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断続的に降る雨に、緑がさらに深くなる。葉の上をよくみると、蝸牛が角を出して静かに葉を食べている。カタツムリを蝸牛と書くのは、この角があるせいだ。この小さな蝸牛の角に人生を擬した漢詩がある。日本人に人気のある白居易の「酒に対す其二」だ。
対酒 白居易
蝸牛角上争何事 蝸牛角上何事をか争う
石火光中寄此身 石火光中此の身を寄す
随富随貧且歓楽 富に随い貧に随い旦く歓楽せん
不開口笑是癡人 口を開いて笑わざるは是れ痴人
蝸牛角上の争いというのは、荘子の寓話。カタツムリの左右の角に国があり、覇を競って激しく争った。国の争いをカタツムリの角のような小さなものに例え、無意味なことのいいにした。世間に生きる人であっても同じことである。石火光中とは、火打石が光るきわめて短い瞬間。人生をほんの短いものに例えた。そんなはかなくそして短い時間の生だからこそ、酒を飲んで楽しもう。愉快になって笑わない奴は、愚か者なのだ。白居易の明るい人柄が偲ばれる詩である。
やさしさは殻透くばかり蝸牛 山口 誓子