「女性画家」に関心を持ち、女子美術大学の理事長を2期務めている。さらに病院にも多くの絵を飾っているとのことで、単に特許料が入ったから絵のコレクターになったと言うだけでは済まない情熱ぶりである。もともと山梨大学の学生時代はスキー部と卓球部の主将で、国体選手。墨田工業定時制教諭時代も、卓球部を都大会準優勝に導いたという。「知育」「体育」「徳育」というけれど、これに「美育」がなくてはならないと昔言われた思い出がある。大村博士ほど、この「4つの力」を兼ね備えた人も珍しい。これほどの「巨人」が同時代の日本にいたことを知らなかったなんて…。
ところで、僕が一番感心してしまったのは、以上の事柄ではない。科学者として成功しながら、芸術にも深い造詣を持つという人は他にもいただろう。でも、経営が悪化していた北里大学を救うため、大学教授を辞め、北里研究所理事となり、経営学と不動産学を学び、経営基盤を作り上げたのである。この話には心底ビックリした。並みの人ではないと知りながら、これほどの事は普通できない。巨額の特許料が入れば、自分も美術館を作るかもしれないが、自ら学園の経営者になるとは思えないし、それで成功できるとも思えない。この大村智という人物は、まことにけた外れのスケールの人物のように思われてならないが、多分「運と努力」でなしとげたとご本人は言うのだろう。
ところで、この人を調べていて驚くことはさまざまあったのだが、オンコセルカ症とはつまり「フィラリア」なのである。フィラリアとは寄生虫の一種の総称で、その中にオンコセルカ症や象皮症がある。ところで、もともとイベルメクチンとは牛の寄生虫に対する薬だった。(世の中にいいことばかりはなく、イベルメクチンを与え過ぎ残留濃度が高い牛肉は規制の対象になるらしい。)その薬が十分の利益を上げたので、アフリカでの活動に関しては米メルク社が無償で配布しているわけである。ところで、フィラリアって言えば昔は犬の病気だった。昔の犬はよく病気ですぐに死んでしまった。昔飼っていた犬もフィラリアで死んだ。「犬糸状虫症」が正式名だという。最近は犬も長生きして、フィラリアで死ぬ犬なんかいないなあと思っていたのだが、それもイベルメクチンの恩恵なのだった。そうだったんだ。
さて、そもそも「定時制教員をしながら大学院へ通う」ということは、今では許されない。(通信制や出張派遣による場合は別だが。)夜しか授業がないんだから、昼は大学院へ通えば生徒のためにもなるだろうというのは、今では「職務専念義務違反」と言われてしまう。処分の対象である。そもそも、「全定併置」はよろしくないというのが都教委の考えだというのは、ちょっと前に書いた通り。三部制の教員は「朝から夕方」「昼から夜」の2タイプの勤務になるから、当然のこととして夜勤務の教員も昼間も授業がある。かくして、大村先生のような人は二度と出ない。残念ながら、今の日本では。
ところで、最初に触れた呼称の問題。朝日、毎日、東京などは「医学生理学賞」と書くけど、読売と日経は「生理学・医学賞」と書いているんだそうだ。(東京新聞12.8による。)原文をみると、“The Nobel Prize in Physiology or Medhicine"なんだそうだ。つまり訳すと「生理学」が先の方が正しい。だけど、「フィジオロジー」と言ってもよく判らない。ある種の「意訳」で「医学生理学賞」としてきたらしい。確かに日本ではこの方が判りやすいのも否めない。ここでも一応「医学生理学賞」としておく次第。
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日本人2氏ノーベル賞のニュースを聞いたのは、函館の旅行中だった。特に大村博士のニュースは、当初は北里大学から中継していたが、その後「大村氏に関係した美術館から中継します」と変わった。いやあ、この大村さんという人は、なんと美術館を建ててしまったのだとか。次の日の新聞を見たら、そこには温泉もあるんだとか。(「韮崎大村美術館」と「武田乃里 白山温泉」のサイト参照。ちなみにこの温泉は源泉掛け流しの日帰り温泉で、なんと蕎麦屋まで出来ている。)さらに、大学院に行く前は都立の定時制高校の教諭(都立墨田工業)だったという。驚くような話がどんどん伝わってきた。
僕はこの大村智という人を知らなかった。知ってましたか?知ってても全然不思議ではなかった。何故ならば、2012年の文化功労者に選ばれていたから。あるいは、2014年度の朝日賞にも選ばれていたから。さらにちょうど一年ほど前の東京新聞に大きく報道されていたから。これを全部読み逃したとは思えない。たぶん読んで、その時はすごい学者がいると思っても、そこで忘れてしまったのだろう。そういう記事はエライ学者の紹介というトーンだし、美術への貢献はほとんど触れていない。アフリカでどんなに多くの人々を救って来たかという関心も伝わらない。こういう他分野の人の業績は新聞やテレビが伝えないと、なかなか僕たちは知らないことになる。でも、国際、科学、文化、社会などマスコミでも多くの分野にまたがって活躍した人は、なかなか全体像を伝えにくいんだろうと思う。
今、美術への貢献と書いたけど、これは単に美術館を開いたというだけの事ではない。特に「女性画家」に関心を持ち、女子美術大学の理事長を2期務めている。さらに病院にも多くの絵を飾っているとのことで、単に特許料が入ったから絵のコレクターになったと言うだけでは済まない情熱ぶりである。もともと山梨大学の学生時代はスキー部と卓球部の主将で、国体選手。墨田工業定時制教諭時代も、卓球部を都大会準優勝に導いたという。「知育」「体育」「徳育」というけれど、これに「美育」がなくてはならないと昔言われた思い出がある。大村博士ほど、この「4つの力」を兼ね備えた人も珍しい。これほどの「巨人」が同時代の日本にいたことを知らなかったなんて…。
ところで、僕が一番感心してしまったのは、以上の事柄ではない。科学者として成功しながら、芸術にも深い造詣を持つという人は他にもいただろう。でも、経営が悪化していた北里大学を救うため、大学教授を辞め、北里研究所理事となり、経営学と不動産学を学び、経営基盤を作り上げたのである。この話には心底ビックリした。並みの人ではないと知りながら、これほどの事は普通できない。巨額の特許料が入れば、自分も美術館を作るかもしれないが、自ら学園の経営者になるとは思えないし、それで成功できるとも思えない。この大村智という人物は、まことにけた外れのスケールの人物のように思われてならないが、多分「運と努力」でなしとげたとご本人は言うのだろう。
ところで、この人を調べていて驚くことはさまざまあったのだが、オンコセルカ症とはつまり「フィラリア」なのである。フィラリアとは寄生虫の一種の総称で、その中にオンコセルカ症や象皮症がある。ところで、もともとイベルメクチンとは牛の寄生虫に対する薬だった。(世の中にいいことばかりはなく、イベルメクチンを与え過ぎ残留濃度が高い牛肉は規制の対象になるらしい。)その薬が十分の利益を上げたので、アフリカでの活動に関しては米メルク社が無償で配布しているわけである。ところで、フィラリアって言えば昔は犬の病気だった。昔の犬はよく病気ですぐに死んでしまった。昔飼っていた犬もフィラリアで死んだ。「犬糸状虫症」が正式名だという。最近は犬も長生きして、フィラリアで死ぬ犬なんかいないなあと思っていたのだが、それもイベルメクチンの恩恵なのだった。そうだったんだ。
さて、そもそも「定時制教員をしながら大学院へ通う」ということは、今では許されない。(通信制や出張派遣による場合は別だが。)夜しか授業がないんだから、昼は大学院へ通えば生徒のためにもなるだろうというのは、今では「職務専念義務違反」と言われてしまう。処分の対象である。そもそも、「全定併置」はよろしくないというのが都教委の考えだというのは、ちょっと前に書いた通り。三部制の教員は「朝から夕方」「昼から夜」の2タイプの勤務になるから、当然のこととして夜勤務の教員も昼間も授業がある。かくして、大村先生のような人は二度と出ない。残念ながら、今の日本では。
ところで、最初に触れた呼称の問題。朝日、毎日、東京などは「医学生理学賞」と書くけど、読売と日経は「生理学・医学賞」と書いているんだそうだ。(東京新聞12.8による。)原文をみると、“The Nobel Prize in Physiology or Medhicine"なんだそうだ。つまり訳すと「生理学」が先の方が正しい。だけど、「フィジオロジー」と言ってもよく判らない。ある種の「意訳」で「医学生理学賞」としてきたらしい。確かに日本ではこの方が判りやすいのも否めない。ここでも一応「医学生理学賞」としておく次第。