時雨というか、荒れ模様というか、冬の雨まじりの強風が建物の角に当り、虎落笛の聞こえる一日であった。歳時記には、虎落笛を冬の厳しい風が柵や竹垣などに当って笛の音を発すると説明している。古代にはもがりは殯と書き、人が死んでから本葬までの間、屍を安置しておく場所を指している。仮喪のことである。高貴な人は殯宮として立派なものが造られたが、一般には竹竿などを組んで簡易な仮置き場であったらしい。これらの竹の柵に冬の冷たい風があたると、安置された霊魂が悲しみの声をあげていると想像したのかもしれない。
樹には樹の哀しみのあり虎落笛 木下夕爾
捥ぎ手がなく、葉の落ちた木に捨てられたように生る柿の実もいかにも寂しい光景である。時雨のなかを歩いて、見つけるものは、いずれも冬が来ることを告げている。そんななかで、辛夷の樹に春に咲かせる花芽をつけたがうれしい発見であった。