


第二次世界大戦の最中、カリフォルニア大学で教鞭をとっていた理論物理学者ロバート・オッペンハイマーは、ナチスドイツより先に原子爆弾を開発するための「マンハッタン計画」のリーダーに抜擢されるが…
作品賞や監督賞、主演男優賞に助演男優賞など、今年のアカデミー賞の最多受賞作。日本人にとってはかなりの問題作なのですが、原爆を茶化したバーベンハイマー騒動とか、アメリカではそうでもなさそうです。多くの米国人の無知ゆえの悪意なき無神経さや、日米の原爆に対する思いの温度差には、やはり引っかかるものがあります。日本人、そして広島県民としては、観なきゃいけないと思いつつ気が重くて、映画館へなかなか足が向かずにいたのですが、先日ようやく。期待よりも不安と懸念のほうが大きかったけど、クリストファー・ノーラン監督の独特で斬新な演出と映像は相変わらず目を驚かせるもので、3時間の上映時間もそんなに苦痛ではありませんでした。ダレない緊張感とスピード感、いったい何?どういうこと?な謎めく意味深なシーンの数々は、やはり非凡な手腕だなと感嘆せざるを得ませんした。でも正直、ノーラン監督の作風って苦手なんですよね~。その奇抜さ、才気は、意識高めの映画ファンにとっては高級なキャビアとかフォアグラみたいなテイストなんでしょうけど、舌が肥えてない意識低め映画ファンである私にとっては、美味しいのか美味しくないのか判らないようなヘンな味。明太子やキムチみたいな味の監督のほうが好きです。

不可解かつ激烈な映像、そして時間軸が複雑な構成は、いつものノーラン節。それよりもやはり、原爆誕生、原爆使用というテーマと内容が日本人にとっては是か非か、賛か否かで、かなりモヤります。原爆の悲惨さを刷り込まれて育った広島県民の私は、オッペンハイマーたちがグイグイ原爆開発と実験に突き進んでいく過程に、すごく動揺してしまいました。中盤の砂漠での実験シーン、見ていて気分が悪くなりました。

広島と長崎を地獄のような焦土にし、長い苦しみと痛みを強いることになる原爆の威力にもですが、実験の成功を素晴らしい偉業を成したように欣喜雀躍して祝う関係者たちの姿に戦慄。爆発までの緊迫のカウントダウンの演出とか、スタイリッシュに美しく描いてる爆発シーンとか、原爆をエンターテイメントにしてることに違和感を否めず、悲しくなってしまいました。

原爆投下に関してはいろんな意見、考察があるようですが、やはり何か他に方法はなかったの?と思わずにいられませんでした。京都は歴史ある古都だからダメ、どうでもいいような田舎に落とせ、みたいな作戦会議での意見もゾっとしました。ナチスドイツと同じぐらい、アメリカの軍人や科学者が邪悪に見えました。戦争では侵略や虐殺など、日本もドイツも非道いことをしたけど、原爆こそがやはり最大の罪だとあらためて思いました。いま現在も未来を脅かしている核の恐怖の源となっている、という点において…

人気スターや実力派がそろう豪華キャストも、ノーラン監督作の魅力です。オッペンハイマー役のキリアン・マーフィーは、見事アカデミー賞主演男優賞を獲得


原爆チームを指揮する軍人役で、大好きなマット・デーモンも出演してます。マット、すっかり貫禄も恰幅もあるおじさんになりましたね~。すごい頼もしい感じが素敵。おじさんになったけどおっさん臭はあまりなく、清潔で爽やかな感じがするところが好きです。オッペンハイマーと対立する原子力委員会の会長役、ロバート・ダウニー・ジュニアもオスカーを受賞。でも、そこまで印象に残る演技でもなかったような?かつて候補になった「トロピック・サンダー」で受賞してほしかったかも。オッペンの愛人役のフローレンス・ピューが、相変わらずの無駄脱ぎっぷり。とても20代とは思えぬ完熟ヌードです。原子力委員会長の秘書役、「フェアプレー」でモラハラ彼氏役を熱演してたオールデン・エアエンライクが端正な男前でした。ラミ・マレックも顔を見せてましたが、何の役?登場人物が多すぎて、誰が誰で何の役なのか???になることも

余談ですが…先日、久々に平和公園に行きました。ものすごい数の外国人観光客に、ちょっとビビってしまいました。楽しそうに笑顔で原爆ドームや平和記念碑の前で写真を撮ったりはしゃいだりしてる彼らに、すごい違和感も覚えてしまいました。アウシュヴィッツ収容所跡やワールドトレードセンター跡ではこんな楽しそうにはしないんだろうな、と悲しくなりました。