ジューンベリーに忘れ物

シンボルツリーはジューンベリー
どこかに沢山の忘れ物をしてきた気がして

晴れたり曇ったり その10 <2話>

2023-05-20 10:34:21 | 思い
 ① 自治会長としての難しさを痛感する日が続く。
この役がどれだけの重責なのか、
十分に吟味もせずに引き受けたことを悔いている。

 でも、「今更、何かが変わるわけでもない。
前を向こう!」

 「私にできること!」.。
それに誠実に向き合っていこうと思う。
 そして、少しずつでも、
私自身を生かせるようにしていければ、
それでいい。

 でも、しばらくは苦悶の日が続くだろう。
こんな時、私を支えてくれるのは、いつも出会いである。

 今週末に控える自治会の大きなイベントに向け
先日30数名の打ち合わせ会がもたれた。
 4年ぶりの開催に加え、中心スタッフは私を含め出入りがあった。
チームワークがまだまだだった。
 会議では、そこをつく厳しい質問や意見がいくつもあった。

 矛先は、当然私に向けられた。
致し方ないことだ。
 不備には、何度も頭をさげ、会議を終えた。

 そして、数日後の朝だ。
家内と散歩の途中、会議に出席した奥さんと出会った。
 何気ない会話の後、奥さんは切り出した。

 「会長さんって、本当に大変ですね。
いろんな人から、あんなきつい言い方されて、
それでも、ていねいに受け答えして。
 すごく大変だと思いました。
ご苦労様です」。
 奥さんは、私に向かって小さく頭をさげてくれた。
 
 そして、家内へ、
「きっと、疲れた顔で帰ったんじゃないですか。
いっぱいため息していたりして。
 そうなりますよ。
あんな言われ方されたら、本当に気の毒!」。

 その後、家内と奥さんのやり取りはしばらく続いた。
なのに、2人の会話は私の耳に全く入らなかった。
 それより、会議の日から続いていた張り詰めていた1本の糸が、
急にスルスルと緩んだような気がした。
 
 私に向けられた会議での意見は、
久しぶりに聞く尖った声だった。
 その声が、私にはこたえた。

 ギスギスした会議の雰囲気にも落胆した。
「迫ったイベントにどう対応したらいいのか」などと、
重い気分がズシリと私にのしかかっていた。
 「四面楚歌みたい!」。
その張り詰めた想いが、突然ふわりとなったのだ。

 思い返すと、青空の朝だった。
出会った奥さんのねぎらいの言葉が、
私の心を快晴にしていた。


 ② 会議で久しぶりに向けられた尖った声。
その夜はなかなか寝付けなかった。
 しかし、朝方、教え子が登場する短い夢を2つ見た。
実話のようなシーンが、夢心地に招いてくれた。

 1つ目は、銀座三越デパートのエレベーター内だった。
休日の午後だったようで、
1階から上へ行く室内は、ギュウギュウの人だった。
 
 何を買いに行ったのか知らないが、
押されるままに奥の方まで進み、立っていた。
 連れはなかった。
静かな室内だったが、突然子どもの声が響いた。

 「アッ! 先生だ!」。
こんな所で「先生」か。
 呼ばれた先生に同情した。

 ところが、素知らぬ振りをする私の上着の裾を引っ張りながら、
再び子どもの声が、
 「ねえ、先生!」。

 「エエッ、私のこと!」。
急に、尋常ではなくなった。
 「あら、先生!」。
横から大人の声までも・・・。

 まさかと思いながら、2人を見た。
驚きを隠しながら、小声で言った。
 「こんにちは、お母さんと一緒にお買い物ですか。
いいですね」。

 当時、担任をしていた3年生と母親だった。
「うん、僕の洋服を買いに」
 3年生は臆することなく、愉しげに言った。

 私は人目が気になった。
でも、話に付き合わない訳にはいかない。
 次々と話しだす子に、1つ1つ相づちを続けた。
「そうですか・・・・それはそれは・・」。

 ようやく子供服売り場の階に着いた。
手を振り2人は降りていった。

 その後もエレベーターは、人、人、人だった。
誰もが無言。
 思い過ごしかも知れないが、
私の様子を伺う気配を周りに感じ、背筋が伸びた。

 急きょ、予定していた階よりも早くにエレベーターを降りた。
そして、誰も見てないことを確かめ、大きく深呼吸した。
 なのに、何故か嬉しい気分。

 まさかまさかの夢だ。

 2つ目は、年に1度の職員旅行だった。
1泊2日のバス旅行。
 
 2日目の昼は、旅行だからとテーブルを囲んだ4人で、
ビールを2本呑みながら、食事をした。

 最後に立ち寄ったのは、地方の観光地によくある『○○江戸村』だった。
そこで、忍者ショーを見ることになった。

 舞台上の武家屋敷を右から左、下から上へと
目まぐるしく黒装束の忍者が動き回った。
 斬り合いが始まり、迫力があった。
次第に気分が高揚した。

 よく見ると、10数名の忍者の中に、
鼠色の装束の「くノ一」と呼ばれる女忍者が2人いた。

 昼食のビールの勢いが手伝った。
4人で、「くノ一」に大声援を送った。
 女忍者は、私たちの応援に応え、動き回った。
ショーが終わっても、しばらく拍手喝采を続けた。

 そして、観客がちりじりになった頃だ。
鼠色の忍者が1人、私に近寄ってきた。

 「先生、声、大きすぎ!」
一気に、昼のアルコールがとんだ。
 覆面をとった顔に見覚えがあった。

 「エエッ、Tちゃんか?」
「そうです。
先生はどこにいても元気。
 すぐわかりましたよ。
もうビックリです」。

 高校を卒業した後、
アクションスターの養成所へ行ったことは知っていた。
 ここでこうして逢うなんて・・。
でも、成長した姿との再会。
 「くノ一」へのはしゃぎすぎを恥じるよりも、
嬉しさが勝っていた。

 まさかまさかの夢だ。

 2つの夢は、私に元気をくれた。
決して偶然見た夢ではない。
 やっぱり私は、幸運に恵まれている。




    どこへ 飛んで行く

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