お松の第2回イザベル・ユペール映画祭④
「ハッピーエンド」
フランス北部のカレー。13歳の少女エヴは、母親が薬物中毒で入院したため、母と離婚後に再婚した父トマの実家に引き取られる。そこでは年老いた家長ジョルジュ、その長女でトマの姉アンヌ、アンヌの息子ピエールらが、それぞれトラブルや心の闇を抱えながら、裕福なブルジョア生活を送っていた。そんな中、ジョルジュが自殺未遂のような事故を起こし…
カンヌ映画祭パルムドールとアカデミー賞外国語映画賞のW受賞となった「愛、アムール」から5年、ミヒャエル・ハネケ監督の待ち望まれていた新作。出品されたカンヌ映画祭では珍しく無冠で、公開されてもハネケ監督といえばの賛否両論も特に起きず、あれ?ひょっとして失敗作?と思ってしまってたのですが、どうしてどうして。「「ピアニスト」や「愛、アムール」に比べると、確かに衝撃や毒は薄まってましたが、この作品もなかなかの胸ザワなイヤミス映画でした。
それにしても。ハネケ監督って、ほんと冷酷で意地悪だな~と、この新作にも感じさせられました。いい人、いい話で感動を押し付けようとする映画や、毒にも薬にもならん無難な忖度映画ばかり蔓延している中、ハネケ監督の人の悪さ、アンチポリティカルコレクトネスな作風は貴重。世間に媚びないマイペースさには、他のフィルムメーカーには感じない気高さがあります。とにかく、人間は愚かだけど愛がある、なんて陳腐な理想を語っていないところが好きです。この映画でも、ブルジョア一家の偽善や心の闇を冷ややかに嘲笑うかのように描いてます。人間の醜さや歪みを、過激な演出や痛烈なメッセージでもって描くのではなく、常に何にも起きそうにない静けさ、冷ややかさが返って不気味で、観客を不安に陥れる。これがハネケ監督の独特さ、独壇場でしょうか。ドラマティックなシーンや展開なしだと、フツーなら睡魔に襲われるところですが、ハネケ監督は決して眠らせてはくれないんですよね~。例えて言うなら、整然としすぎた薄暗くひんやりとした誰もいない部屋に閉じ込められ、しばらくするとどこからかピアノの一番低いドの音だけをずっと叩く音や、黒板を指でひっかく音が聞こえてきたりする気持ち悪さ、不快さ。って、わけのわかんない例えですんませんとにかく、感動ではなく動揺を観客に与えるハネケ節は健在でした。
ブルジョア一族の秘密や闇を暴露する、といった内容は、ともすれば家政婦は見た!的な俗悪な面白さになりそうだけど、この映画は生々しさがなく、あくまで上品でエレガント。アメリカや韓国の成金とは全然違うフランスのブルジョアの、冷たい優雅さに憧れます。金にあかせて建てた豪邸ではなく、歴史を感じさせる瀟洒な屋敷、というのもヨーロッパの洗練を感じました。庶民には羨ましいかぎりの身分、生活なのに、庶民も呆れるブルジョア一族の闇と歪みは、もはや笑うしかない滑稽さ。「ピアニスト」同様、この映画も屈折しすぎた喜劇のように思えました。トマと愛人が交わす、情熱的で変態なチャットとか。ジョルジュの迷惑すぎる執拗な自殺願望とか、皮肉な笑いを誘います。みっともなさ、みじめさを嗤うなんて、ハネケ監督ってほんと意地悪です。
説明しすぎなシーンや台詞を排除し、謎めかし、ほのめかしが多く、え?何?どういうこと?と観客と当惑させ、想像に委ねる手法もハネケ監督ならでは。ピエールが訪ねた団地で男に殴られるシーンや、車いすのジョルジュが道で黒人たちに声をかけて何か頼んでるシーンとか、いっさい台詞なしで遠くから彼らを映してるだけ。たまに出てくるSNSに動画をアップしてる男の子とかも、いったい何なの?なキャラでした。建築現場の崩落とか、冒頭のハムスターとか、静かに不吉、不安を煽るシーンも、何なのこれ~と目が離せなくさせます。
「愛、アムール」に続いて、ジャン・ルイ・トランティニャンとイザベル・ユペールが父娘役で出演しています。
イザベル・ユペールは、同じハネケ監督の「ピアニスト」や、オスカーにノミネートされた「エル ELLE」に比べると、拍子抜けするほどフツーです。彼女といえばのギョっとする怪演はありません。エレガントで冷徹なマダム、そしてバカ息子に手を焼いているママン、な役は「エル」と同じで笑えた。シックなファッションが相変わらず素敵でした。
ジャン・ルイ・トランティニャンは、すっかりヨボヨボのお爺さんになってしまいましたね~。でも、ただでは老いさらばえないのが名優。まだらボケ言動で家族と観客を惑わせイラつかせるトランティニャン御大の、憐れみや嘲笑をはねつける情の剛さと威は、映画の中で最も不安と不吉を撒き散らしていました。それにしてもトランティニャン御大、かなりしんどそうだった。これが最後の出演作になるかも…?
トマ役のマチュー・カソヴィッツは、穏やかな感じのおじさんになりましたね~。アンヌの恋人役の英国俳優トビー・ジョーンズは、冴えない小男だけど有能なエリート、な役が似合う珍しい俳優。彼とのシーンだけ、みんな英語を喋ってました。
この作品の真の主役であるエヴ役、ファンティーヌ・アルドゥアンの好演も高く評価したいです。
フランスの女の子って、アメリカンギャルと違って、見た目は幼いけどすごくクールで賢そうなところがトレビアン。ディナーやパーティーシーンでの清楚で可愛いワンピースも素敵でした。孤独なエヴとジョルジュが心を通わせる、といったハートウォーミング物語じゃなく、死にとり憑かれた老人と少女の闇すぎる共鳴が、ヤバくてスリリングでした。やっぱそれもSNSに上げるんかい!なラストも、皮肉すぎて笑えました。ちなみにエヴは、日本で起きた事件から監督がインスピレーションを得て創造したキャラなんだとか。無機質なスマホ画面やSNSの文字が、人と人が直接対峙するよりもコミュニケーションを成り立たせている、という現代社会の異常事態にもゾっとさせられました。
この映画、日本のNHKあたりでTVドラマリメイクされるとしたら、理想キャストはこうだ!
アンヌ … 吉田羊
トマ … 大森南朋
トマの妻 … 石橋杏奈
アンヌの恋人 … 菅広文
アンヌの息子 … 白洲迅
・
ジョルジュ … 片岡仁左衛門
こんなん出ましたけどぉ~?
エヴは無名の新人美少女がいいです。ニザさまにヨボヨボだけど因業な迷惑爺さんを演じてほしいです。
これにて第2回イザベル・ユペール映画祭終了(^^♪お目汚しメルシーボクウ!
「ハッピーエンド」
フランス北部のカレー。13歳の少女エヴは、母親が薬物中毒で入院したため、母と離婚後に再婚した父トマの実家に引き取られる。そこでは年老いた家長ジョルジュ、その長女でトマの姉アンヌ、アンヌの息子ピエールらが、それぞれトラブルや心の闇を抱えながら、裕福なブルジョア生活を送っていた。そんな中、ジョルジュが自殺未遂のような事故を起こし…
カンヌ映画祭パルムドールとアカデミー賞外国語映画賞のW受賞となった「愛、アムール」から5年、ミヒャエル・ハネケ監督の待ち望まれていた新作。出品されたカンヌ映画祭では珍しく無冠で、公開されてもハネケ監督といえばの賛否両論も特に起きず、あれ?ひょっとして失敗作?と思ってしまってたのですが、どうしてどうして。「「ピアニスト」や「愛、アムール」に比べると、確かに衝撃や毒は薄まってましたが、この作品もなかなかの胸ザワなイヤミス映画でした。
それにしても。ハネケ監督って、ほんと冷酷で意地悪だな~と、この新作にも感じさせられました。いい人、いい話で感動を押し付けようとする映画や、毒にも薬にもならん無難な忖度映画ばかり蔓延している中、ハネケ監督の人の悪さ、アンチポリティカルコレクトネスな作風は貴重。世間に媚びないマイペースさには、他のフィルムメーカーには感じない気高さがあります。とにかく、人間は愚かだけど愛がある、なんて陳腐な理想を語っていないところが好きです。この映画でも、ブルジョア一家の偽善や心の闇を冷ややかに嘲笑うかのように描いてます。人間の醜さや歪みを、過激な演出や痛烈なメッセージでもって描くのではなく、常に何にも起きそうにない静けさ、冷ややかさが返って不気味で、観客を不安に陥れる。これがハネケ監督の独特さ、独壇場でしょうか。ドラマティックなシーンや展開なしだと、フツーなら睡魔に襲われるところですが、ハネケ監督は決して眠らせてはくれないんですよね~。例えて言うなら、整然としすぎた薄暗くひんやりとした誰もいない部屋に閉じ込められ、しばらくするとどこからかピアノの一番低いドの音だけをずっと叩く音や、黒板を指でひっかく音が聞こえてきたりする気持ち悪さ、不快さ。って、わけのわかんない例えですんませんとにかく、感動ではなく動揺を観客に与えるハネケ節は健在でした。
ブルジョア一族の秘密や闇を暴露する、といった内容は、ともすれば家政婦は見た!的な俗悪な面白さになりそうだけど、この映画は生々しさがなく、あくまで上品でエレガント。アメリカや韓国の成金とは全然違うフランスのブルジョアの、冷たい優雅さに憧れます。金にあかせて建てた豪邸ではなく、歴史を感じさせる瀟洒な屋敷、というのもヨーロッパの洗練を感じました。庶民には羨ましいかぎりの身分、生活なのに、庶民も呆れるブルジョア一族の闇と歪みは、もはや笑うしかない滑稽さ。「ピアニスト」同様、この映画も屈折しすぎた喜劇のように思えました。トマと愛人が交わす、情熱的で変態なチャットとか。ジョルジュの迷惑すぎる執拗な自殺願望とか、皮肉な笑いを誘います。みっともなさ、みじめさを嗤うなんて、ハネケ監督ってほんと意地悪です。
説明しすぎなシーンや台詞を排除し、謎めかし、ほのめかしが多く、え?何?どういうこと?と観客と当惑させ、想像に委ねる手法もハネケ監督ならでは。ピエールが訪ねた団地で男に殴られるシーンや、車いすのジョルジュが道で黒人たちに声をかけて何か頼んでるシーンとか、いっさい台詞なしで遠くから彼らを映してるだけ。たまに出てくるSNSに動画をアップしてる男の子とかも、いったい何なの?なキャラでした。建築現場の崩落とか、冒頭のハムスターとか、静かに不吉、不安を煽るシーンも、何なのこれ~と目が離せなくさせます。
「愛、アムール」に続いて、ジャン・ルイ・トランティニャンとイザベル・ユペールが父娘役で出演しています。
イザベル・ユペールは、同じハネケ監督の「ピアニスト」や、オスカーにノミネートされた「エル ELLE」に比べると、拍子抜けするほどフツーです。彼女といえばのギョっとする怪演はありません。エレガントで冷徹なマダム、そしてバカ息子に手を焼いているママン、な役は「エル」と同じで笑えた。シックなファッションが相変わらず素敵でした。
ジャン・ルイ・トランティニャンは、すっかりヨボヨボのお爺さんになってしまいましたね~。でも、ただでは老いさらばえないのが名優。まだらボケ言動で家族と観客を惑わせイラつかせるトランティニャン御大の、憐れみや嘲笑をはねつける情の剛さと威は、映画の中で最も不安と不吉を撒き散らしていました。それにしてもトランティニャン御大、かなりしんどそうだった。これが最後の出演作になるかも…?
トマ役のマチュー・カソヴィッツは、穏やかな感じのおじさんになりましたね~。アンヌの恋人役の英国俳優トビー・ジョーンズは、冴えない小男だけど有能なエリート、な役が似合う珍しい俳優。彼とのシーンだけ、みんな英語を喋ってました。
この作品の真の主役であるエヴ役、ファンティーヌ・アルドゥアンの好演も高く評価したいです。
フランスの女の子って、アメリカンギャルと違って、見た目は幼いけどすごくクールで賢そうなところがトレビアン。ディナーやパーティーシーンでの清楚で可愛いワンピースも素敵でした。孤独なエヴとジョルジュが心を通わせる、といったハートウォーミング物語じゃなく、死にとり憑かれた老人と少女の闇すぎる共鳴が、ヤバくてスリリングでした。やっぱそれもSNSに上げるんかい!なラストも、皮肉すぎて笑えました。ちなみにエヴは、日本で起きた事件から監督がインスピレーションを得て創造したキャラなんだとか。無機質なスマホ画面やSNSの文字が、人と人が直接対峙するよりもコミュニケーションを成り立たせている、という現代社会の異常事態にもゾっとさせられました。
この映画、日本のNHKあたりでTVドラマリメイクされるとしたら、理想キャストはこうだ!
アンヌ … 吉田羊
トマ … 大森南朋
トマの妻 … 石橋杏奈
アンヌの恋人 … 菅広文
アンヌの息子 … 白洲迅
・
ジョルジュ … 片岡仁左衛門
こんなん出ましたけどぉ~?
エヴは無名の新人美少女がいいです。ニザさまにヨボヨボだけど因業な迷惑爺さんを演じてほしいです。
これにて第2回イザベル・ユペール映画祭終了(^^♪お目汚しメルシーボクウ!