千葉に行ってから10日、自粛しながら体調に異変がないことを確認しての久しぶりに山行である。予報は曇り、山中には霧が立ち込めている。身に沁みるような新緑、この季節には何度も見たはずなのに、そのあまりの美しさに言葉を失う。何よりも、こうして、緑の雫のなかに立つことができたことがうれしい。無意識に歩きのリズムが早くなり、足の筋肉も久しぶりの出番を喜んでいるのだろうか。
万緑の奥へ奥への未来濃し 鈴木節子
大平山と言えば、思い浮かぶのは秋田の名山だが、山形にも同じ名の山がある。ここは尾花沢の細野集落の里山。登山口には黄色いポストが置かれている。廃業した郵便局のポストを貰い受けたらしいが、手紙が投函されないように黄色に塗り替えてある。標高8414m、山形百名山の一つに数えられる。登山口から頂上まで、整備して歩きやすい登山道だが、急勾配の地点にはロープを張って登山者の安全に気配りもされている。
一歩ずつ歩を進めるごとに、霧が深くなっていく。オオカメノキやタムシバ、ヤシオツツジが霧に霞んで幻想的な雰囲気をかもし出す。本日の参加者は12名、内男性は3名。コロナの非常事態宣言でしばらく山行を中止したせいか、参加者の数がいつになく多い。うれしい限りだ。千葉から帰って、10日は経っているが万一を考えて山中でもマスクとソーシャルデスタンスを心がけて歩く。山道から枝道が所々にあるが、いずれも赤いテープで通行止めになっている。山菜やキノコの養殖がおこなわれているのか、深い山での作業が思いやられる。ブトが出て汗をかいた首筋あたりに群れている。ハッカ液を塗り、虫対策もいよいよ本番へ入っていく。
ポストのある」登山口から1時間40分、ほぼ標準のマップタイムで頂上を踏む。高い棒状の標識の向こうは一面の雲海。その雲海を破るようにして頭を出しているのが甑岳だ。一昨年であったか、この山の山開きの時期に登った時も同じような雲海に出会ったのを思い出した。里山で見る雲海は、山あいの小さな集落を見せ、その上にある山あいを埋めつくす。霧の山道を出て、目に飛び込んできた雲海に魅せられる。こんな偶然はめったにない。雲海とその上に浮かぶ山並みを見ながらの昼食となる。デスタンスをとりながらも、久しぶりの再会に話が弾む。帰路は、登った道を忠実に下る。ゼンマイが出ていて、手馴れた人は、正月用のゼンマイにと袋一杯の収穫。ほかにワラビ、コシアブラなど。2時下山。