まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

教会で少年が汚された…

2020-08-07 | フランス、ベルギー映画
 「グレイス・オブ・ゴッド 告発の時」
 少年の頃に神父から性的虐待を受けたアレクサンドルは、加害者のプレナ神父が今も子どもたちに聖書を教えていることを知り、彼を告発する決意をする。やはりプレナ神父の被害者だったフランソワは、被害者の会を立ち上げプレナ神父を庇護するカトリック教会を糾弾する運動を始めるが…
 フランソワ・オゾン監督の社会派映画って、珍しい、てういか、初?これまでの作品とは毛色が違っていたのが、意表を突いていて興味深かったです。常に新しいジャンルや手法に挑みながらも、その独特さ特異さは保っているところに、オゾン監督の豊かな才能を感じます。この新作は実話ベースの内容であるためか、いつものような現実と妄想がスタイリッシュに入り混じった作風ではなく、ごくごく真面目な正統派テイストに仕上がっていて、オゾン監督こんな映画も撮れるのねとそのオールマイティぶりに感嘆。私はいつものオゾン監督の、あのちょっと洗練された珍妙さが好きなので、それが排除されてたのはちょっと寂しく物足りなかった、けれども、現実的な人間関係や社会事情を描いたドラマにとしては上質で、あらためてオゾン監督の非凡さを証明した映画と言えるでしょう。

 この作品、オスカーを受賞した「スポットライト 世紀のスクープ」と同じ題材を扱っているのですが、記者視点のスポットライトと違い、こちらは被害者視点なので、起こった悲劇がより生々しく痛ましく伝わってきました。プレナ神父に狙われ怯える子ども、プレナ神父に選ばれ逆らえず連れていかれる子ども…はっきりとした虐待シーンはありませんが、これから起こるだろう忌まわしい出来事を想像させるシーンの数々に、やめて!逃げて!と叫びたくなるほどの緊迫感と恐怖に襲われ、さながらサスペンス映画、いや、心理ホラー映画な要素も。とにかくプレナ神父がおぞましくて不快!いたいけな子どもを性的いたずら、強姦だなんて、殺人より許せんわ。畜生以下ですよ。小児愛者がよりによって聖職者になるとか、ほんと信じられません。百歩譲って、小児愛は病気で罪ではないと認めるとしても、自ら小児愛と気づいていて子どもと深くかかわる仕事をするとか、もう子ども目当てとしか思えません。糾弾するほうが非情なのでは、と勘違いしてしまいそうになるほど、プレナ神父がおどおどと弱々しい哀れな老人風なのも腹が立ちました。自分の行為は認めても、それは病気のせいだから悪事ではない、神父も辞めない、という彼の言い分には心底吐き気がしました。

 プレナ神父を守る、庇うというより、のらりくらりと波風を避けようとするカトリック教会の体質にはイラっとさせられます。決して強権的になったり圧をかけてきたりはせず、優しげに理解ある風を装って自分たちの不利になることはしない、という教会の欺瞞、偽善には神も仏もない絶望を覚えます。
 主人公3人の癒えないトラウマに胸が痛みましたが、彼らの苦悩をひたすら暗く重く描くのではなく、正義のため誇りを失わないために戦う彼らの姿は、勇ましく快活でさえありました。立ち上げた被害者の会での集会とか、知的かつ和気あいあいとした雰囲気で、ワインとか軽食とかフレンチな小粋さ。ちょっと不謹慎なほど楽しそうだったり。激しい口論、討論もフランス人らしかったです。

 3人の奥さんたちがみんな協力的で、アレクサンドルの長男と次男が少年とは思えないほど冷静に理解を示す様子に感銘を受けました。逆にアレクサンドルの両親とエマニュエルの父の無関心さにはゾっとしました。自分の子どもが傷つけられたのに、あの冷淡さはないだろ~。あの親たちが怒って行動してくれてたら、トラウマもちょっとは軽減されてたでしょうに。
 主演の3人がそれぞれ素晴らしい演技!4部構成みたいになっていて、1部がアレクサンドル、2部がフランソワ、3部がエマニュエル、最終部が3人一緒、という感じ。アレクサンドル役は、「ぼくを葬る」以来のオゾン監督作主演となったメルヴィル・プポー。

 美青年だったメルヴィルもすっかりおじさんになりましたが、今でも美しいしカッコいい。素敵な熟年になりました。フランスの中年俳優にしては珍しく、スレンダーな体型を維持してます。5人の子持ち役にしては生活感が希薄なところもトレビアン。フランソワ役は、「ジュリアン」での怪演が忘れ難いドゥニ・メノーシェ。今回は正義感と活気あふれる役。アメリカならブサイク役か悪役専門な風貌の彼が、キレイな奥さんが当たり前のようにいて仕事もデキるいい男の役、も違和感なく演じてる。役者も見た目よりも実力重視なフランス映画らしいキャスティング。スカーフを小粋に巻いてるのもフランス男って感じでした。

 メルヴィルもドゥニも好演してましたが、やはり最優秀だったのはエマニュエル役のスワン・アルロー。虐待のせいで身も心も人生もズタボロになってしまった男の荒廃と絶望には、同情よりも不気味さを覚える。そんなザワつく演技が強烈でした。発作を起こしてバタリ&ブルブル姿がリアルすぎ。この人ほんとに大丈夫なのかな、と不安にさせる見た目、表情、言動など、デリケートすぎる演技に目がクギづけ。すごい個性的な顔(佐々木蔵之介を鋭く超神経質にした感じ?)は、役のせいもあって怖いのですが、アップになった時とかハっとなるほど美しくも見える不思議な顔でもあります。特にプレナ神父との対面シーンでは、痛ましくも美しく見入ってしまった。だんだん心を開いて明るくなっていく様子がすごく可愛かったり。今やフランス映画界屈指の演技派としての評判は耳にしていたけど、予想以上のすぐれものだった。彼はこの作品でセザール賞の助演男優賞を受賞。主演男優賞を獲得した旧作「ブラッディ・ミルク」の彼も素晴らしいと評判なので観たい!

 真面目な社会派映画でしたが、脇役やチョイ役、モブに至るまで目を惹くイケメンや男前が散りばめられていたのが、やっぱマドモアゼル・オゾンらしくニヤリ。アレクサンドルの友人役は、ちょっと濃い目のいい男エリック・カラヴァカ。アレクサンドルの息子二人も可愛いイケメンだったし、アレクサンドルが告訴をすすめる元被害者のイケメン青年や、フランソワの兄もシブい美男だった(弟と似てなさずぎ!ほんとに兄弟?!)子役もみんな可愛くて、演技とは思えぬほどナチュラル。厳かで美しい教会や儀式、心温まるクリスマスの風景には、おぞましい悲劇を忘れてしまいそうになります。 


コメント (6)
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