いよいよコロナのワクチン接種の日が来た。高齢者のなかには、ワクチンの接種の順位が最初の方に来ていることに違和感をもらす人もいる。しかし、異をとなえても、自分の力でこの順位を動かすことは現実的には難しい。それよりも先行して接種を受ける高齢者自身の生き方が問われていると思う。先人は、高齢になってどう生きようとしたのか、名言をひも解くのも無駄ではない。田中菊雄先生という英語学者は、大学で授業を聞いた最初の先生であった。先生の著書『現代読書法』に次のような一文がある。
「青年には未来がある。希望がある。未発の力がある。それが青年の強みだ。しかし若返った老年にはとても及ばない。若返った老年!これこそ人生の華なのだ。読みたい。真剣に読みたい。私は今そういう気持ちでいっぱいだ。やる瀬ない飢渇が私を趁う。もっと学びたい、究めたい、読み直したい。それからでなければ死にきれない。」
山形大学を退官した後、先生は神奈川大学に奉職し、藤沢に住んだ。その神奈川大学も退任して、自宅の書斎で生活する晩年の先生の様子が新聞で紹介されたことがあった。書斎に入ったままいつまでも戻らない先生の様子を見に、家人が行くと、書斎で本を手にしたまま仮眠する先生の姿があったという。田中先生にも、生きるよすがとして反芻し続けた名言がある。
太陽が沈んでしまっても、
それでもなお夕映えは
美しく輝いている。
それでもなお夕映えは
美しく輝いている。
だから、人生の晩年に当たって、
君子たるものは、
さらに精神を百倍にも奮い立たせて、
りっぱに生きるようにすべきである (菜根譚)
君子たるものは、
さらに精神を百倍にも奮い立たせて、
りっぱに生きるようにすべきである (菜根譚)
もし、ワクチンの接種でもう少し健やかに生きる時間が与えられるならば、先生の心境に一歩でも近づきたい。家族や近しい人たちと、豊かで楽しい時間が持てるような生き方をしたい。それがこの措置への恩返しになることと信じたい。