1月3日、新大阪8時06分発の特急「こうのとり1号」城崎温泉行きに乗る。新大阪発車時点では指定席、自由席ともガラガラでの出発である。この先2時間40分ほど乗って向かうのは豊岡である。
この日は長い帰省旅を終えて広島に戻るはずなのだが(仕事は1月5日から)、こうして北に向かう特急に乗っている。かといって、豊岡からさらに先に進み、鳥取を回って広島に戻るというものでもない。夕方にはまた新大阪に戻り、改めて山陽新幹線に乗るつもりである。
実はこれ、日帰りでカニを食べに行こうという何とも贅沢なプランを詰め込んだためである。青春18きっぷやフェリー利用で浮いた旅費の「貯金」を全部はたく形になる。
ことの始まりは、何だかズワイガニが食べたくなった昨年12月。近所のスーパーでも冷凍カニが並ぶようになったし、通販の広告でもお買い得感を打ち出した商品が並ぶ(それらのほとんどは輸入品だが)。そういうのを買って自分で調理すれば済むことだが、やはり出かけて食べてみたいというのはある。
この年始に大阪に出てきたが、正月期間でもカニ目当ての日帰りバスツアーが各社で組まれている。丹後半島、但馬、鳥取各方面あり、そういうのに参加するのもよいかと思った。ただ、移動するならやはり鉄道のほうがいい。その鉄道側にはJR・日本旅行が企画する「かにカニ日帰りエクスプレス」というのもあるが、これは2人以上での申し込みだし、そもそも年末年始はプランの設定がない。
そんな中、ネットで見かけたのが読売旅行による個人プラン。行先は、丹後の夕日ヶ浦温泉にある「佳松苑」。「こうのとり1号」で豊岡まで行き、京都丹後鉄道で夕日ヶ浦木津温泉まで移動して、送迎バスに乗る。帰りも同じルートで、豊岡15時41分発の「こうのとり22号」に乗る。添乗員同行のツアーではなく、旅行会社扱いの乗車券・特急券が自宅に送られ、そのまま列車に乗るというもの。バスツアーに比べると料金は高いが、お一人様でもOKだし、「ひとりかにカニ日帰りエクスプレス」もいいな・・ということで申し込んだ。元日・2日と新大阪に宿泊したのはこのためである。
ただ、出かけるにあたり気になっていたのは天候。何せ行先は日本海側、年末にも荒れた天気になっていたこともあり、当日雨や雪が降るだけならまだしも、最悪の場合列車の運休ということも考えられる。仮に運休になった場合は自分で旅館にその旨を連絡するとともに、駅の窓口で乗車券・特急券の不使用証明を受けてそれらを旅行会社に送って、その後で旅行代金の払い戻しを受けるようだが・・。
そういうリスクも想定しながら当日を迎えたが、3日は天気予報は近畿北部を含めて穏やかだという。また翌日からは雨または雪の予報が出ていたから、何ともラッキーなものだ。
特急は順調に走るが、篠山口を過ぎたあたりから少しずつ雪を見るようになる。ただし今は新たに降る様子もなく、この先も支障なく進みそうだ。
福知山を過ぎて山陰線に入ると積雪も多くなった。こうした雪景色の中を列車で走るのも久しぶりで、車窓に目が行く。
10時48分、豊岡着。ホームの向かい側には香住行きの鈍行が待っている。その昔、JRの「かにカニ日帰りエクスプレス」でかつての仲間たちと餘部鉄橋近くの旅館を訪ねた時のことを思い出す。その時は「こうのとり」(車両は国鉄型だったかな)で豊岡まで来て鈍行に乗り継ぎ、香住まで行った。時季は2月だったが、雪もほとんどなく、2月とは思えない晴天が広がったのが印象的だった。カニも美味く、そのまま横になって翌日は仕事を休みたいな・・とも話したものである。
今回は改札を出ることもなく、連絡口から京都丹後鉄道に乗り換える。京都丹後鉄道の列車もどれでもいいというわけではなく、10時53分発の快速に乗るようクーポンが送られていた、この快速は網野から特急「たんごリレー4号」として福知山まで走る。
車両は「丹後の海」。いわゆる「水戸岡デザイン」車両で、車内は白樺やナラといった木々が豊富に使われ、和の空間を演出する。以前に乗った時のことも思い出す。
車内はガラガラで、せっかくなので先頭の座席に腰かけて前面展望を楽しむ。兵庫県から京都府に入る山がちな区間を通る。
11時18分、夕日ヶ浦木津温泉に到着。地元の人が数人下車したが、旅の人間は私だけのようだ。こういうプランならもっと多く利用して賑わうのかなと思っていたが、意外だった。改札を出ると出迎えらしき人がいて、声をかけると佳松苑の方だった。クルマに乗ったのは私一人で、当初は他に予約していた客がもう1組いたそうだが、キャンセルになったとのこと。これで名実ともに「ひとりかにカニ日帰りエクスプレス」の旅になった・・・。