正月
去年(こぞ)とことしと一夜をへだてゝ
きのふにけふはかはらずと思へど
春たつ空は心からのどやか也
四方の山には霞のあし青山のかしらをふまへて立あがり
うぐひすのこゑもうれしげに軒端ちかく聞ゆ
日かげもうらゝかに垣ねの草ももえ出る程なり
梅のにほひもいにしへをおもひ出るよすがとなれる
大路のさま松たてわたし家々のしめかざりもいみじくうちみえて
内には蓬莱の山をかざり靏龜(つるかめ)にことぶきをなぞらへて
千代よろづ世をいはふとかや
さだまれる事とておとこ女われもわれもと出たち
家のかどに物申て礼義ただしきも又をかし
あかつきよりこゑうちたてゝめでたきわかゑびすをいはひおさむ
千町万町のとりおひさゝらをすりて福徳(ふくとく)をいはふ
都かたにはきかずあづまのかたにはえびすかきといへるものゝ
一ちやうの弓をもつてあまつしたおさまる御代をことぶきす
とし玉とかや命をのべてすゑもさかふるあふぎをうるも
いかめしうよばはるこゑ聞ゆ
子どものむれ出て玉をとばしあそぶもさらなり
七草のいはひことすぎては十五日よりうちつづきて
大内より賀茂川かのとうと(ママ)おほんのまつりもあり
廿日は具足のかがみびらき
武家のいはひはひたすらけふにあるものをや
(佛教大学図書館デジタルコレクション「十二月あそひ」より)