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絵本の話を中心に、好きなもの、想うことなど。

まかてさんの短編集

2020-11-12 15:05:06 | 好きな本

もうすこし、まかてさんの本が読みたくなって、
図書館の棚にあったものを借りてきたら、短編集でした。


そういえば、短編を読むのは初めてだなーと思いながら
読み始めたところ、最初の粉者(まがいもの)と、青雲
少々つまずいたというか、うまく馴染めなくて‥時代背景や人間関係を
読みながら沁み込ませていくには、やはりある程度の長さが必要なのでは、
と思っていたのですが、3つめの蓬莱にきて、やっと、ああ面白いと思える
ようになり、あとはどんどん弾みがついてきて、最後の草々不一のページを
閉じたときには、今回もよい読書だったなあと、じんわりきました。

読み終わってから知ったのですが、この短編集は、もうひとつの
福袋』と対といいますか、『福袋』が江戸庶民を主役にしたはなしで、
こちらの『草々不一』の方は、武士を主役に据えた話だったのです。
だから、話し言葉からして難しく、しきたりや暮らしぶりなど
知らないことばかりで、最初はとっつきにくいような印象だったの
だなーと合点しました。

でも、最初の2つ‥紛者 かたき討ちの話と、青雲 下級武士の
シューカツ話も読み返してみると、武士で居ることのやるせなさ
みたいなものが伝わってきます。

蓬莱 身分違いの家に望まれて婿入りした末弟であった平九郎の話。
馬に乗る場面がとても爽やか。

一汁五菜 大奥の食事をつかさどる台所人、伊織の表の顔と裏の顔(?)
食にまつわるあれこれがとても興味深い。

妻の一分 大石内蔵助の妻、りくからみた討ち入りを、「あるもの」が
語るという趣向。

落猿 藩の中での「聞役」という職務の重さを、理兵衛を通じて
知ることができ、これだけでももっと長い物語になるのでは?と思わされる。

春天 女剣士であった扶希の回想録。終わり方はやはりこうでないと。

草々不一 長年、徒衆(かちしゅう)として勤めてきた忠左衛門は、腕には
自信があるが、仮名は読めても漢字が読めない「没字漢」‥先に逝って
しまった妻が残した手紙を読みたい一心で、手習いに通いはじめる。




対になっているのであれば、と『福袋』の方も読みました。


ぞっこん 職人が寄席看板の名手となるまでを「筆」から目線で。

千両役者 大部屋の役者と、そのご贔屓さん。

晴れ湯 湯屋のひとり娘「お晴」はお手伝が大好き。

莫連あやめ 古着屋の娘あやめが語る江戸ファッションと義姉。

福袋 表題作 江戸にもあった?!大食い大会。大食漢の姉を
   突然現れた「福袋」だと思っていた弟‥。

暮れ花火 女絵師が、花火の夜の「笑絵」の中に描いたもの。

後の祭 神田祭の「お当番」に当たってしまった、さあ大変。

ひってん ひってんとはその日暮らしの貧乏人のこと。
     宵越しの銭を持たない寅次と弟分の卯吉。でもあることが
     きっかけで卯吉は商売の面白さに気づく。

どの話も、暮らしぶりが生き生きと描かれ、へえーそんなシゴトも
あったのかと、とても面白く、そして短編ならではの、ぎゅっと
まとまった「作り」とか「オチ」も、さすがまかてさん!でした。

終わり方で好きだったのは、暮れ花火晴れ湯でしょうかー。
お晴のおかーさんの気持ちに、同じ母親として胸打たれちょいと
しんみりしてしまいました。
ひってんの、卯吉もよかったな。その日暮らしもいいけれど、
自分の頭をフル稼働させて成功した商売の面白さは、格別だよね、
と思ったり。


そして、両方の短編集の中でいちばんずしっと残っているのは、
草々不一

「これは漢字の二文字にて、不一と読みます。意を尽くしきって
おりませぬが、そこは忖度なさって下さいとの決まり文句です。」

何やら胸が一杯で、とても言い尽くせぬ思いだ。
これぞ、不一であるのだろう。






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