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山田詠美「A2Z」

2006-09-10 16:10:35 | ノンジャンル
 今日の山田詠美作品は'00年作品「A2Z」と書いて、「A to Z」と読みます。冒頭の文「たった二十六文字で、関係のすべてを描ける言語がある。」というのはアルファベットのことです。ということで、この小説はアルファベットに因んだ遊びを二つしています。一つは章がa章からz章までの26章からなっていること。もう一つは、それぞれの章に、その章の題名で始める単語を一つゴシック体で混ぜていること。例えば、a章だったら、「目の前で交通事故accidentを目撃してしまった」というような文が必ず混じっているということです。
 それから、この小説には黒人を含む外国人は一切出てきません。登場人物はすべて日本人です。これは山田詠美さんの作品では初めてのことです。
 内容は編集者の夫婦がそれぞれに愛人を持ち、新人作家の世渡りのうまい青年の奪い合いをしますが、最後はハッピーエンドといった感じの話です。夫があまり感じのいい男に描かれていないような気がしましたが、夫婦の間での男女関係の確執と新人作家の奪い合いを考えれば、妻を主人公とするこの小説では、仕方が無かったのかもしれません。というのも、詠美さんの小説にはあまり感じの悪い人物というのは登場しなかったような気がしましたので。私の読み違いかもしれません。
 出版業界の内状が分かって、面白く読めました。文章も簡潔で読みやすく、たまに独白が長くなる詠美さんの悪い癖も出て無いように思いました。まだ読んでいない方、オススメです。

また蓮實重彦?

2006-09-09 18:18:52 | ノンジャンル
 きのうの朝日新聞の夕刊に「溝口健二監督没後50年シンポ--MIZOGUCHI2006」の記事が載っていました。ところが司会を務めたのが、「評論家」の蓮實重彦氏と山根貞男氏と書いてあるのを読んで、またかよ、といった怒りがふつふつと涌いてきました。小津の時も、ジョン・フォードの時も、ホークスの時も、ルノワールの時も、全部司会は蓮實重彦。おいしいところを持って行き過ぎです。そろそろ後輩に譲ったらいかがですか? それともまだ蓮實重彦を超えるような、映画におけるイベント企画家が出て来ていないのですか? なんでもかんでも蓮實重彦というのはもう止めてほしいです。
 しかも集まったゲストがすごい。若尾文子、香川京子(好きです!)、ビクトル・エリセ監督、他日本の監督4人とフランスの評論家一人。(これは裏話ですが、香川京子の娘さんが、私が在籍していた湘南高校の合唱部に入られたと聞いた時は、運命の糸の存在を感じたものでした。)
 私の溝口映画ナンバーワンというのも掲載されていて、これが面白かったです。私も大好きな「近松物語」を選んでいる人が二人、「雨月物語」を選んでいる人が一人、といった中で、蓮實氏「残菊物語り」(どんなんだっけなあ?)、山根氏「雪夫人絵図」(これも全然思い出せない)といった、普通代表作とされるものとは全く別の映画を選んでいるのはさすがでした。(蓮實氏は小津の時も「非常線の女」をナンバーワンにした前科があります。)「山椒太夫」を選んでいる人がいなかったのは寂しかったですが、エリセ監督が「'51年以降の作品すべて」と答えておられたので、ちょっとホッとしました。以前やはり朝日新聞に掲載されたエリセ監督が溝口監督を語る記事で、「山椒太夫」のラストシーンを見て、映画の見方が変ったとまで、おっしゃっておられたので、私も大好きなこの映画の名前が少しでも出てほしかったと思っていたのでした。
 ということで、次に大監督がテーマになるシンポジウムでは、蓮實重彦の名前が表立ってどうか出てこないようにと祈る私なのでした。(別に私的な恨みはございませんので、念のため。)

山田詠美『マグネット』

2006-09-08 16:30:30 | ノンジャンル
 今日の山田詠美作品は「マグネット」です。8編の短編からなっている本です。
 第一話「熱いジャズの焼き菓子」は、恋人が殺人を犯し、西日の当たる暑い彼の部屋にこもる話、第二話「解凍」は、当時の恋人が目の前で焼身自殺したという体験を持つ大学時代の親友が、放火犯で捕まったことを新聞記事で知る話、第三話「YO-YO」は、バーテンとお互いに買う、買われるという肉体関係を続ける女の話、第四話「瞳の致死量」は、ニューヨークに住む恋人同志が、それぞれの部屋から向かいのビルの人々の生活を双眼鏡で覗き見する話、第五話「LIPS」は、結婚詐欺師と呼ばれる男が自己を正当化する話、第六話「マグネット」は、13才だった時、先生を誘惑して猥褻な行為に走らせた女性が、大人になってその教師が女子生徒への強制猥褻の罪で捕まったのを知る話、第七話「COX」は、今だに処女の妹が髪をバッサリ切って、ゲイバーのバーテンになり、ポルトガル人の肉体労働者と初体験を迎えるという話、第七話「アイロン」は、満員電車で痴漢に悩まされているOLが、前から目をつけ、妄想にふけっていた長身の男とたまたま電車の中で隣り合い、彼から声もかけてもらう話、第八話「最後の資料」は、上の妹の刑事だった夫が心臓疾患で亡くなり、その前後を語った話です。
 第八話は、実録小説で、実際に詠美さんの義弟が亡くなった話を書いています。葬儀の最中、嘆き悲しむ周囲の人々を不思議そうに見渡しながら、義弟の長女が「パパは死んでないよ。パパは、こんなかに、うじゃうじゃ生きてるんだよ。本当だよ」と自分の胸を何度も叩いたそうです。詠美さんはこれ程、稚拙でありながら、力強い言葉に出会ったことがない、と書かれていました。
 他の短編では、個人的には「アイロン」が面白かったかな、と思いましたが、全体的には、いつもの詠美さんの本ほど、面白さを堪能できなかったような気がします。
 読んでいない皆さんは、ご自分で読んでみて判断してみてください。

山田詠美+中沢新一『ファンダメンタルな二人』

2006-09-07 16:16:28 | ノンジャンル
 月刊誌「クレア」の'88年12月号から'91年11月号まで掲載された、山田詠美さんと中沢新一氏の対談集です。中沢氏と言うと、我々の世代には、ポスト・モダンを浅田彰氏らと背負った文化人類学者といったイメージが強いのですが、この対談を読んだあとでも明確なイメージが涌きませんでした。
 ただ、この対談でも一発目に話題にしていますが、オウム真理教がまだ犯罪集団と分かる前の段階で彼らのことを擁護していた数少ない文化人ということで、オウムの犯罪が発覚した後は、立場がなくなったという話をどこかで聞いた記憶があります。
 対談の内容は時事ネタが多く、「ユーミンは、卑弥呼である」という対談でユーミンの怒りを買ったとか、「村上龍は、『おやじギャル』のペット」ほかいくつかの対談で、村上龍をこきおろして、後で仲直りしたとか、これも一時話題になった「幸福の科学」を取り上げたり、もちろん芸能ネタもあって「松田聖子は『嫌われもん』か」といった対談があったり、文学ネタでは「荻野アンナと『トンチママ』」なんてのもあったり、それ以外でも、ただ面白いだけでなく、勉強になることも結構ありました。
 そして私にとって最大の収穫は下村湖人の「次郎物語」を再読しようと思わせてくれたことです。この本を読むと「平常心と慈悲の心」の大切さが分かり、生きて行く上で非常に役に立つと詠美さんはおっしゃっていました。彼女はこのころレトロな小説に凝っていて、有島武郎とか、倉田百三とか、半年前に部屋を整理するため、私が捨ててしまった本の名前が続々と出て来て、捨てないで押し入れの隅でもいいから置いておけば良かった、と今頃になって思っている次第です。
 「ファンダメンタルなふたり」、10年以上前の本ですが、面白いですよ。オススメです。

瀬尾まいこ『天国はまだ遠く』

2006-09-06 17:37:14 | ノンジャンル
 瀬尾まいこさんの'04年作品「天国はまだ遠く」を読みました。
 人がよく、かえってそのために業績が上がらない営業職に疲れ果て、自殺しようとカバン一つで目的地も決めず、とにかく北へと向かう主人公の千鶴。電車の終点からタクシーに乗って、山奥の山村に着き、その村で唯一の民宿に泊まりますが、そこは普段はほとんど客の来ない農家で、若い男田村が一人で農業や釣りをして生活していました。
 最初の晩に2週間分の睡眠薬を飲み、自殺を決行しましたが、一昼夜寝て、二日後に爽やかな目覚めをする主人公。死ぬ気も失せてしまい、それからは昼間は散歩し、畑仕事をする老人に挨拶し、夜は田村と夕食をともにする毎日を送るようになります。
 なかなか立ち去る気配のない千鶴に向かって、田村は自殺しに来たんだろ、と言い、自殺の名所が近くにあるから、やるならあそこだと思っていた、と淡々と語ります。そして、自殺することを恋人だけにメールで伝えてあると主人公が言うと、心配してるだろうから、ここで元気にしてることを伝えなきゃと田村が言い、早くしないと捜索願いだされるで、と付け加えます。恋人に連絡をすると、彼はすぐにやって来て、彼女の様子を見て安心し、帰って行きます。
 その後も、田村に釣りに連れてってもらったり、夜には田村が両親が亡くなったので、会社の仕事を辞めて、この家と畑を継いでいるという話を聞いたり、鶏小屋の掃除をして、その夜にしめた鶏を田村と食べたり、田村とともに行った教会で見事なコーラスの賛美歌を聞いたり、地元の人の飲み会に参加したり、田村に勧められて絵を海に描きに行って、とんでもなく下手な絵を描いて田村の失笑を買ったり、田村との田舎生活を楽しく過ごしてきた千鶴でしたが、気持ちの整理をつけた千鶴は、冬が近づいてきた日に街へ帰る決心をします。離れがたい気持ちを振り切りながら、別れる二人。土産物を山のようにもらった千鶴は再びこの村を訪れる日がきっと来ると思ったのでした。
 淡々とした語り口で、すらすらと読めました。田村の純朴さと千鶴のちょっととぼけた人の良さがいい釣り合いを見せていて、読んでいてほのぼのとした気分になりました。瀬尾さんの他の作品と同じく、この小説も善人しか出てこないのに、ドラマが成立する小説でした。まだ読んでない方、オススメです。