Netflixのドラマ「リプリー」を観ました。全8話。
ニューヨークで詐欺をしながら孤独に生きていたトム・リプリーは、金持ちのグリーンリーフ氏から放蕩息子のディッキーを家に連れ戻す仕事を引き受ける。イタリアのアトラーニで暮らすディッキーに近づき親しくなるリプリーだったが、ディッキーの恋人マージはリプリーに警戒心を抱き…
アラン・ドロン主演の名作「太陽がいっぱい」や、マット・デーモンの「リプリー」など、これまで何度も映像化されたパトリシア・ハイスミスの小説の最新テレビドラマ版。3つの中では最も原作に近いリプリーではないかと思いました。アラン・ドロンのトム・リプリーは、ダークで怪しいところは合ってたけど、いかんせん美男子すぎる。退廃的で刹那的な悪い男っぷりといい、わかりやすく魅力的すぎるところが、本来の複雑で異様な人物であるはずのリプリーとはちょっと違う感じ。マットのリプリーは、ほとんどギャグ。あの悪名高い伝説の黄緑色海パン姿など、ファン以外にはキモいだけのミスキャストでした。ドロン版もマット版も、同性愛的なものは何となく匂わせていたけど、あくまでオブラートに薄く浅くでした。今回のリプリーははっきり同性愛者で、それが腐女子をときめかせるような甘く切ないものではなく、隠れゲイの孤独と屈折、底意地の悪さがイタくてキツいです。

女っけなし、女にいっさい興味なし、どころか嫌悪さえしてる感じのリプリー。マージに対して表向きは礼儀正しく優しいけど、言動や表情には嫉妬や憎悪、軽蔑が小さなトゲのようにひそんでいる…そんな女性以上に女性的な裏表ある陰湿さが怖くて面白いリプリーでした。BL映画やドラマの、美しく優しく勇気ある男たちなんて、やはりファンタジー。生まれ育ちにも社会的地位にも容貌にも特に恵まれず、ただもう攻撃や排斥をされぬよう息を潜めて生きているうちに、自分を守るための暗く狡猾な世知や韜晦に長けてくる…そんなゲイのリアルさもあるリプリーでした。

厳しく冷たい世間を生き抜くためには、多少は卑屈にも悪賢くなることも必要だとは思うけど。リプリーはそんな生易しいもんじゃなかった。決して関わってはいけない、まるで静かなる毒虫みたいな男でした。これといって特徴のない地味で平凡な風貌、ちょっと胡散臭いけど大した害にはならないだろうと、取るに足らない存在と見なし軽んじて油断すると、すうっと生活や心の隙間から入り込まれ、気づかぬうちに浸食され蝕まれてしまう。悪意や邪気があるわけではなく、そうせずにはいられない寄生虫の本能のような罪の重ね方が、不気味で悲しいリプリーでした。

都合が悪くなると容赦なく躊躇なく殺人を犯し、隠ぺい工作や詐欺行為に奔走するリプリー、その体力気力が驚異的。なりすましがバレない、警察に捕まらないのも、現在だとありえない。まだ防犯カメラもインターネットもなかった時代だからこその犯行でした。警察も含め、出てくるイタリア人がみんな何だか倦怠的で、何事にも熱意がなくテキトーなところもリプリーにとっては幸運でした。
リプリー役は、「異人たち」でも高く評価されたアンドリュー・スコット。

彼ってひょっとしたら、稀代の名優なのかも…風貌も演技も、すべてにおいて地味~なのに、その地味さが派手なものを凌駕しているというか。いかにも演じてます!な感じがしないところがスゴいと思います。「異人たち」と見た目はほとんど同じ、静かな内省的な演技も同じなのですが、キムタクみたいに何やっても同じキムタク、とは全然違うんです。太ったり痩せたり筋肉つけたり肉体改造して見た目を変えることよりも、オーバーな熱演をすることよりも、アンドリュー・スコットの特異なことは何もしない、けど何げない表情や仕草で演じる人物の複雑さや陰影、狂気を表せる演技のほうが、はるかに難しく高等だと思います。男らしくもないけど女性っぽくもない、どこか中性的、ていうか性がない感じも彼の個性でしょうか。演技が巧くてもノンケの俳優には出せない妖しさを、時々なにげに放ってるのが強烈です。ディッキーの服を着て彼のマネをしてる時の様子とか、ラストの肖像画のモデルをしてる時の表情とポーズとか、かなりインパクトがありました。

ディッキーにあまり魅力がなかったのが残念。ただのお人よしなボンボンで、見た目もフツー。無意識にゲイを翻弄する小悪魔な美青年にしてほしかった。マージはなかなか食えない女で、ラスト近くのリプリーへのいやがらせは、まさに女の性悪さで面白かったです。マージ役は、元名子役のダコタ・ファニング。すでに世間の酸いも甘いも知り尽くしたような、気怠いくたびれ感ある女優になってますね~。ディッキーの金持ちの友人フランキーは、男装した女?おなべさん?演じてたのは、イギリスの大物歌手スティングの娘だとか。女性が男の役を演じることに、何の意味があったんだろう。
アトラーニからナポリ、ローマ、ヴェネツィア…全編モノクロで獲られたイタリアの風景が美しかったです。ディッキーが暮らす家、路地のカフェ、おなじみのゴンドラと運河、ホテル、美術館や教会etc.イタリアにも行ってみたい!
ニューヨークで詐欺をしながら孤独に生きていたトム・リプリーは、金持ちのグリーンリーフ氏から放蕩息子のディッキーを家に連れ戻す仕事を引き受ける。イタリアのアトラーニで暮らすディッキーに近づき親しくなるリプリーだったが、ディッキーの恋人マージはリプリーに警戒心を抱き…
アラン・ドロン主演の名作「太陽がいっぱい」や、マット・デーモンの「リプリー」など、これまで何度も映像化されたパトリシア・ハイスミスの小説の最新テレビドラマ版。3つの中では最も原作に近いリプリーではないかと思いました。アラン・ドロンのトム・リプリーは、ダークで怪しいところは合ってたけど、いかんせん美男子すぎる。退廃的で刹那的な悪い男っぷりといい、わかりやすく魅力的すぎるところが、本来の複雑で異様な人物であるはずのリプリーとはちょっと違う感じ。マットのリプリーは、ほとんどギャグ。あの悪名高い伝説の黄緑色海パン姿など、ファン以外にはキモいだけのミスキャストでした。ドロン版もマット版も、同性愛的なものは何となく匂わせていたけど、あくまでオブラートに薄く浅くでした。今回のリプリーははっきり同性愛者で、それが腐女子をときめかせるような甘く切ないものではなく、隠れゲイの孤独と屈折、底意地の悪さがイタくてキツいです。

女っけなし、女にいっさい興味なし、どころか嫌悪さえしてる感じのリプリー。マージに対して表向きは礼儀正しく優しいけど、言動や表情には嫉妬や憎悪、軽蔑が小さなトゲのようにひそんでいる…そんな女性以上に女性的な裏表ある陰湿さが怖くて面白いリプリーでした。BL映画やドラマの、美しく優しく勇気ある男たちなんて、やはりファンタジー。生まれ育ちにも社会的地位にも容貌にも特に恵まれず、ただもう攻撃や排斥をされぬよう息を潜めて生きているうちに、自分を守るための暗く狡猾な世知や韜晦に長けてくる…そんなゲイのリアルさもあるリプリーでした。

厳しく冷たい世間を生き抜くためには、多少は卑屈にも悪賢くなることも必要だとは思うけど。リプリーはそんな生易しいもんじゃなかった。決して関わってはいけない、まるで静かなる毒虫みたいな男でした。これといって特徴のない地味で平凡な風貌、ちょっと胡散臭いけど大した害にはならないだろうと、取るに足らない存在と見なし軽んじて油断すると、すうっと生活や心の隙間から入り込まれ、気づかぬうちに浸食され蝕まれてしまう。悪意や邪気があるわけではなく、そうせずにはいられない寄生虫の本能のような罪の重ね方が、不気味で悲しいリプリーでした。

都合が悪くなると容赦なく躊躇なく殺人を犯し、隠ぺい工作や詐欺行為に奔走するリプリー、その体力気力が驚異的。なりすましがバレない、警察に捕まらないのも、現在だとありえない。まだ防犯カメラもインターネットもなかった時代だからこその犯行でした。警察も含め、出てくるイタリア人がみんな何だか倦怠的で、何事にも熱意がなくテキトーなところもリプリーにとっては幸運でした。
リプリー役は、「異人たち」でも高く評価されたアンドリュー・スコット。

彼ってひょっとしたら、稀代の名優なのかも…風貌も演技も、すべてにおいて地味~なのに、その地味さが派手なものを凌駕しているというか。いかにも演じてます!な感じがしないところがスゴいと思います。「異人たち」と見た目はほとんど同じ、静かな内省的な演技も同じなのですが、キムタクみたいに何やっても同じキムタク、とは全然違うんです。太ったり痩せたり筋肉つけたり肉体改造して見た目を変えることよりも、オーバーな熱演をすることよりも、アンドリュー・スコットの特異なことは何もしない、けど何げない表情や仕草で演じる人物の複雑さや陰影、狂気を表せる演技のほうが、はるかに難しく高等だと思います。男らしくもないけど女性っぽくもない、どこか中性的、ていうか性がない感じも彼の個性でしょうか。演技が巧くてもノンケの俳優には出せない妖しさを、時々なにげに放ってるのが強烈です。ディッキーの服を着て彼のマネをしてる時の様子とか、ラストの肖像画のモデルをしてる時の表情とポーズとか、かなりインパクトがありました。

ディッキーにあまり魅力がなかったのが残念。ただのお人よしなボンボンで、見た目もフツー。無意識にゲイを翻弄する小悪魔な美青年にしてほしかった。マージはなかなか食えない女で、ラスト近くのリプリーへのいやがらせは、まさに女の性悪さで面白かったです。マージ役は、元名子役のダコタ・ファニング。すでに世間の酸いも甘いも知り尽くしたような、気怠いくたびれ感ある女優になってますね~。ディッキーの金持ちの友人フランキーは、男装した女?おなべさん?演じてたのは、イギリスの大物歌手スティングの娘だとか。女性が男の役を演じることに、何の意味があったんだろう。
アトラーニからナポリ、ローマ、ヴェネツィア…全編モノクロで獲られたイタリアの風景が美しかったです。ディッキーが暮らす家、路地のカフェ、おなじみのゴンドラと運河、ホテル、美術館や教会etc.イタリアにも行ってみたい!