



昭和38年の福岡。現金強奪のため男性二人を殺害し逃亡した榎津巌は、大学教授を騙って潜伏した浜松の旅館の女将ハルとねんごろになるが…
昭和40・50年代の邦画が大好きな私。中でもこの映画はmyベスト3には確実に入る傑作!うっすい軽い今の邦画と違い、昭和の重さと暗さが映画を観た!という満腹感、満足感を与えてくれます。人間関係も社会も空気さえも、どよよ~んと淀んでいた昭和という時代。同じ狂気的な凶悪犯罪でも、現代と違って濃密な情念や愛憎によって引き起こされていたものが多かった。おどろおどろしくも活力に満ちていた昭和がよく描けた映画といえば、まっさきにこの映画が思い浮かぶ私です。当たり障りのないポリコレなんか蔓延してなかった、本当に良き時代でした…

警察の捜査網をかいくぐって日本各地で殺人&詐欺行脚、世間を震撼とさせた西口彰事件をモチーフにして佐木隆三が書いた直木賞受賞作小説を映画化したもの。凶暴な殺人と知能犯罪である詐欺を両立させた事件の特異性で、血塗られた日本凶悪犯罪史に黒い名を刻んだ西口彰をモデルにした榎津巌、その神出鬼没ぶり、被害者たちのと庶民的で人情あふれる?ふれあい、まさに殺人鬼となった寅さんです。寅さんは殺人も詐欺もセックスもしませんが、自由な風来坊で自分ルールな思考回路、調子がよくて口達者、図々しいけど人好きのするところなど、寅さんを彷彿とさせる巌。あの口のうまさ、演技力、コミュ力など、有効に活かしてまっとうに生きてたら、さぞや成功した人生を送れたことだろうに。騙してるという意識が薄く、弁護士や教授になりすましてるうちに現実と虚実の区別がつかなくなってる、みたいな様子も病的。殺さなくても?と思うような殺人ばかりなのなのは、どうしようもない殺人衝動?まさに生まれてきてはいけなかったかのような害悪人間。ロンブローゾの性悪説を、巌を見てると信じたくなるほどです。

とんでもない戦慄の殺人鬼だけど、何か憎めない愛嬌がある巌。よせばいいのに深く関わってしまう被害者たちの気持ちは、まったく理解できないものではありません。昭和の繁栄に取り残された者たちが、肩寄せあうように巌と親しくなる姿が、微笑ましくも切なくて。巌とハル母娘とのやりとりは、絶望の中の刹那のぬくもりやユーモアがありました。巌の正体が殺人鬼と気づいた後のハル母娘の態度は、本当に孤独な人、絶望した人にしか理解できない悲しい人情なのではないでしょうか。

巌役は、私にとって今なお日本最高の名優である緒形拳。この映画の彼、もう最高で~す!


緒形拳以外の出演者も、むせそうになるほどの昭和な名演。巌の父役の三國連太郎は、晩年のスーさんとは別人。息子の佐藤浩市にはないイヤらしさ、妖気が強烈。巌の妻役の倍賞美津子の生々しい色香!湯煙の中で義父を誘惑するシーンでの、熟れた巨乳ポロンがエロすぎ。ハル役の小川真由美も、可愛くて哀れな熟女を好演。彼女も濡れ場では熟れたおっぱいを披露。彼女たちのように女の業を妖艶に演じることができる女優も、今はもういなくなってしましたね。エロ熟女といえば、かつてロマンポルノで男たちのリビドーを刺激しまくった白川和子や絵沢萌子も顔を出してます。ハルの母役の清川虹子、巌の母役のミヤコ蝶々など、ばあさん女優たちも強烈な存在感。ハルの旅館に派遣されて巌の相手をするデリヘル嬢役の根岸季衣も、なにげに印象的でした。
昭和に撮影したからこその昭和な雰囲気も、この映画の魅力です。当時の駅とか汽車の中、ダイヤル電話、古い連れ込み旅館やボロいアパートなど、平成になってセットやCGで作ったものではないリアルさに、昭和を生きた者は郷愁を覚えることでしょう。