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山形を出て、鹿島槍の登山口のある扇沢に着いたのは、11時近くであった。扇沢駐車場はバスの終着駅であり、黒部ダムへの観光、針ノ木、鹿島槍ケ岳への登山客の車を収容する。市営の無料の駐車場もあるが、我々が駐車した有料を含めて700台を収容するが、土曜日ということもあってか、ほぼ満車の状態であった。空はガスのような薄い雲に覆われ、高い山は見えていない。扇沢の駐車場から種池山荘までが、一日目の行程である。登山口の標高が1350m、山荘の標高1450m、その差1100mを登ることになる。距離にして約4.5㎞、標準の歩行時間は休憩2時間20分となっている。リーダーの行程表によると、休憩を含んで5時間20分となっている。
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扇沢登山口に登山相談所があり、リーダーが登山計画書を提出する。「明後日は天候が悪いようですから、気をつけて下山して下さい」と声をかけられた。登り初めは、全員が元気いっぱい。ケルンのある場所までは、モミジ坂と呼ばれる急登だ。足場の悪い崖に付けられた道も無事に通過。こ道が柏原新道と名付けられたのは、山小屋のオーナーが作った道だからという話だ。
この道ができる前にここを下った深田久弥の記述によれば、爺ヶ岳から大冷沢の河原に降り、そこから河原沿いに降って鹿島川との出合いから河原を下り、鹿島の集落へ着いた、とある。昭和10年頃話である。その当時からみれば、この山域に入る道路も登山道もすっかり整備されている。柏原新道は土留めに古タイヤを使い、石が動かないように鉄筋を打って固定してある。実に歩きやすい道になっている。
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2200mを越えると急にハクサンフウロの濃い花が目だってくる。登り一方の道が、最後は階段のように作られている。疲れた足には辛い道だが、花たちの歓迎にほっと心が落ち着く。そして目の前に種池山荘の赤い屋根が見えた。