先日「MAKIKYUのページ」では、黒部ルート公募見学会に参加した際に乗車し、関西電力の専用施設である黒部トンネル内を走る、北アルプス交通の小型バスに関して取り上げました。
黒部トンネル終点の作廊谷に到着し、このバスを下車した後は、インクラインに乗り換えて公募見学会の目玉である黒部川第4水力発電所(くろよん)へ向かう事になります。
インクラインという言葉は余り聞き慣れないかもしれませんが、実態はケーブルカーで、通常専ら旅客輸送を目的に観光地などで営業している鉄道と大差ありませんが、こちらは鉄道事業法に基づく旅客輸送ではなく、事業用の従業員や貨物輸送を目的としているもので、管轄する官庁も異なる事から、この様な名称で呼ばれています。
このインクラインは作廊谷のインクライン上部駅と、くろよんの間の815mの距離を運行していますが、路線長は1kmにも満たないにも関わらず、起終点間では456mもの高低差が存在しており、このインクラインは34度(675‰)という、とてつもない急勾配になっています。
日本国内で旅客営業を行っているケーブルカーの中で、最も急な勾配が存在する高尾登山鉄道(高尾登山ケーブル)でも、最大勾配は608‰ですので、こんな急勾配を走る鉄軌道に乗車する機会自体が希少で、その凄まじさがお分かり頂けるかと思います。
この急勾配を時速2km程度と言う、かなりの低速で運行しており、1kmに満たない距離でも、所要時間は20分程度を要し、全線が地下トンネル内で外の景色を見る事も叶いませんので、乗り物好きでなければ少々退屈してしまうかもしれません。
(その事もあってか車内にはテレビも設置され、関電の案内員による説明・案内以外に、過去にくろよんから生中継した紅白歌合戦のビデオ放映や、その際の裏話など、乗り物好きでない見学者も飽きない様な配慮がされていました)
おまけにこのインクラインは、くろよんで使用している巨大ペルトン水車などの資材を輸送する際、大きさや重量の関係で欅平方からのエレベーター・上部軌道での輸送は不可能な事もあって、扇沢方から関電トンネル~黒部トンネル経由で輸送する際にも用いられたとの事です。
そのため公募見学会参加時には客室が存在したものの、銀色1色で見るからに機能重視といった雰囲気の車体は、吊り上げて取り外す事が可能となっています。
車内も床面はケーブルカーでは一般的な階段状ではなく、資材運搬のために段差のないフラットな造りとなっており、座席も乗り物の座席とは程遠く、すぐにどかせるモノが置かれています。
かなりの重量がある資材を運搬する関係もあり、やたらと車体幅が広いのも特徴で、車内は乗り物と言うよりは、建物内にいる様な雰囲気というのも異色です。
また車体幅が広いだけでなく、軌道幅が2000mm(2m)もあり、日本国内のケーブルカーにおける軌道幅は、JR在来線と同じ1067mmやそれより狭い軌間が多く、広くても新幹線などと同種の標準軌(1435mm)という事を踏まえると、このインクラインは極めて特異です。
これに加え、車体を取り外して資材運搬用に用いる事もあってか、集電装置(パンタグラフ等)が屋根上ではなく、車両前方から出っ張る形で取り付けられているのも特徴です。
交走式ケーブルカーの類では定番と言える中間地点での行き違いでは、旅客輸送用ケーブルカーとは大きく異なり、無骨で異様な風貌も目にする事ができ、何処までも特異な乗り物と言えます。
しかも一般人がなかなか足を踏み入れる事ができない所を走っているのも、更にこのインクラインの乗車価値を高めていると言えますが、こんな路線でもしっかりと駅名標や時刻表が用意されているのも注目で、定期運転だけでも土地柄の割には結構な本数が走っています。
黒部ルート公募見学会ではこの後にも、くろよん見学や高熱隧道を走る上部軌道線乗車など、まだまだお楽しみが満載で、この続きは後ほど別記事で取り上げたいと思います。