まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

おかしくなり荘

2014-07-11 | フランス、ベルギー映画
 「テナント 恐怖を借りた男」
 パリで部屋を探していたトレルコフスキーは、古いアパルトマンを見つけ入居を希望するが、そこでは住人であるシモーヌという若い女性が、窓から飛び降り自殺を図ったばかりだと知る。やがてシモーヌは死に、トレルコフスキーは彼女の部屋に引っ越してくるが…
 名匠ロマン・ポランスキー監督の隠れた名作として、カルト的な人気を誇るサイコサスペンス、ていうか、ニューロティックなブラックコメディ?異様だけど珍奇で笑えるシーンが多く、狂った人の異常言動にゾっとしつつ、笑っちゃいけないと思いつつ笑ってしまう、ちょっと号泣議員の記者会見とカブるところもある悲喜劇です。
 誰かが俺の悪口を言っている!とか、あいつは私を嫌っている!とか、あの人のせいでこんなことになった!とか、人間誰でも生きてれば猜疑心とか強迫観念に多少は襲われたりするものですが…それが度を過ぎると、トレルコフスキーみたいなことになってしまう。はじめはフツーの真面目で善良な、ちょっと小心で神経質な男だったトレルコフスキーが、だんだんと些細なことの積み重ねで神経過敏となり、妄想にとり憑かれて幻覚幻聴に悶絶・錯乱、とうとうトンデモ暴走で破滅…という展開が、静かに丁寧に不気味に描かれています。覚せい剤でも脱法ドラッグでもないのに、あんな風にイカレてしまうなんて。早く病院に行けよ~と呆れてしまいました。でも…トレルコフスキーの猜疑心と脅迫観念は確かに異常でしたが、病んだ現代社会、特に無関心や悪意に満ちた都会で暮らしてると、性格が優しすぎて弱い人ならストレスのせいでヘンになっても不思議ではないよな~と、常にオドオドしてて、必要以上に他人に気をつかうトレルコフスキーとちょっと相通じる性格の私は、あながち他人事じゃないかも?と怖くなってしまいました。

 トレルコフスキーを狂気へと追いつめていく“些細なこと”が、映画を観てる者の神経をも逆なでします。口うるさい大家のじじい、無愛想で意地悪な管理人のおばはん、キモい住人の、理不尽で不快な言動に逆らったり怒ったりせず、ぐっとガマンするトレルコフスキーにもイラっとさせられる。まるで自分を見ているようでトレルコフスキーと彼らのやりとりは、イライラさせられるけど何かトンチンカンで笑えます。
 じわじわとコワレはじめ、狂気スイッチが入って正常のラインを踏み外してしまうトレルコフスキーのトンデモ暴走が、これまたアブノーマルすぎてもうギャグの域なんですよ。みんなが寄ってたかって僕をシモーヌにしようとしている!それならこっちだって…と、なぜか自分からシモーヌになろうとして女装なんでやねん!なんてツッコミは、まとも人の常識でコワレ人には通じません。独り悦に入った女装も、ヤバすぎて笑えます。ほとんどミイラな入院中のシモーヌとか(声にならない絶叫が怖い!)、トレルコフスキーが公園で泣いてる子どもを突然ビンタしたり(これ、かなりの問題シーンですよ。非道い!可哀想!)、ラストの窓からダイブ(2回も!)とか、黒い笑いを狙ってるとしか思えなかった。壁の穴から出てくる歯とか、キモい住人の悪質なイタズラなど、現実?妄想?観客を惑わせ不安に陥れる演出は、さすが「反撥」や「ローズマリーの赤ちゃん」など傑作を放ったポランスキー監督です。
 主人公トレルコフスキーを、ポランスキー監督が自ら演じています。

 俳優としても高く評価されてるポランスキー監督。小柄で優しそうで知的で、根暗というより内気な感じが結構可愛い。サッカーのスーパースター、メッシにチョイ似?それと、稲垣吾郎にも似て見てた。ぶっコワレ演技はかなり迫真、かつ楽しそう。女装とかノリノリだったし。未成年の少女とエッチした罪で、アメリカにいられなくなった直後に撮った作品とのことですが、当時の監督の心理を反映した内容なのでしょうか。淫行なんかしなくても、あれだけの才能と名声、見た目も可愛いし、いくらでも美女が寄ってきただろうに。暗い生い立ちや病的な嗜好があっても、映画界から抹殺されることなく名匠として崇拝され続けてるポランスキー監督、スキャンダル直後にもかかわらず、この映画のキャストはなかなか豪華です。
 シモーヌの友人で、トレルコフスキーと親密になるステラ役は、何と!私の永遠のシネマ女神、イザベル・アジャーニ!

 世界中の映画ファンや映画関係者を驚嘆させた「アデルの恋の物語」の次回作に、イザベルが選んだのがこの作品。トンボめがね、ボサボサにしか見えないパーマ、悪趣味な服、ブルース・リーの映画を観ながら欲情したり。何か得体の知れない怪しさを漂わせてるイザベル。チョイブス娘に化けてはいますが、やっぱそんじょそこらの美人とは比べものにならない美貌は隠せません。まだ二十歳そこそこなので、ほんと可愛いです。

 怪しくもトボけたイザベルの演技も、なかなか印象的で笑えます。出番はそんなに多くないのが残念ですが。ポランスキー監督とは、再度組む企画が何度もあったみたいなのに、なぜか全て頓挫してしまったのも残念。
 大家のじじい役はメルヴィン・ダグラス、管理人のおばはん役はシェリー・ウィンタース。どちらも2度のオスカーに輝いたハリウッドの大物俳優。彼らの神経逆なでキャラも秀逸です。あと、冷たく陰鬱に撮られたパリの街並みも、不安感や不吉さを醸しています。
 好条件なのに異様に安い、いわゆる“ワケアリ物件”には、くれぐれも気をつけましょう、という教訓にもなっている映画です。でもま、私はそんなに気にしないかも…超高級マンションがタダ同然だったら、そこで一家心中や一家皆殺し事件があったとしても…
コメント (2)
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