「モルツ~モルツ~モルツ~モルツ~」のフレーズが耳に残る「サントリーモルツ」。この4月に新しいラベルとともに、あのCMソングが帰ってきた。昔は和久井映見とか萩原健一とかが、「うまいんだな、これが」などとやっていたのだが。その他には、大沢親分とか山本浩二とか、「川藤出さんかい!」という「モルツ球団」バージョンもあったよな。
今回のCMは、吉岡秀隆が海の見える町に引っ越してきて、その町でさまざまな人々の温かさに触れる、というドラマ仕立てのシリーズものという。
そのシリーズに、吉岡秀隆が列車に乗っていて、海が見えたってんで、買い込んでいたモルツと枝豆を開封し、さていざ口にしようとするとトンネルの中に入って(私の旅なんぞでもよくあること)、そして海を望む「磯ノ島」という駅に降りて「いいところそうだ」と言っている、というのがある。駅員役に次長課長の井上が扮していたり。(詳しくはサントリーモルツのページへ)
吉岡が降り立ったそのホームの映像(ホームから海が見える)、そして出発する列車の型番から見て、これはもうあちこちのサイトやブログで触れられているので知られているが、東海道線の根府川駅であるということがわかる。ただ、乗った列車は何だろうか。ああいうシートはJRのグリーン車でも使用していないし、JRには両隅をつまんで上げる方式の窓のある車両はないはずである。町のシーンはじめ、車内のシーンはどこか別の路線(伊豆急行か?)を使用したのであろう。
・・・というわけでもないが、何だか急に出かけたくなった。東海道線をグリーン車で下り、いざその根府川駅を目指す。もちろん、駅でモルツを買い込んで・・・・。
東京駅から約1時間40分。おだやかな相模灘を見下ろす根府川駅に着く。やはり間違いない。駅のすぐ横が崖になっており、フェンス越しに、海辺を走る道路、その向こうに海が広がる。こうして降りたのは初めてだが、なかなかよい風情だ。
JR東日本の駅といえば、いたるところで近代化とか、都会風にアレンジされてきている印象があるが、この駅だけは昔ながらの風情である。跨線橋も昔ながらのつくり。そして、昔ながらといえば、駅舎も今時珍しい瓦葺の建物だ。天下の東海道線の駅にも関わらず、何と無人駅。Suicaのタッチ式改札機はあるが、「乗車駅証明書」の発行機などというものもある。
駅舎を出て振り返る。うん、やはりそうだ。CMでは駅の看板こそ「磯ノ島」と変えられていたが、建物そのものはこの根府川である。海の見える昔ながらの風情ある駅舎ということで、制作者はよく見つけたものだ。駅前は国道になっており、クルマの交通量が多い。斜山の斜面にへばりつくように民家も並んでおり、あえて無人駅にする必要があるのか?という気もするが・・・。
根府川と聞いて鉄道ファンが思い浮かべるのが、この駅のすぐ西にある白糸川橋梁であろう。高台に上がり、真ん中に橋梁、バックに相模灘を控えて列車が橋梁を渡るところの写真、というのを見た方も多いだろう。鉄橋の名所として、西の餘部鉄橋と並ぶほどの撮影ポイントだ。駅から少し歩くと集落へと続く坂道があり、その途中でカメラを構える。普通列車のほかに貨物列車なども通る。防風用のフェンスがしているので車両の姿は見にくいが、その下の真っ赤な橋脚が印象的である。
集落をこのまま下っていけそうなので、坂を下りきって海岸へ。こちらは真鶴道路というバイパス道路。これを渡り、海を見下ろすポイントへ。遠方に見えるは真鶴岬。潮風が心地よく感じられるスポットだ。
帰りに、橋脚の下の釈迦堂というところに立ち寄る。ただ、普通にお堂の中に釈迦がいるわけではなく、中の階段を下りた洞窟の中というか、土の中に安置されているという。案内板によれば、元々は地上に普通に安置されていた釈迦像なのだが、関東大震災の時に根府川駅を含めた一帯に土砂崩れがおき、そのために釈迦像も地中に埋もれてしまったとか。それが掘り出されたのがこの地だったというが、土砂崩れに遭ったにも関わらず無事だった、それはやはりご利益があるのだということで、この地に安置したという。関東大震災といえば根府川駅でも停車中の列車が土砂崩れで海中に流されるという傷ましい惨事もある。そのためか、駅には小さな慰霊碑が置かれている。
で、潮風に吹かれるということで、再び駅に上がり、ホームで「モルツ」タイムとしゃれこむ。味は・・・もういうことないでしょう。穏やかな春の日とともにじっくり味わう。
少しホロっときたところで、東京方面行きの列車到着。小田原で下車。このまま東海道線で往復というのも面白みに欠けるので、隣の小田急線乗り場に向かう。とりあえず自動改札機にSuicaをかざす。「箱根湯本」の文字を見て、そちらから箱根登山鉄道の旅も面白そうだが、午後を回るとじっくり見物など出来ないだろう。箱根は箱根でまた来るとして、新宿行きの急行に乗る・・・・。(つづく)