モリタサンは具合が悪い。かなり前から具合が悪い。
雨戸がちょこっとしか開いていないと心配になる。
洗濯物が干してあって、居間の雨戸が全開になっているとほっとする。
ちょっと前、モリタサンの姿が玄関に続く階段のところで見えた。
用足しから帰った私は立ち話に。
今の医者ってはっきり言うのね、とはじまって。
家の中でうつらうつらしていると、どんどん気持ちも落ち込むわね。
退院するときいつも看護師さんが、ウツにならないでねって言ってくれるけど分かるわ。
けっこうさばさばしているモリタサンでもそうなるときがあるのか、と。
今日はうちのが出かけているすきに天気もいいからちょっと出てみたのよ。
と、鋏片手に階段横のマリーゴールドの花柄摘み。
「ほんとに庭があってよかったわ。気が晴れるもの」
そうよね、
花好きといおうか植物好きでしょっちゅう庭に出て、チョキチョキやっていたモリタサンだからなおのことだろうね。
そしてこのところ、そのチョキチョキがよく聞こえてくるから、こちらも嬉しくなる。
昨日は、カワナカサンが高枝切りばさみでカイヅカイブキの剪定真っ最中のところに遭遇。
夫が
「カワナカサン見てると、俺もはよ死んで、おっかあがつよぽん追っかけてあちこち飛び回れるようにしてやらんなんな」
と冗談いうくらいご主人亡き後、元気に出かけている。もちろん胸の内は分からない。
ごめんなさい、うるさいでしょ っていやいやなんのその。
私も来年後期高齢者になるから○○のサービスを受けられるらしいの。安くしてもらえるらしいけど。
「楽しいのよ、枝を切るのが」って。
分かります分かります。一心不乱、何事も忘れて枝切りに夢中。
息子さんに切ってもらってた年もあったけれど、カワナカサン、気に入らないのに決まっているの出来。
それ以来、ご本人が。
私の大親友がね、男に生まれたら庭師になりたかったわって言うのよ。
なんて話をして。我が家が昼食を食べているときにも、まだチョキンチョキンと音がしていた。
「庭があってよかった」
「楽しいのよ」
人生の先輩女性のことば。
門扉を開けて階段を上ると見える片隅。お気に入りのコーナー。
私も猫の額のような狭さでも「庭があってよかった」と思える。