まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

愛は涅槃で待つ

2024-05-05 | イギリス、アイルランド映画
 「異人たち」
 ロンドンで暮らす脚本家のアダムは、かつて両親と住んでいた郊外の家に立ち寄る。そこで幼い頃に事故死した両親と再会したアダムは、両親に会うため旧家に通い始める。そんな中、同じマンションの住人ハリーと恋に落ちるアダムだったが…
 今年上半期の腐マスト映画、やっと&ついに観に行くことができました!結論から申し上げますと…せつなかった!尊かった!期待し過ぎると「落下の解剖学」みたいなことに…という心配は、杞憂に終わりました。期待通り、期待以上の佳作でした。古今東西いろんなBL映画を観てきたけど、正直そんなに胸に刺さる、胸に残るような作品には出会ったことないんですよね~。ほとんどのBL映画、BLドラマは、現実味のない絵空事なファンタジーだけど、カッコいいイケメンや男前を愛でることができればそれでいいかな、みたいな構えで観てるので、失望もしない代わりに感動とか衝撃もないのですが、ごくまれに奇跡のようなBL作品に出会うこともある。この作品がそれでした。深く優しく悲痛…という理想的なBLが描かれていました。

 この作品はBL映画というより、ゲイ映画と言ったほうがしっくりくるかも。フィクションの世界では、男性同士の恋愛もすっかり市民権を得ていて、最近のBLものは男女とそう変わらないような内容のものが多く、同性愛ゆえの苦悩や苦闘、悲しみなど存在しないハッピー&スウィートさ。それこそが魅力とも言えるのだけど、そんなのを観続けているうちに違和感というか疑問というか、ノーテンキで軽薄なBLってゲイを冒涜してるように思えてきて。おっさんずラブとか、私も最初は笑いながら楽しんでたのだけど、だんだん不愉快に。結局はゲイをイロモノ扱い、バカにしてるように思えて、パート2は途中リタイア。観たいのはもっと真摯な、でも気が滅入るような、目を背けたくなるようなリアルなものではなく、現実の中でささやかに懸命に息づいている姿が美しい悲しい、と心動かされるBL…まさにこの映画がそれでした。

 死んだ両親と再会という設定はファンタジーですが、アダムとハリーのBLは現実的。ゲイってこんな風に惹かれ合って想いを伝え合って結ばれて、そして傷ついて悩むんだな~と、男女の恋愛ものとの違いをさりげなくも明確に描いているところが、さすがオープンゲイのアンドリュー・ヘイ監督ならでは。都会を舞台にしているのに静かで寂しい雰囲気なのも、ゲイの恋愛や人生をよく表していると思います。「さざなみ」や「ウィークエンド」など、ヘイ監督の感性がすごく好き。現実的なのに生々しくないところとか。ベタベタしい湿っぽさがなく、どこか乾いた悲哀の心地よさとか。ファンタジー部分も奇をてらった演出やシーンなど全然なく、アダムが幽霊?と会ってることも忘れそうになるほど。アダムの部屋の窓から臨むロンドンの夜と朝の風景の寂寥感ある美しさ、アダムとハリーがトンじゃうクラブのシーンのスタイリッシュさなど、今回も私の胸を衝く映像と演出でした。

 喪失の痛みと悲しみがテーマなのですが。私はそんなに愛されたことも愛したこともないのでアダムと両親のエピソードには、そんなに感動はしませんでした。もし両親が死んでもそんなに会いたくないかももし会ったら、お互い生きてる時によくも~!と不満不平ぶつけ合ってケンカになるだけだと思うし。この映画と違い、私の場合はコメディがホラーになっちゃいそうです。

 アダムとハリーの愛は、ほんとジワる!お互いを思いやる優しさ、分かち合う安らぎには、見てるほうも幸せな気分に。二人のゲイゆえの孤独、家族や社会との断絶と疎外感、ゲイの生きづらさも、最近の粗製乱造BLにはないリアルでした。このまま末永く…と願わずにいられない二人が、ああ…衝撃的で悲しい真実に、観る者は打ちのめされてしまうのですが。気づかないフリはできない劇中の不幸フラグ、悲しい伏線の回収に胸がしめつけられるラストでしたが、ある意味ハッピーエンドな余韻も。エンドクレジットへつながる演出が、これまた切ないまでにロマンティックで、冷血な私のハートを優しい五月雨のように潤したのでした。

 BLカップルを演じた二人の俳優が、とにかく素晴らしい!アダム役のアンドリュー・スコットは、ちょっと前にnetflixのドラマ「リプリー」を観たばかりなので、彼の地味にスゴい役者っぷりにあらためて感嘆。いろんな映画やドラマでお見掛けしますが、今まででいちばんいい男に見えたかも。これ見よがしじゃなく、かつ引き込んでくるという難易度の高い演技。特に別におかしなことはしないのに、ひょっとして心が…?と思わせる静かな不安定さ、不穏さが秀逸。カミングアウト俳優としても有名な彼、男と愛し合う姿がこれほどナチュラルな俳優もなかなかいません。もう青年じゃない大人の落ち着き、けどおっさんでもない繊細さも魅力的でした。それにしても。アダム、霊感強すぎでしょ
 ハリー役のポール・メスカルが、か、可愛い!

 いや~ポール、ほんといい役者ですね~。あんなラヴリーでピュアな笑顔、演技でできるもんなんですね~。いきなりポールみたいな男が訪ねてきて、あの笑顔で一緒に飲もう(=ヤろう)と誘ってきたら、私なら断る自信ないわ~。断ったアダムの用心深さと自制心、あのとき部屋に入れていたら…と思うと泣けてきます。年上の男に甘える可愛さ、支える頼もしさ、風貌もキャラも一途で忠実な大型犬みたい。こんな彼氏ほしい!なポールasハリーでした。

 言動は明るいけど、たまに見せる暗い淵をのぞいているような目とか、泣くのをこらえているような表情とか、ハリーが深い傷と闇を心に抱えていることがわかるポールの演技は、秀作「アフターサン」の彼を彷彿とさせました。脱ぎっぷりのよさも相変わらず。ムキムキバキバキではなく、がっちりむっちりなガタイが素敵。ラブシーンではお尻も当然のように見せてます。デカくてきれいなケツがイイネ!ポールの相手を労わるような愛撫や腰の動きがムズキュンでした。セックスシーンはBLでは大切。リアルだけどイヤらしくない、情熱と優しさにあふれるアダムとハリーのセックスシーンも、BL映画では理想的なものでした。ポールみたいな若い俳優が日本にいないのが残念、と今回も思ったけど。日本の若い俳優だってみんな優秀、ただポールが特別で稀有なだけ、と思い至りもしました。

 アダムの両親役のジェイミー・ベルとクレア・フォイも好演。登場人物は全編ほぼ4人だけ、というシンプルさも今思えば驚異的。山田太一先生の小説「異人たちとの夏」をイギリスで大胆にBLアレンジしての映画化、ということも話題に。邦画版もあるみたいですが、ぜんぜん観る気が起きない男女の話とかありえん~!なんて思ってしまって。ぜひBLバージョンで日本でリメイク希望!アダムは妻夫木聡、ハリーは池松壮亮でお願いします!

 アダム&ハリーforever…

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5 コメント

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Unknown (えびすこ)
2024-05-06 14:47:58
逆輸入方式でのリメイク。いいですね。
希望は妻夫木くんと池松くん。いいですね。
私は「Shall We Dance?」を邦画でリメイクしてほしいのですが、なかなか難しいかな?
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沖雅也、、、 (すねこすり)
2024-05-06 20:41:10
たけ子さんが☆4つって、凄くないですか??
ツボりましたか!
本日、2度目の鑑賞に行きました。すごく感動したからとかではなく、確認したいことがいくつかあって、、、なんですが。
たけ子さんとはちょっと感想が異なりますけど、私も邦画版よりはこちらの方が好きです。
原作>本作>邦画、、、ですかね(*^-^*)
逆輸入リメイク、いいですね。
池松君は賛成ですが、ぶっきーよりは、ちょっと年齢的にアレですが、西島さんか、ハセヒロか、青柳君とかがいいかなー、私的には(^^♪
いや、ぶっきーもイイんですが、悲哀とか程遠いイメージなんで、、、(^^;
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日景さん (松たけ子)
2024-05-07 00:19:51
えびすこさん、こんばんは!
ブッキーと池松くんの異人たち、観たいですよね~。池松くんは新作映画でどうやら同性愛者の役を演じてるみたいですね。
shall we danceは未見。ハリウッド版もあったような?

すねこすりさん、こんばんは!
ツボりました~!内容も役者も雰囲気も、すごく好き。すねこすりさんが確認したかったことって何だろう?ご感想UPを楽しみにしてます(^^♪私はあのマンションが気になるんですよね~。住人はアダムとハリーだけ?
ブッキーは単に私が好きだから、それだけの理由で(笑)。ゲイっぽさがあるところも大事。いまだに私、ブッキーのこと疑ってますから(笑)。青柳翔もいいですね~。若い頃の青柳翔ならハリー役もよさげ。
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銀板の銀幕 (えびすこ)
2024-05-08 22:10:05
「ぼくのお日さま」ですか?池松くんが演じる人物のモデルは誰かな?
BLテイストもあるんですか。邦画でフィギュアスケートを取り挙げるのは珍しいですね。
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フィギュア選手が苦手 (松たけ子)
2024-05-09 21:10:20
えびすこさん、こんばんは!
ぼくのお日さま、池松くん扮するスケートのコーチの恋人役は、いま注目の若葉竜也ですね。あんましタイプじゃない(笑)。フィギュアよりスピードスケートのほうが好きです。
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