


映画監督のピーターは、親友の大女優シドニーが連れてきた青年アミールに一目で恋し、自宅兼オフィスであるアパルトマンで彼と同棲を始め、彼を映画に起用してスターに育てる。しかし、しだいにアミールの言動は冷めたものとなり、彼の不実さはピーターを深く傷つけるが…
ほぼ一年に一作というハイペースさで新作を発表しているフランソワ・オゾン監督が、ドイツの鬼才ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督の「ペトラ・フォン・カントの苦い涙」をリメイク。オゾン監督の旧作「焼け石に水」も、ファスビンダー監督の作品がオリジナルだとか。主人公とその若い愛人を、女性から男性に変えるという挑戦的な、いや、オゾン監督が思い切り手腕を発揮できる設定に変えてのリメイク、とも言える今作。オリジナルのペトラは、イタくてキツい中年女の醜態狂態にただもう居心地が悪い思いをするだけでしたが、オゾン版は思ってた以上にオゾンテイスト、オゾン色に染められた軽妙な毒気のあるブラックコメディに仕上がっていました。

男女逆転以外は、台詞も展開もほぼオリジナルと同じなのですが、男と女、そして監督が違うと、ここまで別作品になってしまうものなのですね。中年が若者に溺れて理性も分別も失う、その物狂おしさはペトラもピーターも同じなのですが、女だと気持ち悪い、男だと何か滑稽になっちゃう。ペトラはひたすら気色悪かったけど、ピーターはいちいちクスっと笑えてしまった。

とにかく身も心も若い男にZOKKON命になったピーターが、みっともなくて笑えます。恥もプライドもなくなっちゃう年の差恋愛のイタさと怖さ。若くて美しい、だたそれだけで屈服、卑屈になってしまう気持ちは、私のようなおっさん



年の差恋愛がうまくいかないのは、やっぱ相手に対する軽蔑と自分本位な打算のせいだと、ピーターとアミールを見ていて痛感しました。アミールのほうは露骨にピーターを利用してるしバカにしてるし、愛してないことを隠してもないのがむしろ清々しくもあった。ピーターだって、アミールを可愛がれば懐くはずのペット扱いしてるみたいで、内心ではアミールを下等人間だと思ってるのは明白でした。そういう恋愛の不毛さや不純さを、シニカルなコメディタッチで描いてるところが、さすがオゾン監督です。

笑えるシーンはいっぱいあるのですが、いちばんツボだったのはやっぱ終盤のカオスな全員集合でしょうか。はじめはみんな友好を装いながらも、サラっとチクっと皮肉やイヤミ、当てこすりを投げ合ったり。ぷっつんしたピーターが、隠してた本音をみんなにブチまけるくだりは、「8人の女たち」を彷彿とさせた洒脱な辛辣さ、毒々しさでした。演出、脚色、衣装、映像、すべてにおいて男性監督にも女性監督にも創り出せない、才気あるゲイだけが描けるハイセンスな喜劇になってました。

キャストもみんな好演。ピーター役は「グレース・オブ・ゴッド 告発の時」など、オゾン監督のお気に俳優ドゥニ・メノーシェ。鬼顔&巨漢、怖い悪人な風貌だけど、デリケートな役も似合うところが不思議な俳優。グレース・オブ・ゴッドでも思ったけど、すごいおしゃれなんですよね彼。さすがフランス人。女々しい演技も何か可愛かったです。初めて会ったばかりのアミールに、鼻の下伸ばしてデレデレな顔が笑えた。あと、房事後にベッドから出てきて見せた着ぐるみみたいな全裸も笑撃的でした。アミール役のハリル・ガルビアは、中年男をメロメロにするほどの美青年には見えないのですが、親しみやすい可愛い顔はしてます。ちょっとタッキー(滝沢秀明氏)を濃ゆくした感じの顔に見えた(わしだけ?)。

この映画でいちばん楽しみだったのは、私のシネマ女神さまである大女優イザベル・アジャーニを、久々に大きなスクリーンで見ることでした。アジャ様も御年68、でも高齢者感は微塵もありません。まだまだお美しい。フツーの美人とはレベチな美しさ。凡百の女優にはない華も失ってません。心配(&ちょっと期待)してたほど妖婆化してなくて、安堵+ちょっぴり残念


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