マリママのパン作り

パン作りに関して、なんでもお話しましょう!

あの人は今

2009-04-22 00:40:11 | 手作りパン
 人生には、忘れられない出会いがある。 

 悩んだ時に、私に様々な助言を与えてくれた人達。それは意外にも「歌劇ファン」という共通点を持っている。

 歌劇好きの夫の影響で、いつしか私も歌劇を観に劇場に通うようになった。

宝塚へはなかなか遠くて通えないが、幼稚園のママ友達とあやめ池の円形大劇場へはよく通った。お弁当を持って。

 宝塚やOSKの劇場で、やはり歌劇ファンのおばさま方と知り合いになる機会があって。別により好んでいた訳ではないが、その方達が「個人的にトップスターさんを、応援している」方だったりするのだった。(ディナーショーの時に、テーブルごとチケットをお買いになったりするような)

 大抵は、私より一回りも上の方が多く。当然、子育ても全て終えられた方々で。端からみれば、とても優雅なように見えた。そんな方々から、なぜか含蓄のあるお言葉を頂く事が多かった。

 Sさんは、そんなおばさま方の一人。金髪に刈り上げのショートヘアー。颯爽とパンツスーツを着こなすマダム。手荷物バックは、常に「は虫類系」。でかいカメオブローチに真珠の指輪。見ようによっては、「極道のアネゴ」タイプの方だった。

 話てみると、二人のお子さんは大学生。上の息子さんは、国立大学の医学部生で。下の娘さんは、彼女と同じ女子大に進んで大学院に通っていた。
 
 何かと目にかけて頂き、親しく話をさせていただいて。そんな折、親戚の緊急事態で、私は悩みを抱えることになる。

 夫が突然不在がちになった為、息子は幼稚園で情緒不安定に。心配した園長先生からの電話で、幼稚園での息子の様子を知った。

その後は、関連の執筆活動で夫は忙しく。彼の邪魔をしないよう、子供達を遠ざけなければららず。苦労した事もある。

 締め切り間近のお正月。夫は推敲作業で忙しい。
まとわりつく下の子にイラついているのが分かった。子供達を連れて、お正月は実家で待避していた。
 でも、いつまでも実家で世話になるわけもいかず。三日目は下の子をおぶって、娘の手を引いて出かけた。目指すは「東映まんがまつり」。

 朝から夕方まで映画館で時間を潰す。夫に心置きなく執筆させる為に。

さすがに日も暮れると子供達も、「おうちに帰りたいよう。パパに会いたいよう」と言った。
 「もう、そろそろ帰ってもいいですか?」と夫に了解を取り、映画館を出た。

 信号を待つ間に、雪がちらちら降ってきた。周りは全て家族連ればかり。
娘の手を握りしめると、涙があふれ出た。

 子供達はまだ幼く、私のプレッシャーも大きかった。家庭の中も、かなりぎくしゃくしていたと思う。

「私の好きなようにやらせてくれ」と言う夫に、私は黙った。

 その頃から、夫の運転する車の助手席には、私は乗らなくなった。私の無言のレジスタンスだった。そんな時期が2~3年続いた。

 そんな悩みや愚痴をこぼしていた時。Sさんは煙草をくゆらせながら、一言。
「夫婦は形だけでいいんや」と。(歌劇ファンだけに、表現はカゲキ)

 「世の中には、形だけもない夫婦がごまんとおるんや。あんたとこみたいに立派なご主人がおって、子供もふたりいて。両親が揃って子供を育てられるちゅうのは、ありがたいこっちゃ」

 福岡出身の彼女は、福岡弁で話す。それがまたすごい迫力で、心に響いた。

 彼女が言いたかったのは、「吾唯足知(われただたるをしる)」と言う事だった。欲を出さないで自分の境遇に満足する、それが大事だと。

 今でもその言葉を時折思い出す。彼女の言葉なくては、私はどんどん不平不満をつのらせていたことだろう。

 彼女には、深く感謝している。

 その後は、劇場に通うこともなくなり、お顔を合わすこともなくなったが。
 
お元気にされているかしら?と、桜の季節になると懐かしい。
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