ジューンベリーに忘れ物

シンボルツリーはジューンベリー
どこかに沢山の忘れ物をしてきた気がして

台風が通過して ・ ・ ・

2017-09-22 21:58:17 | 北の湘南・伊達
 秋の収穫期を迎えた。
畑には、カボチャがゴロゴロしている。
 朝、ジョギングする私のそばで、
トラクターが、ジャガイモ堀にエンジン音を轟かせていた。
 そろそろトウモロコシが終わり、
間もなく稲刈りが始まる。

 そんな実りの秋真っ盛りの時、
台風18号が、私の街を通過していった。

 伊達に移住してから、
台風は、昨年8月30日の10号に続いて2回目になる。

 昨年は、強風で伊達の歴史を目撃してきた樹木が、
次々となぎ倒された。
 我が家からすぐの高校の大木も、
『だて歴史の杜』の樹齢100年を越える木々も、
次々と根こそぎ横倒しになった。

 栗やオニグルミの小さな実が吹き飛び、散乱した。
街の景観も随分変わった。
 
 ゴルフのホームグランドになっている『伊達カントリー』は、
倒木が100本を越え、停電の復旧に3日も要した。

 ビニルハウスは、ほうぼうで鉄骨だけになった。
芽吹き始めたばかりの秋まき小麦の新芽が、
無残に流された。
 農作物の被害は、伊達だけでも億の単位と聞いた。

 私でさえ、台風の爪痕に怒り、
そして胸が詰まるような悲しみにおそわれた。
 「自然には、逆らえないから・・・。
また来年、頑張るわ。」
マイクを向けられ、淡々と応える農家の方の声に、
涙が湧いた。

 1年が過ぎ、市街と周辺地から被害が、
ようやく姿を消そうとしていた。
 いや、失った大木の寂しさに慣れ始めた。
そんな時の、台風18号である。

 天気予報が、18号の日本列島縦断を伝え始めた。
何とか北海道への上陸だけは、
避けて欲しいと願っていた。

 ところが、18日深夜、
ゴゥーゴゥーという地鳴りを伴った風の音と、
それに合わせ、屋根を打つ猛烈な雨音に目がさめた。
 ただただ、昨年のような被害がないことを祈り、
朝を迎えた。

 朝食前、電話が鳴った。
4月から自治会の役員を受けた私に、
自治会長さんからだった。

 「市が、防災センターに避難所を開設しました。
住民から問い合わせがあったら、そう応じて下さい。」
 そんな内容だった。
早速、各役員さんと班長さんへ、電話連絡を入れた。
 緊張が走った。

 嵐は、一向に衰えを見せない。
とうとうテレビは、
伊達を流れる2級河川『長流川(おさるがわ)』も、
危険水位に達したと伝え始めた。
 そして、思いも及ばなかった、あの穏やかな気門別川も、
危険だと言う。

 急ぎ市のホームページを見た。
驚いた。
 2つの川の河口付近の地域に『避難勧告』である。

 我が家からは、かなり距離があった。
でも、朝のジョギングコースになっている場所である。 
 走る度に、広々とした景観が心地よさを教えてくれた。

 2つの川とも、この時期から鮭が遡上し、
例年、大自然の壮大なロマンに、胸を熱くしていた。
 長流川は、これから白鳥が飛来し、越冬する拠点である。

 その川が、今、住民に被害をもたらそうとしていた。
恐怖となっている。

 「押し寄せる濁流に、逃げるしかない道はないのだろうか。」
「何とか堤防決壊や氾濫だけは避けて欲しい。」
 そんな思いで、嵐が過ぎ去る時を待った。

 11時を回った頃だろうか。
風も雨も、回復のきざしを見せた。
 静けさが戻った。
その時だった。

 1台の消防車が、カーンカーンと鐘を鳴らしながら、
何かを告げて通り過ぎた。
 家を飛び出し、聞き耳をたてた。
自分の耳を疑った。

 「アヤメ川が氾濫しています。
自主避難をお願いします。」
 消防車は、くり返し告げた。

 アヤメ川は、散策路のある自然公園を流れる、
細い小川である。
 木々に囲まれたその川沿いは、
四季折々の変化を楽しめる素敵な散歩道だ。

 早朝に限らず、何人もの方と、
いつもこの道で挨拶を交わしてきた。
 東京から、友人・知人が来ると、必ず案内した。
私の気に入りの『伊達』である。

 その小川が「氾濫!」
消防車の広報に、半信半疑だった。

 でも、ここ数年、
各地で想定外の災害が報道されている。
 まさかと思いつつ、すっかり雨の上がった道を、
マイカーでアヤメ川へ向かった。

 出発してすぐ、その異常さに一瞬、全てを疑った。
車が立ち往生しかねないほど、
車道も歩道も冠水し、茶色に覆われていた。

 アヤメ川からあふれた濁流が、
我が家とは反対方向の道を伝い、
勢いよく流れ出ていた。

 想像したこともない異様さに、息を飲んだ。
道が冠水している地域には、何人かの顔見知りがいた。

 1時間ほど時間をおいて、
家内と一緒に様子を見に行った。
 濁流は引いていたが、たい積した泥を、
スコップ等でかき集める人たちがいた。

 「大変でしたね。家の中はどうですか。」
「もう少しでしたが、家は大丈夫です。」
 「・・・・。」
「ビックリですよ。あのアヤメ川が、
こんなことになるなんて、信じられません。」
 「・・・・。」
「ここで25年も暮らしているけど、こんなの初めて。」
 作業の手を止め、語ってくれた。

 あの日から4日が過ぎた。
冠水で汚れた市街地の道路も駐車場も、泥が片付き、
いつもに戻っている。
 でも、新たに倒れた木が、何本も目に止まる。
通行止めが続く道路もある。

 昨年、今年と想像を越える自然の猛威に言葉がない。
 
 現職の頃、保護者から、
現在もNHKテレビで気象予報士をしている平井信行さんを、
紹介して頂いた。
 それが縁で、校長らの研修会で、講演をお願いした。

 大学では、天気予報士とともに、教職を目指していた彼が、
その講演で強調したのは、
地球の温暖化への危機感だった。

 「子どもの未来、人類の未来のために、
今、何ができるか。」と、問いかけられた。

 その時、彼が示した異常気象が実際になっている。
あれから10年である。

 「今、何ができるか。」
大自然と平井さんから
あらためて、問われているように思う。
 
 
 


   ハマナスも真っ赤な実をつけた

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