① 雪が消えたわずかな地面に、
福寿草の黄色い蕾をみつけたのは、
2ヶ月前だった。
それから2週間が過ぎ・・・。
真っ先にクロッカスの花が咲くのは、
国道沿いにある整骨院の庭先に決まっていた。
案の定。
「やっぱり、同じ所に咲いている!」。
小さくうなずきながら、散歩の足を一瞬緩めた。
福寿草とクロッカスが、冬の終わりを告げている。
春がやって来たのだ。
モノクロだけの暮らしに色彩が加わりだすと
この街の雪融けは一気に進む。
我が家の庭では、宿根草が一斉に芽吹き、
あちこちで、新芽が地表を押し破り、姿を現す。
「すごい!」
このエネルギーは正真正銘、春到来の合図だ。
やがて、アヤメ川沿いの散策路には、
キクザキイチゲやアズマイチゲ、
キバナノアマナが花をつける。
歴史の杜公園の野草園には、カタクリや水芭蕉が
私の足を止めた。
「今年は、春が早そうですね」。
ご近所さんと、そんな挨拶を交わしたのもつかの間、
木蓮の膨らんだ蕾を見た。
その後は、あっという間だった。
紫木蓮の派手さを押しのけ、桃と梅と桜が、
一気にこの街を飾った。
桜は、例年通りの場所で例年通りに華やぎ、
そして、毎年いさぎよく舞い散り、
花いかだと花の絨毯に化した。
その頃、我が家のシンボルツリーは、
真っ白なジューンベリーに。
4,5日間満開の時を迎え、
散歩の人が、足を止めじっと見上げた。
私を見た訳じゃないのに、
少し照れている自分に気づき、思わず笑いをこらえた。
今、八重桜も終わり、色とりどりのツツジの時。
タンポポの綿毛が、牧草畑の上をフワリフワリと、
舞っている。
② 冬期間でも、観光物産館には『だて野菜』が並ぶ。
主に葉物。
どれもハウス栽培だが、
わさび菜と水菜はいつでもある。
春が近づくと、そこに、
ほうれん草やグリーンレタスが加わる。
次第に、野菜は種類も量も増え、
陳列棚は豊富な『だて野菜』で賑やかになる。
朝は毎日、野菜サラダを欠かさない。
シャキシャキ感が増した野菜に春を感じ、
ついつい買いすぎてしまう。
1ヶ月前、まだまだと思っていたのに、
ハウス物だけどアスパラが並んだ。
迷わず、中太のを求めた。
一番は、茹でて麺つゆをかけた食べ方。
口いっぱいに、アスパラの風味が広がった。
本格的な夏までこれが堪能できる。
上物は、これからどんどん出回るのだ。
ウキウキした春は、こんなとこにも・・・。
だけど、雪がすっかり消えた日だった。
一緒に自治会の役員をしている40歳代のSさんが、
我が家のインターホンを押した。
玄関を開けると、新聞紙にくるんだものを抱えていた。
「今年最初の山菜採りに行ってきました。
これ、少しですけど行者にんにくです」。
頂いた新聞紙の中をのぞくと、
1度に2人では食べられない程の量だった。
何年か前、行者にんにくの天ぶらそばを食べた。
それ以来、大好物になった。
「これ、天ぷらにすると美味しいよね」。
「僕は、ジンギスカンと一緒が好きです」。
急にジンギスカンとはいかない。
夕食には天ぷらとお浸しの両方が並んだ。
「ドッチもドッチ!」
食べきれないどころか、
「もう少しあってもいい」なんて、
わがままな本性が・・・。
箸を置きながら、ふと
「もう来春までこれはお預けかも・・!」
と漏れる。
春の早さが心憎くて・・・。
③ 母の日に義母の3回忌をするため、
旭川まで車を走らせた。
約3時間半の長距離運転だ。
走り始めは、若葉におおわれ丸々とした山、また山だった。
ところが、北へ向かうと、芽吹いたばかりの木々が目立った。
同じ北海道でも北は、まだ春が始まったばかり。
でも、大空はどこも春の明るい日差し。
高速道の快適なドライブが続いた。
そして2時間半が過ぎた頃だった。
美唄ICを通ると、右手に山々が連なっていた。
こん盛りとした山の景観に、不自然さを感じた。
私の代わりに見て欲しく て、
ハンドルを握りながら、助手席の家内に言った。
「ねえねえ、この山、なんか赤くない!」。
「そうなの。最初、桜が咲いてるのと思ったけど違うの。
木が赤いみたい。
・・・何本も何本も、ぼんやりと葉の赤い木あるみたい」。
「エエッ! そんなことって・・・! 春に・・!」。
「でも、まだ続いている」。
赤い木が乱立する山は、砂川を過ぎるまで続き、
その後は、パッタリ見なくなった。
後日、謎は解けた。
あれは、北の大地ならではの春の光景らしい。
『春もみじ』と呼ぶ。
まだ春の光が弱い北海道では、
新芽が緑になれないまま数日を過ごすことが稀にあるらしい。
その間、芽吹いた葉は赤いままでいる。
『春もみじ』はわずか数日のこと。
その貴重な光景と出会えたことになる。
ならば、高速道を降りて、
もっと間近で見たかったのに・・・。
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ヒノデツツジ ~朝日を浴びて
福寿草の黄色い蕾をみつけたのは、
2ヶ月前だった。
それから2週間が過ぎ・・・。
真っ先にクロッカスの花が咲くのは、
国道沿いにある整骨院の庭先に決まっていた。
案の定。
「やっぱり、同じ所に咲いている!」。
小さくうなずきながら、散歩の足を一瞬緩めた。
福寿草とクロッカスが、冬の終わりを告げている。
春がやって来たのだ。
モノクロだけの暮らしに色彩が加わりだすと
この街の雪融けは一気に進む。
我が家の庭では、宿根草が一斉に芽吹き、
あちこちで、新芽が地表を押し破り、姿を現す。
「すごい!」
このエネルギーは正真正銘、春到来の合図だ。
やがて、アヤメ川沿いの散策路には、
キクザキイチゲやアズマイチゲ、
キバナノアマナが花をつける。
歴史の杜公園の野草園には、カタクリや水芭蕉が
私の足を止めた。
「今年は、春が早そうですね」。
ご近所さんと、そんな挨拶を交わしたのもつかの間、
木蓮の膨らんだ蕾を見た。
その後は、あっという間だった。
紫木蓮の派手さを押しのけ、桃と梅と桜が、
一気にこの街を飾った。
桜は、例年通りの場所で例年通りに華やぎ、
そして、毎年いさぎよく舞い散り、
花いかだと花の絨毯に化した。
その頃、我が家のシンボルツリーは、
真っ白なジューンベリーに。
4,5日間満開の時を迎え、
散歩の人が、足を止めじっと見上げた。
私を見た訳じゃないのに、
少し照れている自分に気づき、思わず笑いをこらえた。
今、八重桜も終わり、色とりどりのツツジの時。
タンポポの綿毛が、牧草畑の上をフワリフワリと、
舞っている。
② 冬期間でも、観光物産館には『だて野菜』が並ぶ。
主に葉物。
どれもハウス栽培だが、
わさび菜と水菜はいつでもある。
春が近づくと、そこに、
ほうれん草やグリーンレタスが加わる。
次第に、野菜は種類も量も増え、
陳列棚は豊富な『だて野菜』で賑やかになる。
朝は毎日、野菜サラダを欠かさない。
シャキシャキ感が増した野菜に春を感じ、
ついつい買いすぎてしまう。
1ヶ月前、まだまだと思っていたのに、
ハウス物だけどアスパラが並んだ。
迷わず、中太のを求めた。
一番は、茹でて麺つゆをかけた食べ方。
口いっぱいに、アスパラの風味が広がった。
本格的な夏までこれが堪能できる。
上物は、これからどんどん出回るのだ。
ウキウキした春は、こんなとこにも・・・。
だけど、雪がすっかり消えた日だった。
一緒に自治会の役員をしている40歳代のSさんが、
我が家のインターホンを押した。
玄関を開けると、新聞紙にくるんだものを抱えていた。
「今年最初の山菜採りに行ってきました。
これ、少しですけど行者にんにくです」。
頂いた新聞紙の中をのぞくと、
1度に2人では食べられない程の量だった。
何年か前、行者にんにくの天ぶらそばを食べた。
それ以来、大好物になった。
「これ、天ぷらにすると美味しいよね」。
「僕は、ジンギスカンと一緒が好きです」。
急にジンギスカンとはいかない。
夕食には天ぷらとお浸しの両方が並んだ。
「ドッチもドッチ!」
食べきれないどころか、
「もう少しあってもいい」なんて、
わがままな本性が・・・。
箸を置きながら、ふと
「もう来春までこれはお預けかも・・!」
と漏れる。
春の早さが心憎くて・・・。
③ 母の日に義母の3回忌をするため、
旭川まで車を走らせた。
約3時間半の長距離運転だ。
走り始めは、若葉におおわれ丸々とした山、また山だった。
ところが、北へ向かうと、芽吹いたばかりの木々が目立った。
同じ北海道でも北は、まだ春が始まったばかり。
でも、大空はどこも春の明るい日差し。
高速道の快適なドライブが続いた。
そして2時間半が過ぎた頃だった。
美唄ICを通ると、右手に山々が連なっていた。
こん盛りとした山の景観に、不自然さを感じた。
私の代わりに見て欲しく て、
ハンドルを握りながら、助手席の家内に言った。
「ねえねえ、この山、なんか赤くない!」。
「そうなの。最初、桜が咲いてるのと思ったけど違うの。
木が赤いみたい。
・・・何本も何本も、ぼんやりと葉の赤い木あるみたい」。
「エエッ! そんなことって・・・! 春に・・!」。
「でも、まだ続いている」。
赤い木が乱立する山は、砂川を過ぎるまで続き、
その後は、パッタリ見なくなった。
後日、謎は解けた。
あれは、北の大地ならではの春の光景らしい。
『春もみじ』と呼ぶ。
まだ春の光が弱い北海道では、
新芽が緑になれないまま数日を過ごすことが稀にあるらしい。
その間、芽吹いた葉は赤いままでいる。
『春もみじ』はわずか数日のこと。
その貴重な光景と出会えたことになる。
ならば、高速道を降りて、
もっと間近で見たかったのに・・・。
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ヒノデツツジ ~朝日を浴びて
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