ベランダから眺める周りの山々も、日に日に表情を変える。春の日差しが雪を減らし、山々の木々の色を濃くしていく。めぐるましく変わる陽気も、暖かい日の後に、寒気が入り込んでくる。こんな寒さを、冴え帰ると表現する。昔口ずさんだ、『早春譜』がなつかしい。
春は名のみの風の寒さや
谷の鶯歌は思えど
時にあらずと声も立てず
時にああずと声も立てず
氷解け去り葦は角ぐむ
さては時ぞと思うあやにく
今日もきのうも雪の空
今日もきのうも雪の空
この歌の作詞は吉丸一昌(1873~1916)である。東京音楽学校の教授で、小学唱歌編纂委員会の作詞委員会委員長を務めていた。大正の初期から、教育界に自由主義の風潮が現れてきた。童謡が世間に受け入れられ、「子どもには子どもの歌を」をモットーに新しい感覚の唱歌が発表された。こうしたなかで生まれたのが、吉丸一昌の『新作唱歌』である。『早春譜』は、日本の歌として、いまなお多くの歌い手に歌い継がれている。