異常気候と言っても、秋の訪れはいつもの年と大きな変わりはない。朝夕に冷たい風が吹いて、広葉樹は赤や黄色に紅葉していく。やがて木枯らしが吹いて、木の根元には落葉となって地上に積る。木々や自然の営みは、悠久の時を重ねる。葉の落ちた木々をよく見ると、もう来春の芽を固く結んでいる。
「今年はいつもの年よりなんとなく、秋色の深さが感じられる。南の窓をひらくと隣家が見える。色づきかけた大きな柑橘の実や、なぞえの土手に二株ほど叢をなして咲いている茶の花や、血のような楓の梢、それらがとりどりの色調をもって、晩秋の静かな気配をしめしている」(中山義秀『晩秋記』)
中山がこの文を書いたのは終戦後3年目のことであった。苦難の時代を通りぬけて、平静な日常を取り戻した安堵感が、秋の深まりに意味をつけ加えている。そんな大きな出来事がなくとも、その年に、人生に訪れる曲がり角に立ったり、親しい人との別れなどがあれば、秋の哀愁は深まっていくであろう。
ひと息づつ時深みゆく夜の落葉 古賀まり子