会津若松駅に戻り、雨の中を駅前にある「富士の湯」に向かう。前の記事で、温泉に「心当たり」があると書いたのはここのことである。
とはいうものの久しぶりに来るところで、確か以前は光明石を使った人工温泉ではなかったかと思うが、今は天然温泉を名乗っている。それでも入浴料金が450円と安く、タオル類を借りようとしたら280円の「やすらぎセット」というのがあった。合計730円で館内着つきなら妥当な値段である。
浴槽はさまざまあり、まずは室内には大浴場と薬湯、サウナがある。また外には石造りの露天風呂、壺湯、炭酸泉などが揃っている。いろいろな風呂を入り比べるというのもよい。外はガラス窓で仕切られているが、先ほどの雨が雪に変わった。1日の中で目まぐるしく天気が変わる。
会津若松に来たら歴史ある東山温泉に浸かるのがよいのだろうが、駅前で銭湯価格で入れる「富士の湯」は鉄道旅行の強い味方である。元日営業で大勢の客で賑わっているが、観光で訪ねた人も少なからずいるかもしれない。
しっかり入った湯上りだが、ビールは夕食時までお預けとしてしばしリラックスすることにする。2階に休憩処があるが、やけに静かだと思ったらここは仮眠室の扱いで、「やすらぎセット」の館内着利用のみが入ることができるとある。タオルを借りるつもりで追加購入したが、休憩処利用もできるとあれば、さらにお得感が出てきた。
他にも寝ている人がいるが、静かだし、ホットカーペットが敷かれているし、これはリラックスできる。元日の昼下がり、ちょっとだけ「寝正月」としよう・・・。
心身がリラックスできたところで、そろそろ夕食の時間である。入ったのは駅前の「こだわりやま」で、別に会津若松のオリジナル店ではなく、大手居酒屋チェーンの支店である。会津の郷土料理をいただける店ということで事前にグルメサイトで検索したが、行くのは元日ということで多くの店が休業であった。ただその中で、チェーン居酒屋だが会津料理もいろいろあるのを見つけ、また座席のみ予約していた。前夜の新潟同様、開いている店が少ないので満席だったら困る・・・ということで予防線を張ったのだが、結果としてはそこまでする必要もなく、スムーズに入ることができた。
会津に来たからには馬刺しである。この店でも一番人気のメニューだという。盛り合わせがあり、赤身、ふたえご、あともう一つはどこだったか珍しい部位の三種が出てきた。これを辛子味噌、にんにくをふんだんに混ぜていただく。会津で馬肉が郷土料理なのは、元々交通の要衝で馬の需要があり、その中で自然と馬肉を食べる文化が育ったとか、戊辰戦争の時に負傷した兵士の回復のために馬肉を食べさせたというのが広まったからとか、いくつかの要素があるそうだ。ただこれは前に別の店でいただいた時に聞いた話として、現在流通する馬肉の多くは外国からの輸入品か、あるいは外国から生体の馬を輸入して、日本で飼育した後に加工したもので、純国産というのはなかなか出回らないという。まあ、私としては特に地元産にまでこだわってはいないのだが。
いきなりメインディッシュを味わった形だが、これでひとまず安心し、あとはこづゆ、にしん山椒、いか人参という昔からの郷土料理をいただく。このこづゆ、会津では元々武家の食事メニューだったが、今でも祝い事の席に必ず出るという一品である。この後会津若松を出発する時に土産物コーナーをのぞくと、自宅でも手軽に食べられるようにカップに湯を注ぐタイプのものや、具材をレトルトカレーにしたものなどもあり、身近な一品といってもいい。もっとも、こづゆと、前日までいただいた新潟ののっぺ、似たメニューである。
こうしたメニューとなると、飲み物も自然に地酒に移行する。ここも別紙や壁紙に地酒のメニューが並び、会津の酒がその特徴とともに紹介される。その中で南会津の「國権」の力強い書体に引かれて一杯飲む。その字体を見て、会津の「ならぬものはならぬものです」という精神や、そういえば自由民権運動も盛んだったよな等と想像しながらいただく。他には猪苗代の「七重郎」というもの。
十分満足して、これで会津若松めぐりは終了である。外は暗くなり、雪もいつしか止んだようである。駅内の土産物コーナーで買い物をして、バッグの中は越中、越後、庄内、そして会津のいろいろなもので一杯になった。これを片付けるのには結構時間がかかりそうだが、その分長く旅の思い出に浸れそうである。
会津若松発19時05分の郡山行き快速に乗る。当初、遅れている会津鉄道の列車の接続を待つために発車が数分遅れるとの案内があり一瞬ヒヤッとしたが、乗り継ぎ客もほとんどなかったようで定刻に発車する。夜なので磐梯山も猪苗代湖も見ることなく淡々と進む。
20時15分、郡山に到着。これから乗るのは21時発の夜行バス「ギャラクシー号」だが、列車が無事に間に合ってよかった。最後はこのバスに乗れば、あべの橋まで乗り換えなしである・・・。