まつなる的雑文~光輝く明日に向かえ

まつなる兄さんのよしなしごと、旅歩き、野球、寺社巡りを書きます。頼りなく豊かなこの国に、何を賭け、何を夢見よう?

大相撲総社場所を観戦・2

2018年11月03日 | 旅行記F・中国
さて巡業も公開稽古を終え、観客も結構な入りとなった。そんな中で序二段の取組が始まった。序二段で10番、続く三段目が13番と進む。巡業に来るこれらの力士は関取の付け人を兼ねてということだが、見ようによれば選抜メンバー、期待の若手たちとも言える。ただ一方で関取がいない部屋の力士が来ることはない。

この辺りの力士は1番1番が貴重な実戦であり、アピールの場でもある。巡業といえども真剣勝負である。

速いペースで幕下の取組となる。幕下はわずか5番だけだが、その中で地元岡山出身の力士が登場する。昔から「江戸の大関より土地の三段目」という言葉があるように、番付の地位に関係なく地元出身の力士というのはご当地、また巡業場所では大きな声援を受ける。そういえば岡山県出身で強い力士がいたかなと思うが、思いつくのは前の出羽海親方である鷲羽山くらい。昔には出羽海理事長としても貢献した横綱・常ノ花というのがいたそうだ。

現在岡山県出身の関取はおらず、この日登場したのは幕下の2人。まずは岡山市東区の西大司。読みが「さいだいじ」という入間川部屋の力士だが、しこ名はおそらくあの西大寺から取ったのかなと思う。取組では見事に勝利して大きな拍手を受けていた。

もう一人が尾車部屋の栄風。和気町の出身である。スマホで通算成績を見ると最高位が三段目の力士である。それが幕下の取組で登場するというのはご当地に配慮したものなのかな。こちらも見事に勝利して大きな拍手を受けた。まあ、そこは地元出身力士に花を持たせたと言える。ただそれについて「ガチンコでない」と言うのは無粋というものだろう。この他、ご当地総社市出身で大元という力士がいるそうだが、この日は出番がなかった。西大司、栄風、大元・・・せっかくなので覚えておこう。

幕下5番の取組を終えたところで土俵はショータイムとなる。まずは相撲甚句で、6人の力士が土俵に上がる。幕下以下の力士だが、部屋の関取の化粧まわしをつけて登場する。周りでは一瞬、関取本人が出て来たのかとざわつく。すぐにそうではないと気づいて静まるが、堂々とした声量、時折アドリブが混じる節回しには笑いと拍手が起こる。

続いては初っ切り。元々は相撲の禁じ手を観客に説明するための型だったが、今は笑いありのショータイムの一つである。この日は春日野部屋の力士2人が登場したが、これもよほど息が合わないと成り立たない芸能と言える。

さらには櫓太鼓の打ち分け。場所の開催時に客を呼び込むものや、打ち出しを告げる太鼓もある。テレビの大相撲中継の最初と最後に流れるあの太鼓と言ったほうが分かりやすいだろう。いずれも見事なバチ捌きであの高音を奏でる。

これらに続くのは十両の土俵入り。十両力士は通常の半分くらいの出場で、取組も幕下以下の力士相手というのも多かった。まあ、いろいろ事情があるのだろう。

土俵入りと十両の取組の間には、大銀杏の髪結いの実演である。この日のモデルは遠藤。まずちょんまげ姿で登場し、一度全部ほぐしてからあの形に仕上げていく。テレビ中継だと、幕内優勝した力士が取組を終えて表彰式に臨む前に髪を結ってもらいながらインタビューに応じるシーンが映し出されるが、普段の稽古後でも力士にとってはリラックスしたり、気持ちをリセットする一時なのだという。見事な仕上がりに場内から拍手が起こる。

十両の取組の途中では横綱の綱締実演があった。横綱土俵入りを前に綱をまわしの上から締めるもので、この日のモデルは稀勢の里が務めた。雲竜型の一つの輪の綱で、これを10人くらいの付け人が気勢を上げてしめていく。この作業を本場所中は毎日、そして巡業の時も都度行っていたとは意外だった。

十両の取組を終えて、幕内の土俵入りである。幕内力士にも休場力士は結構いるが、やはり有名な力士も揃うことで大きな拍手が起こる。その中には、公開稽古にも姿を見せず、取組表にも名前がなかった大関の髙安の姿もあった。そこは巡業だからマイペースで、せめて土俵入りで姿だけでも見せておこうというところだろうか。

これに続くのは鶴竜、稀勢の里の横綱土俵入りである。せり上がりの部分も含めて正面からしっかり見ることができた。

土俵入りが終わると本場所同様中入りとなる。先ほどから狭い椅子席にずっと座って来たが、このタイミングで弁当(観戦プランに付随)をいただく。岡山の駅弁の老舗である「みよしの」作の12マス弁当だったが、値段を考えれば、安い価格でアリーナの1階で売られていた弁当とか、何ならコンビニでおにぎりやサンドイッチを買ってきた方がよかったかなと思う。

食事中、土俵の上では主催者の挨拶として、中四国唯一のテレビ東京系列の局であるテレビせとうちの社長、そして特別協賛で岡山県と広島県東部に展開するスーパーのハローズの社長が土俵の上に立つ。中でもテレビせとうちの社長挨拶は含蓄に富むものだった。総社市には昔から備中国の総社宮が鎮座しており、力石も奉納されていることを紹介する。ただ一方、7月の西日本豪雨で総社市も大きな被害を受けている。その前に総社での巡業は決まっていたそうだが、一時はこのきびじアリーナも多くの住民の避難所となっていたとのことだ。豪雨から3ヶ月以上経過しても、総社市内ではまだ120戸ほどが避難生活を余儀なくされているというのも重い事実である(この日も琴奨菊、嘉風の両関取が総社市の仮設住宅を訪ねて被災者たちに歓迎されたそうだ)。

そして相撲協会から総社市への義援金300万円が贈呈された。豪雨災害の際の素早いツイッターで名を上げた総社市の片岡市長あてに、春日野親方から目録が渡されると深々と頭を下げた。この総社場所は何としても開催したかったという思いと、これをきっかけに復興へのはずみにしたいという挨拶があった。

そのまま幕内の取組が始まる。巡業での取組は真剣勝負というよりはショーの要素があるように感じる。立ち合いに変化するということはないが、寄られたらあっさりと力を抜いて寄り切られるかと思えば、その逆に土俵際でずっとこらえてまた寄り返してそのまま押し出してしまうとか。後はやたら吊る場面が出る。お客さんも見ていて喜ぶからだろうか。

時間の関係か元々そうなのか、幕内でも仕切りは2回で立ち合いとなる。本場所もそのくらいのペースでもいいのでは・・と思うのだが、やはり仕切りを繰り返す中で力士の気合いを貯めたり、お客さんの盛り上がりを呼ぶというのも確かだ。

そのためにあっという間にこれより三役揃い踏みとなる。御嶽海対逸ノ城、豪栄道対栃ノ心、そして最後は鶴竜対稀勢の里という横綱同士の対戦。ここは観客の期待通り?稀勢の里が勝って結びとなる。

最後の弓取式が終わり、総社場所もめでたく打ち出しとなった。この日は5000人近くが足を運び満員御礼であった。8時から15時という7時間も密度が濃いように感じた。

総社駅まで歩いて戻り、伯備線の列車で岡山に出る。時刻は16時半、鉄道の日記念の乗り放題きっぷのためこれから鈍行で大阪に戻るわけだが、岡山に来たならあそこに行っておきたい。

そう、大衆酒場の「鳥好」。ふと思うと、8月の青春18日帰り旅、9月の八十八所めぐりに続いて3ヶ月連続での訪問である。この時間にはすでにカウンター、テーブルも満席近いところだった。何だかクセになっているなあ。

今回初めて相撲の地方巡業を観戦したが、本場所とは違った雰囲気もあるし、その土地の盛り上がりを感じることもできた。またどこかで機会があれば行ってみたいものだ。その時、座席をどこにするか迷うのだろうが・・・。
コメント