ジューンベリーに忘れ物

シンボルツリーはジューンベリー
どこかに沢山の忘れ物をしてきた気がして

晴れたり曇ったり その8 <2話>

2023-01-14 12:37:02 | 北の湘南・伊達
 ① 料理は苦手。
だから、3食とも家内が作る。
 「せめて食器洗いくらいは・・」と、
朝夕は私がする。

 だが、金曜と土曜はそれも免除してもらう。
この2日は、『ブログの日』なのである。

 金曜は、朝食を済ませると、
朝刊へ目を通す時間も惜しみ、
2階の自室へと階段を上る。
 いつもは開けっ放しの扉も、
この日ばかりは遠慮なく締めることに。

 「さあて、何を書こうか」。
ノートパソコンを起動させる前に、
雑記ノートを机上に置く。
 
 日頃から思いついたことを、このノートにメモしている。
まずは、ブログに書けそうな題材をここから探るのだ。

 それを探し当てた時は、次に同じノートに、
ブログの骨子を、書き始める。

 ところが、1時間も2時間も粘っても、
ノートが何のヒントもくれない時がある。
 そんな日は仕方ない、散歩に出ることにしている。

 朝の散歩とは違う。
ブラブラ、トボトボとした調子で、
しかも両手を上着のポケットに入れ、
伏し目がちスタイルで歩く。
 人目など気にしない。

 ただただ、ブログの題材に思考を巡らし、
ゆっくりダラダラ・・。
 実は、今の今まで、そんな調子の散歩だった。

 しばらく歩いていると、
スーッと私の横に対向車が止まった。
 車に気づいて驚く私に、ドアウィンドウを降ろし、
見慣れた顔が声をかけてきた。

 「散歩ですか?」
「アッ、はい。そう・・」
 「どこまで?」
「その辺を、ブラブラ・・」

 こんな時の私は、いつもと違う。
気のない返事だ。
 だから、気づいたのだろうか、突然彼は言った。
「もしかして、ブログ?」
 ビックリした。

 「そうです!」と答えながら、
夏に同じような出会いがあったことを思い出した。
 その時、金曜日は散歩しながら、
ブログの題材を探していると話した。

 「やっぱり、そうだったか!
気をつけて、頑張って!」
 ドアウィンドウを上げながらそう言うと
私の「ありがとう」を聞かないまま、彼は走り出した。

 突然、思い出した。
今年も、年賀状が250枚も届いた。
 その中に、ブログを読んでいるからこその一筆が添えてあるものが、
何枚もあった。
 励まされた。
彼の車に急いで手を振りながら、力が湧いてきた。
 
 ② 年末からレンタルビデオにはまっている。
邦画も洋画も構わない。
 新作も旧作も構わない。
手当たり次第、目に止まった映画を借りては観る。
 それを返却しては、また次を借りるの、繰り返し。

 動機になったのは、大型テレビの購入だ。
サッカーのワールドカップが近づき、
急に大きな画面で見たくなった。
 地元のケーズデンキとヤマダ電機をはしごした。

 居間の広さにあった大きさで1年前の型が、
思いのほか安い値だった。
 『今でしょ!』と衝動買いした。

 画像も音色も綺麗なのだ。
「これならDVDも観てみたい!」。
 レンタルした映像は期待通りだった。

 この間、レンタルビデオで観た映画から、
惹かれたものを2つ記す。

 1つ目は『髪結いの亭主』だ。
フランス語の映画だが、 
制作はいつ頃なのか全くわからない。
 このタイトルを聞いたのは、相当前だった気がする。

 観ながら、『男はつらいよ』を思い出した。
確か第45作だ。
 マドンナが風吹ジュンで、
床屋を営む蝶子の店で寅さんが散髪をしてもらうところから、
ストーリーは展開した。 

 『髪結いの・・』もよく似ていた。
はじめて訪れた客は、
一人で店を切り盛りする女性に一目惚れをする。
 そして、支払をしながら「結婚して欲しい」と言って、店を出ていく。

 客は、3週間後再び来店する。
散髪後、叶わないと思いつつも、
店の女性に返答を尋ねる。
 すると、女性は男性の求婚に応じると答えるのだ。
その日から、夢のような「髪結いの亭主」生活が始まるのだった。

 さて、寅さん映画だが、
ある日、蝶子は店のドアを見て言う。
 「その鐘をね、チリーンって鳴らして、
いろんな男の人が入ってきて、
またチリーンって鳴らして出て行くの」と。
 そして、こうも、
「ずっと前、はじめて来た人が、
オレと結婚しないかって言って、
出て行ったの。
 今度、その人が来たら、
私いいよって・・」。

 脚本は山田監督に違いない。
『髪結いの・・』のパロディなのだろうが、
2つに共通した哀愁が、心に響いていた。

 それにしても、『髪結いの・・』の女性は、
2人の幸せ絶頂期に、突然、増水した河川に飛び込むのだ。
 「幸せのままでいたいから・・」。
彼女の残した言葉が、薄幸な人生を物語っていたようで、
いつまでも切なかった。

 2つ目は、最近の話題作『ドライブ・マイ・カー』だ。
巨匠・村上春樹氏の短編小説集『女のいない男たち』の1編が、
原作である。

 『女のいない・・』が発刊されたのは、2014年だった。
すぐ購入した。
 短編の内容よりも、きしみのない展開と文体に、
魅了されたことだけが記憶に残っていた。

 映画は、舞台俳優・家福と女性ドライバーみさきを
中心に展開するのは同じだが、
設定やストーリー性は大きく違った。
 でも、映画だからこそと思うシーンが多く、見応えがあった。

 映画の終末、家福は急逝した妻への
みさきは事故死した母への、
複雑な想いを払拭する場面が圧巻だった。

 自分の醜さを心に秘め、
それと1人で向き合い苦しんできた家福とみさき。
 その心情が、痛いほどに伝わってきた。

 苦しみから脱皮する2人に共感した時、
そっと私の扉をノックされたような気がして、
思わず身構えてしまった。

 でも、みさきの運転する真っ赤なターボ車の
エンジン音が、何故かその力を抜いてくれた。

 やっぱり、家福やみさきのように、
自分と向き合うなんて 中々!




   春の陽気 水かさを増す気門別川

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« オ メ ガ の 腕 時 計 | トップ | 『OH! ラーメン』 その後 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

北の湘南・伊達」カテゴリの最新記事