2021年4月の訃報は劇作家の
清水邦夫を別に書いた。重要な訃報は前半に集中した。まず1日に
ノーベル物理学賞受賞者の
赤崎勇が死去、92歳。
青色LEDの開発者である。鹿児島県の知覧生まれ。2014年の受賞時は名城大学特別栄誉教授だが、受賞研究は名古屋大学時代。不可能とされた
窒化ガリウム(GaN)の結晶化に成功した。僕は原子番号31の
ガリウムという元素自体を知らなかった。院生だった
天野浩、日亜化学の研究者だった
中村修二と共同受賞だったが、中村との違いも知らない。でもこれが「世紀の発明」だったことは理解出来る。

(ノーベル賞受賞時の赤崎勇)
脚本家の
橋田壽賀子が4日死去、95歳。LED発明者の名を知る人は日本以外では少ないだろう。同様に世界中で「
おしん」を見た人は多いけど、脚本を書いた人は日本以外では知らないだろう。演劇でも映画でもなく、主に
テレビドラマの脚本を書いた人として初の文化勲章を受けた。しかし、元々は映画の脚本家で
松竹初の女性社員だったが、秘書への異動を拒否して59年に退職した。1964年にTBS「
愛と死をみつめて」が大評判となった。その後の代表作は「
ただいま11人」「
となりの芝生」「
おしん」「
おんな太閤記」「
春日局」、そして「
渡る世間は鬼ばかり」(1990~2019)など。しかし、例によって見てないから書くことがない。

(橋田壽賀子)
渡邊守章が11日死去、88歳。東大仏文の教授にして、フランス演劇の演出家、翻訳家である。演劇集団円の演出家だったり、フーコーの翻訳者だったり、いろんな側面があった。しかし、専門が古典の
ラシーヌや20世紀前半に駐日大使も務めた劇作家
クローデルだったから、僕は敬して遠くから見る感じ。クローデル畢生の大作「
繻子(しゅす)の靴」を近年上演したのは知ってるが、8時間という上演時間に恐れをなして見なかった。

(渡邊守章)
訃報の小ささが解せなかったのは直木賞作家の
三好徹。3日没、90歳。60年代から80年代にかけて、ミステリー、スパイ小説、歴史小説、評伝などで多くの素晴らしい作品を書いた。読売新聞記者だったが、結核で入院中に文学に目覚め、同僚の佐野洋の影響で推理小説を書いた。1968年に「
聖少女」で
直木賞。その前に1963年に「
風塵地帯」で
日本推理作家協会賞。インドネシアの9・30事件に材を取った国際スパイ小説で、「風4部作」となる。60年代前半に書かれたスパイ小説の傑作だ。他に「天使シリーズ」「特捜検事シリーズ」など。僕は「
まむしの周六」(黒岩涙香伝)や「
革命浪人 滔天と孫文」など評伝が面白かった。「
チェ・ゲバラ伝」も読まれた。

(三好徹)
作曲家の
菊池俊輔が24日死去、89歳。名前を言われても判らない人が多いと思うが、「
ドラえもん」「
仮面ライダー」「
暴れん坊将軍」などのテーマ曲を作った人なので、誰もが一度は聞いている。テレビは「
キーハンター」「
赤いシリーズ」「
ドラゴンボール」など数多いが、映画も多い。「
女囚さそり」シリーズで
梶芽衣子が歌う「
恨み節」の作曲者なのである。「
昭和残侠伝」シリーズ、「
兄弟仁義」シリーズ、「
0課の女 赤い手錠」など東映映画で活躍した。1983年に「
誘拐報道」「
青春の門 自立篇」で日本アカデミー賞優秀音楽賞。

(菊池俊輔)
大相撲の元関脇・
麒麟児が3月1日に死去していたことが公表された。67歳。激しい突き押しで知られ、同じタイプの
富士桜との毎場所の熱戦が語り継がれている。特に1975年夏場所では、昭和天皇観戦に合わせて取り組みが組まれ、108発の突っ張りの応酬が伝説になった。三賞計11回、金星6個。引退後は北陣親方を襲名し、明るい人柄と明快な語り口の相撲解説で知られた。北の湖、二代目若乃花などと同じく昭和28年生まれの「
花のニッパチ」と言われた。

(麒麟児(右)、対富士桜戦)
元米国副大統領、駐日大使の
ウォルター・モンデールが19日に死去、93歳。1964年にミネソタ州から民主党上院議員に当選。2期務めた後、77年~81年に
カーター大統領のもとで副大統領。1984年にレーガン大統領に対抗する民主党大統領候補となったが大敗した。クリントン政権のもとで、93年から96年にかけて駐日大使。貿易摩擦問題に力振るうとともに、橋本首相と「普天間基地返還合意」をまとめた時の大使だった。

(モンデール)
英国女王エリザベスの夫、
エディンバラ公フィリップが9日死去、99歳。元々はギリシャ国王(デンマーク王家の系統)の弟の長男。ヨーロッパの王家は複雑な婚姻関係を繰り返し、ヴィクトリア女王の玄孫(ひ孫の子)として英国王位継承権を持っていた。(ウィキペディアによると、2012年2月現在、485位。)ギリシャのクーデタで亡命し、英国の海軍兵学校に入学した。訪問した王女の案内役となり、王女が好意を抱いたと言われる。海軍でキャリアを積み、47年に結婚。52年にエリザベス女王が即位して退官した。ヴィクトリア女王の夫アルバート公と違って、「
共同統治者」とは認められなかった。そのことで屈折した感情もあったとされ、たびたび「失言」が報道された。自然保護活動に熱心で、世界自然保護基金の初代総裁を務めた。

(エリザベス女王とフィリップ殿下)
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ラムゼイ・クラーク、11日死去、93歳。米国の元司法長官、弁護士。司法長官時代には公民権擁護のため重要な役割を果たした。退任後は左派系法曹人としてベトナム反戦運動にも参加した。晩年にはサダム・フセイン、ミロシェビッチ、ナチスの元収容所長、カルト教団の教祖など誰も弁護したがらない人の弁護士を務めたことで物議を醸した。最近話題となった「
シカゴ7裁判」にラムゼイ・クラークが登場人物として出てきた。
・
モンテ・ヘルマン、20日死去、91歳。米映画監督。「
断絶」「
果てなき路」など。
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レスリー・マッコーエン、20日死去、65歳。
ベイ・シティ・ローラーズのボーカル。
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ミルバ、23日死去、81歳。イタリアの歌手でサンレモ音楽祭に多数出場した。ピアソラとの共演リサイタルで名声を得た。日本でも人気があり、何度も訪日公演を行った。
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クリスタ・ルートヴィヒ、24日死去、93歳。ドイツのオペラ歌手(メゾソプラノ)。カラヤン、ベームなどの指揮でマリア・カラスなどと出演した。20世紀最高のオペラ歌手の一人と言われた。
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マイケル・コリンズ、28日死去、90歳。米国の宇宙飛行士。月に着陸したアポロ11号のメンバーで、司令船に残って月面着陸を目指す2人の飛行士を支援した。
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稗田一穂(ひえだ・かずほ)、3月23日死去、100歳。日本画家で文化功労者。
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鳥越文蔵、5日死去、89歳。早稲田大学名誉教授。近世演劇が専門で人形浄瑠璃、歌舞伎の研究で知られた。
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高島俊男、5日死去、84歳。中国文学者。週刊文春のコラム「
お言葉ですが…」で知られた。
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篠原儀治(しのはら・よしはる)、11日死去、96歳。江戸風鈴の職人。名誉都民。
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隆大介、11日死去、64歳。俳優。「無名塾」に入塾。黒澤明「
影武者」で織田信長を演じ、「乱」にも出演。
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東野利夫(とうの・としお)、13日死去、93歳。
九大生体解剖事件の証言者。
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若松武史、14日死去、70歳。俳優。「天井桟敷」の中心俳優だった。大河ドラマ「武田信玄」などにも出演。
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チャーリー浜、18日死去、78歳。吉本新喜劇の俳優。「…じゃあ~りませんか」のギャグで知られた。
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神田川俊郎、25日死去、81歳。大阪の日本料理店「神田川」店主。テレビに出て知られた。新型コロナ感染症で死去。