まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

気高き略奪愛!

2022-09-23 | 北米映画 20s~50s
 「黒蘭の女」 
 南北戦争勃発前のアメリカ南部ニューオーリンズ。名家の令嬢ジュリーは、その奔放でわがままな言動で婚約者のプレスコットを翻弄し傷つけ、ついには彼から別れを告げられる。一年後、プレスコットは新妻を連れて北部から帰郷。ジュリーはプレスの愛を取り戻そうとするが…
 「偽りの花園」「月光の女」など、佳作を生み出した名匠ウィリアム・ワイラーと大女優ベティ・デイヴィスのコンビ作のひとつ。南北戦争前のアメリカ南部、勝ち気なヒロイン、といえば「風と共に去りぬ」を思い出しますが、ベティはスカーレット役の候補者だったとか。結局スカーレット役を得たのは、当時ハリウッドでは無名に近かったイギリス女優のヴィヴィアン・リー。実際にも気が強いことで有名だったベティ、おのれ~今に見ておれ~な無念と闘争心は、彼女の女優魂に火をつけたのではないでしょうか。まるで風と共に去りぬへの意趣返しのように主演したこの作品で、2度目のアカデミー賞主演女優賞を受賞。さぞかし溜飲がさがったことでしょう。

 ベティ・デイヴィスといえば、年をとってからは役も顔も声も恐ろしい妖婆女優、というイメージが根強い。若い頃、美しい盛りの絶頂期でも、可憐で清らかなヒロインなんてほとんど演じず、悪女や毒婦を好んで演じていました。悪い!けどカッコいい!という魅力が、他の女優にはないベティの唯一無二な個性だったように思われます。この作品のベティは悪女ではないけど、関わったら無傷ではいられない厄介なポイズンガール。本人には悪意や他意はなく、ただ自分の望むように生きたいだけ、欲しいものを手に入れたいだけ、それを貫くためには他人の愛や命はどうなってもいい、という冷酷さが怖い魔性のヒロインでした。

 自分のために誰かが争ったり傷ついたり、死んだりしてもほとんど動揺せず、涙を流すのではなく冷たい微笑を浮かべるジュリー。ベティ・デイヴィスらしい毒々しさにゾクっとしますが、当時まだ30歳ぐらいなので、後年の恐ろしげな妖婆ベティと違い顔も声も可愛いです。大きな瞳もギラギラではなくキラキラと輝いて、闊達で元気な演技も若さであふれていてキュートです。小柄で華奢なところも少女っぽくて可愛い。毒々しいけど暗くて陰湿な女のネチネチさはなく、颯爽と誇り高いところが素敵なベティです。ラスト、まさに命を投げうっての略奪愛には、ありふれたゲス不倫とは違う崇高さが。

 スカーレット・オハラと共通点が多いジュリーですが、ヒステリックで神経症チックなスカーレットよりも、ジュリーは落ち着いていてクール。不幸や凶事を招いても毅然としてるジュリーを、聖書に出てくる毒婦イゼベルと重ねる叔母ですが。私の目には悪女とか毒婦には見えなかったな~。男の言いなりにはならない、世間の顔色もうかがわない、自分を押し殺して周りに同調、協調なんてクソくらえ、逆に自分に従わせてみせるという意志と自信に満ちた女性って感じだったような。カッコいい、羨ましいと憧れる反面、精神が強すぎるのも生きづらそうだなあとも、ジュリーを見ていて思いました。男や社会からしたら、めんどくさいことこの上ない女なジュリーです。

 プレスコット役は名優ヘンリー・フォンダ。こんなに若い彼を見たのは初めて。イケメンとか美男ではなく、知的でスマートだけど雄々しくもあって、いい男でした。ベティの2倍はありそうな長身もカッコよかった。ジュリーの叔母役を好演したフェイ・ベインターも、オスカーの助演女優賞を受賞しています。この映画、衣装やセットも素晴らしいです。ベティがとっかえひっかえする衣装の美しいこと!一回でいいからあんなドレス着てみたい!カラー映画だったらさぞや華やかだったでしょう。モノクロならではの美しさも魅力です。
コメント (4)
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