まつなる的雑文~光輝く明日に向かえ

まつなる兄さんのよしなしごと、旅歩き、野球、寺社巡りを書きます。頼りなく豊かなこの国に、何を賭け、何を夢見よう?

第9回中国観音霊場めぐり~第8番「明王院」

2020年01月24日 | 中国観音霊場

福山駅から歩いてやって来た明王院だが、まずはその手前にある草戸稲荷神社にお参りする。鳥居から拝殿にかけて列ができていて、また拝殿の前に階段があることから、事故防止のために係員がロープで仕切って一度にお参りする人数を制限している。例年、草戸稲荷は福山市で最も多く、また広島県内でもベスト3に入るほどの初詣客を集めているそうで、3が日の次の日の4日であるが大勢の人が訪れている。私も少し並んだ後で順番が回ってきた。拝殿の中では昇殿しての祈祷を行っているところで、祝詞の声が聞こえてくる。

草戸稲荷は明王院に隣接しているが、元々、明王院を開いた弘法大師空海がその鎮守社として建てたとされている。当初は横を流れる芦田川の中洲に鎮座していたが、洪水のために流失することも多かったそうだ。

芦田川のこの辺りといえば江戸時代前期の洪水で消滅した草戸千軒という町があったところだ。この草戸千軒については町の様子を書いた記録がほとんど残されておらず、長年想像上の町と言われていたが、しかし昭和になって芦田川の河川工事を行った際に多くの遺物が出土し、その後の本格的な調査で中世頃に実際にあった町の全容が判明した。そのことから「日本のポンペイ」と呼ばれるところである。草戸稲荷は、町が消滅する前に福山藩の手で現在地に移されたようである。境内には草戸千軒に関するミニ資料館もあるが年末年始休館だった。ちなみに草戸千軒については福山城内にある広島県立歴史博物館で詳しく紹介されており、後で時間があれば見学するつもりだ。

拝殿の奥に要塞のような造りの高い建物がある。その上に鎮座するのが本殿で、建物なら4階くらいに相当するだろうか、そこまで階段で上がることができる。昭和にコンクリート造りで新たに建てられ、本殿が移されたものである。お参りの中で上まで行く人はそう多くないようだが、せっかくなので行ってみる。裏の山とくっつくように建てられている。

本殿でも手を合わせる。ちょうどその前が舞台のようで、芦田川とその向こうの福山の市街地を見渡すことができる。まさかかつての草戸千軒を展望するために建てたわけではないだろうが。

草戸稲荷を後にして明王院に向かう。参道には多くの屋台が出て活気がある。その奥に隠れるようにして明王院の入口がある。

この明王院も先に触れたように弘法大師空海が開いた寺で、草戸千軒はその門前町であった。なぜこの地に名刹ができたかだが、やはり瀬戸内の航路に面していたからなのかなと思う。当時の海岸線は今よりもずっと手前にあり、鞆の浦とも合わせて港としての役割もあったようだ。江戸時代に福山藩主だった水野氏の手により今の芦田川の対岸地域が干拓され、新田も開発された。

石段を上がると境内にはいずれも国宝の本堂と五重塔が並ぶ。やはり初詣となると神社に行く人のほうが多いのか、先ほどの草戸稲荷と比べれば人の数も少なく落ち着いた雰囲気だ。本堂は鎌倉時代末期の建物で、和様建築に大仏様、禅宗様を折衷させた建物の代表例とされている。まずはこちらで、参拝の列からちょっと離れたところでお勤めとする。

本堂の前には、浩宮親王(当時。現在の天皇陛下の来山を記念して植樹された松がある。天皇陛下の学生時代の研究テーマは中世の海上交通についてであったが、その研究の旅行で草戸千軒の遺跡も訪ねたそうである。

また五重塔もしっかりした造りである。長い年月の中で修復も施されているのだろうが色もしっかり残っている。この五重塔と本堂の組み合わせは、尾道の浄土寺の本堂と多宝塔のそれを連想させる。

そういえば天皇陛下は研究旅行で浄土寺も訪ねていたっけ。明王院と浄土寺に何か共通するものを感じる。もちろん寺の歴史はそれぞれ違うわけだが、同じ瀬戸内の港で栄えた人たちの支えというものが繁栄を生み、現在にも残されているのだなと感じさせる。

明王院は五木寛之の『百寺巡礼』の一つであるが、私はこの時気付かなかったが境内に五木寛之の文学碑が最近建てられたという。

最後に書院のある本坊にて朱印をいただき、これで明王院のお参りを終える。中国観音霊場で一つ飛んでいた札所もこれで埋まり、備後シリーズも終了となる。

さてここからは帰りの時間まで福山めぐりだが、せっかく来たので鞆の浦を目指すことにする。明王院から芦田川沿いに数百メートル河口方面に下ったところの草戸大橋に鞆行きのバス停がある。福山駅~鞆の浦間のトモテツバスは日中でも20分に1本と割り合い多い数が走っている。全国の交通系ICカードの利用も可能だ。

20分ほど走ると左手に穏やかな海が見えてきた。鞆の浦もそろそろ近づいてくる・・・。

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