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絵本の話を中心に、好きなもの、想うことなど。

どこかで句点、あるいは助詞を

2021-01-15 15:57:22 | 好きなもの・音楽や本

名前は知っていても、なんとなく読む機会がないままだった
自分にとっての「新しい作家」の本、読みました。



作者の川上未映子さんは、春樹氏との対談本があったり、
なんとなく華やかなイメージがあったので、この本も
キラキラした恋人たちが出てくる恋愛小説なのかなーと
(勝手に)思っていたのですが。

主人公の入江冬子さん34歳の、孤独な毎日と、
孤独だった過去の日々にページは埋められていて、
なかなか「恋人」が現れない展開でした。

でもそれが退屈なわけでも、じれったいわけでもなく、
自分にとっての初めての川上さんの文章は、むしろ心地よく、
誕生日の夜に、冬子が町をひとり歩く場面や、冬子が窓の外を
ただ眺めるこんな描写が響きました。

動くものと動かないもののあいだを満たしてゆく
インクのような夜の濃さを、わたしはコーヒーカップに
唇をつけたまま、ぼんやりと眺めていた。

ただ、途中読んでいて苦しくなったのは、冬子がアルコールに
依存し始めたとき‥。
缶ビールやワンカップの力を借りなければ、カルチャーセンターの
受付でさえ話す勇気が出ない、孤独の深さに胸が痛くなったのでした。

ひりひりするような孤独の殻から出ていくためには、力づくで
その殻を割るのでも、縁側昼寝のようにぼんやりと温めるのでもなく、
水分を与え、輪郭をまず滲ませ、外と内との境界を曖昧にしていくのが
いちばんだったのかなー、と、ゆうべお風呂の中でふと思ったり。

文庫本の帯に書いてあったような、恋はこんなにも孤独で、せつなくて、
涙が出るほど美しい。とか、天才が紡ぐ繊細な物語に超感動 とか、
これが、究極の恋。とかそこまでは、思わなかったけれど、人を好きに
なった時間は無駄ではなかったよね、とそっと背中に言ってあげたい
ような気持ちです。



それにしても、タイトルの「すべて真夜中の恋人」。
何度口の中でなぞってみても、頭の中に吸収されていきません(笑)。
(それゆえココロに残る、さすがのタイトルだと思います)

すべて、真夜中の恋人  だったら、真夜中を歩いている、
真夜中という時間に属している人たちはみんな恋人同士みたいな(?)。

すべて真夜中、の恋人   だったら、(自分の)恋人が存在していた
時間はいつでもその全部が真夜中だった、という印象になるし。

もし、一文字増えて すべて真夜中の恋人 とか、
すべて真夜中の恋人 とか、すべて真夜中の恋人 だったら? 
タイトルからくる印象はだいぶ変わってきますよね。

もしかして、冬子の恋も、あの時句点をひとつ入れてみれば、
あと一歩踏み出して、助詞を一文字変えてみれば、三束さんとの恋も
違う方向に進みだしたりしたのかなーと、そんなことも思ってみました。




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