庄原ライナーで行く庄原ツアー、メインの帝釈峡・神龍湖の遊覧船の後は東城に向かう。帰りの高速バスが16時21分発で、その間が町並み散策の時間である。東城はこれまで芸備線や中国自動車道で通過したことはあっても、この町そのものを訪ねるのは初めてである。
まず立ち寄ったのは、道の駅遊YOUサロン東城。ガイドの熊本隊長によると、庄原市はリンゴの栽培で有名なそうだ。広島でリンゴというのも意外だが、北部の高野町もそうだし、芸備線の駅名にもなっている小奴可も産地だそうだ。
ここで小休止の後、東城の町に入る。その時に強調されたのが、日本の高度成長を支えたある企業の工場である。「ヤマモトロックマシン」という削岩機、産業機械のメーカー。先ほど訪ねた帝釈峡の神龍湖のも携わったが、当時外国製に依存していた削岩機の国産化を実現した企業である。その削岩機はその後国内のさまざまなダム、トンネルの掘削でも活躍し、ひいては日本の高度成長を支えたとも紹介される。
現在もメーカーとして健在だが、その一角にある旧自治寮は登録有形文化財で、独身寮、家族寮の他に食堂や娯楽室も設けられ、地元のコミュニティの中心だったという。今回は時間の都合で車窓見学である。
東城は室町時代、宮氏が五本竹城を築いて開かれたところだが、後に西に新たに大富山城というのが建てられた。以後、東城、西城という現在の地名につながっている。江戸時代には広島浅野家の分家が治める地となった。また、周辺は鉄の産地ということで鉄が集まり、馬や水運を使って各地に運ばれた。
バスは町並み保存地区に入る。バスが停まり、訪ねたのは北村醸造場。創業200年あまりという。「菊文明」という銘柄を扱っており、いくつかの銘柄の試飲をさせてくれる。合鴨農法で栽培された米と帝釈の水からつくられた一品という。ツアーの人たちも酒好きが多いのか、次々と試飲である。中にはお買い上げの方も。
とりあえず熊本隊長の引率で通りを歩く。広島では有名な竹屋饅頭の本店前などを過ぎ(「帰りに買ってください」とのPRも欠かせない)、赤酢が有名という後藤商店に到着。明治から続く酢の醸造元で、昔ながらの製法を守っているという。店内には全国特産品博覧会の名誉総裁を務める大隈重信の名が入った表彰状も掲げられている。赤酢の他にもポン酢も扱っていて、普段使いできるかなと買い求める。こうした買い物は町並み散策の楽しみで、ツアーとしても地元商店のPRにつながるものである。
そんな中、熊本隊長から「この中で、野球好きな方いらっしゃいます?」と声がかかる。私を含め何人かの手が挙がる。「うわ、こんなに手が挙がるとは思わんかった」としつつも、この先にあるプロ野球選手の実家があるので案内するという。後藤商店でツアーもいったん自由散策となり、私を含めて5人が熊本隊長に連れられてもう少し歩く。これが1人や2人だったら、道だけ案内して自由に行ってもらうとのことだが。
そのプロ野球選手とは、横浜、中日で活躍、中日では兼任監督も務めた谷繫元信。表札にもずばりその名前が書かれている。実家は喫茶店を営んでいたそうで、今は「谷繫元信球歴館」という看板がかかっている。扉は閉まっているようだったが。
東城出身だが、高校は島根の江の川高校(現・石見智翠館高校)、そしてドラフト指名時もカープが1位指名したのは野村謙二郎。谷繁は大洋の1位指名で、結局広島、カープには縁がなかったわけだが、名球会にも入り、通算出場試合数3021はNPB記録となった。中日の兼任監督としては好成績を挙げられなかったが、年齢的にまたどこかでユニフォームを着る機会はあるのではないかと思う。
ここまで来たついでではないが、先ほど車窓で見たヤマモトロックマシンの旧自治寮も近いということで案内される。先ほどバス車内での熊本隊長の案内も、東城が誇る企業として熱が入っていたように思う。
自由散策の集合時間となり、バスで東城駅に到着。広島までの高速バスのチケットを渡される。ツアーとしてはここで解散である。
列車は来ないが、時間があるので駅をちょっとのぞく。時刻は16時を回ったところだが、もう列車だけでこの日のうちに広島に行くことはできない。19時04分発の備後落合行きがあるが、終点からの連絡はない(折り返して東城に戻ることはできるが)。かろうじて、17時09分発の新見行きに乗り、新見から伯備線で倉敷に出れば、山陽線に乗り換えて鈍行だけでも広島に戻ることができる。同じ広島県といっても、JRとしては岡山支社の管轄で、何となくそちらのほうにつながっているようだ。
ツアーの20人ほどの客に加えて、地元の利用客も駅前で列をなす。地元の人たちにとっては「何この団体?」かもしれない。
そしてやって来た16時21分発の広島行きだが、すでに先客が何人か乗っている。先ほど帝釈峡の神龍湖の遊覧船で見覚えのあるカップルもいる。備北交通の高速バスは東城駅が発着地だが、紅葉シーズンの土日の1往復は神龍湖まで「帝釈峡ライナー」として延長運転しているそうだ。JRの「庄原ライナー」よりもさらに奥に突っ込んだ形で、その辺りの柔軟性はバス会社ならではである。
さて、東城駅からの乗客で座席は満席となり、補助席も使われた。まずは町中を回り、中国自動車道に乗る。なおこの便には先ほどガイドの仕事を終えた熊本隊長も1乗客として乗りこんだ。庄原までこれでお帰りのようで、車内ではスマホの写真やメモ帳(ネタ帳?)をいろいろチェックしていた。私の斜め前なのでそうした様子が目に入るのだが、本日のガイドについて頭の中で整理しているのだろう。お疲れさまでした。
備後庄原駅に到着。駅前にはもう1台バスが停まっていた。東城駅を出発した後、運転手が無線で続行便を要請していた。この先庄原や三次での乗客も見込まれ、東城で補助席を使うようでは積み残しになるという判断である。そちらのバスは数人しか乗っておらず、ここまで通路側で横の補助席にも客がいる状態だったから、続行便のほうに移った。最前列の席に座ることができて、かえってゆったりできた。
ただ不思議なことに、この続行便が先行して途中の停留所では乗客を拾っていったが、もう1台の姿が見えなくなった。三次でもその姿は見えず、結局広島バスターミナルに着いてもわからなかった。まさかノンストップで走ったか、あるいはもっと遅かったか?そこだけモヤッとしたが、結局備後庄原駅からはゆったりとバスに揺られることができ、別に定刻に遅れたわけではないので別に問題なかった。
さてこの熊本隊長がガイドする庄原ツアー、この先もさまざまなイベントが企画されるところである。広島県北の面白さをPRするものとして、これからもチェックしていきたいところ。あと、芸備線も気になるところで、地元が協賛金を募って実現した「カープ列車」の車両を使ったイベント、ツアーもやってもらいたいものである・・・。