どこまでだって歩いていけるさ

2012年1月22日 それまでの日記を引き連れてOCN Cafeから移住。
新しい扉の向こうには何があるのだろうか。

着地せぬままフェイドアウト

2016年09月05日 | 日記
じっとしていても汗が流れる というほどの暑さでは無いが ぼんやりと暑い

それでも少しは冷房も切らなければと思い 午前中は比較的涼しいキッチンで図書館から借りてきた本を読む

丸谷才一の『人魚はア・カペラで歌う』

彼独特のエッセイというのか 高尚な雑文集のうちの一冊

この手の作品を何冊か買って読んできたが 家の整理の時に廃棄処分にすることはどうしてもできなかった


話が古今東西を超え ジャンルさえ超えたかとみせて ひとつの話にまとめてみせる

噺家のまくらのように全く違うところから話が始まり どうなるのかと思うと あぁ そこに着地するわけね といった具合だったり すぐに話が始まったかと思うと いつのまにか明後日のほうに話が飛び やがてもとに戻る

でも 人って普段はこんな風に考えたり ひとと話をしてると思う

その道に精通した人であれば知っているのだろうが 私なんぞは何も知らずに生きてきた気持ちに陥るほどの(いや 実際その通りなのだが それを思い知らされる)知識に脱帽どころか ははぁ と言ってひれ伏すしかなくなる

まあ それが彼の商売ではあるけれども


たとえばその一章に「村上春樹から橋本夢道へ」というのがある

最初はワインを葡萄酒と訳すかどうかの話から始まり(村上春樹はほんのさわりで終わる) それはすぐに「赤玉ポートワイン」の話へと向かう

それからは「赤玉」と寿屋(サントリー)の宣伝マンだった「片岡敏郎」の話がしばらく続く

それが広告のコピーの話にまで発展し 俳人の橋本夢道で落ち着くといった具合

駆け足で説明したが 知識の芋づる式とでも言ったらよいか 


宣伝も兼ねてこの「赤玉」を流行らせようと鳥井大将(社長とは呼ぶな 大将と呼べと命じたそうな) 花柳界から流行らせるべく かんざし作戦から始まり 女性の月のものを「赤玉」と呼ぶことをすすめたそうな

それを『隠語辞典』でしっかりと確かめるあたりがすごい

片岡敏朗なるひとの赤玉ポートワインの衝撃的なポスターは 私もどこかで見たことがあったが これほど有名な人とは知らなかった

開高健や山口瞳がこの会社の宣伝マンだったことは有名だが なるほどこれだけの人を輩出するだけの長い歴史があったのだ


赤玉というと私は「赤玉ハニーワイン」

多分 そうだったはず

子供の頃のお正月やクリスマスなどには サイダーに少しこれを入れてもらったものを飲んでいた記憶がある

別に味はどうということもなかったが いつもと違うグラスにいつもとは違う色だけを喜んだ

それから次第に そうした特別な日にだけ 日本酒を少し ウィスキーをサイダーで割ったものを少し そんな具合にして嗜むことができた

だから 背伸びをして未成年のうちに隠れて飲もうともちっとも思わなかったし したこともなかった

サントリーの話が続いたが 父は後年になって ウィスキーはニッカのほうが旨いと言っていた

私は どこで止めたらよいかわからなくなるのが怖くて ボトルタイプのお酒は 日本酒もワインもウィスキーも一切家には置かないことにしている

そして こうした話にも止めどが無くて 私の話は着地せぬままにフェイドアウトするのである


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2 コメント

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春さんへ (yokochann)
2016-09-06 15:14:10
春さんも丸谷さんはお好きですか。
丸谷さんは文壇界のドンだったそうで、実際の人物を好きになれたかどうかは疑問ですが、エッセイは面白い。
私も文庫で読んできました。

そうなの・・・これはまだ文庫になっていないのよ。だから図書館で借りました。
和田誠さんの挿絵もいいのですよね~^^。

オチの無い中途半端な話を気に入っていただけて、嬉しいです。
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決まらない着地もすき (春庭)
2016-09-06 09:35:13
丸谷才一から子ども時代の赤玉へ、現在の「ボトルはおかない」まで、こんな話の流れ、ここちよいです。

オリンピック体操競技で、内村航平のフィニッシュ、アナウンサーは叫ぶ「さあ、内村、金メダルへの着地だあ!」見事にぴたっと立ち止まる着地。すごい。でもね。私は、これで着地がころりんと一回転しちゃうようなのも好きなんです。だれだったっけの跳馬もころりんしてましたけど、さんざんくるんくるん回っておいて、最後は回っちゃいけない、なんてね。

ぴったり決まるオチもすき、なんとなく終了もすき。

丸谷才一の本、文庫になったエッセイはほとんど読んできたはずなのに、橋本夢道のこと、名前を聞いたこともないと思ったら、『人魚はア・カペラで歌う』は、まだ文庫になっていなかった。
文庫で読みます。
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