ジューンベリーに忘れ物

シンボルツリーはジューンベリー
どこかに沢山の忘れ物をしてきた気がして

69歳の向暑&野分(前)

2017-09-29 21:54:46 | ジョギング
 (1) 向暑の1日

① スタート前
 『第32回やくもミルクロードレース大会』は、
6月11日(日)に道南・八雲町で行われた。

 私は5月の洞爺湖のフルマラソンで、
初めて途中棄権し、悔しい思いを経験した。
 だから、八雲のハーフは、しっかり走りきると決めた。

 洞爺湖マラソンから3週間後の大会であったが、
その間、朝のジョギングなどで計100キロを走り、
私なりの準備をした。

 ミルクロードレースへの初参加は、3年前になる。
その年の4月、伊達ハーフマラソンで、
初のハーフにエントリーした。
 そのため、冬期間も走り続けた。
しかし、間近でふくらはぎの肉離れ。
 不参加となった。

 急きょ6月の八雲ミルクロードレースでハーフを走ろうと決めた。
ところが、その時、エントリーの締め切りが3日後に迫っていた。
 大会案内の問い合わせ先になっていたOさんに電話を入れた。

 「大会に参加したいのですが、今からでもいいでしょうか。」
「大丈夫だよ。振り込み用紙を送るから、参加費を送って。」
 「そうですか。間に合うのなら、銀行振り込みで送金します。」
「いや、銀行は手数料がかかるから、用紙を送ってあげる。
住所と名前を言って。」
 
 気さくな人柄が、受話器から伝わってきた。
そのOさんは、
八雲陸上競技協会長として、この大会長を勤めていた。

 ところが、今年、その任を後輩に譲った。
それでも、元気な姿が会場にあった。
 
 小さな町での、参加者400人程度のマラソン大会である。
なのに、今年で32回を数える。
 今年から大会長になった方が、開会式の挨拶の冒頭で、
「Oさんは、長年、この大会を、先頭になって支えた方」
と讃え、その労をねぎらった。

 開会式の最前列で私たちと向き合い、
胸を張ることもなく、静かに立っているOさんに、
誰よりも長い拍手を送った。

 その後、初めて声をかけた。
一緒の写真に収まってもらった。
 「ありがとうございました。」 
心を込めて、頭を下げた。
 この大会が好きなのは、Oさんがいたからかもと思った。


 
 ② 前半の走り

 午前10時、ハーフの部と10キロの部の男女、
約300人が一斉にスタートした。

 このレースは、ハーフの制限が緩く、
10キロ通過が1時間25分、それだけである。
 それなのに、何故か健脚ぞろいなのだ。
みんな、合図と共に物凄い勢いで走り出す。

 私は、その流れに乗らないよう、マイペースで走り始める。
しかし、体が軽い。
 ついつい周りの走りに合わせてしまう。
いつもより速いと思いつつも、足が動いた。

 3キロを過ぎたころ、1人の女性を抜いた。
伊達総合体育館のサークル『スマイル・ジョグ・ダテ』で、
顔馴染みになった方だ。

 「八雲は、アットホームな大会だよ。」
私の誘いを聞いて、
今年初めて10キロの部にチャレンジした方である。

 少し並走しながら、息を切らせながら言った。
 「ペース、速過ぎ! 遅くしたいのに、落ちないんだ。」
「ハーフは長いよ。冷静に、冷静に。」

 それから、約2キロ。
突然、その女性が私を抜きながら言った。
 「いいペースじゃない。その調子でね。」
「・・・。」
 「お先に!」

 そこからは、私が、後ろ姿を見ながら走った。
次第に遠くなっていった。
 ようやく私らしい走りになった。

 8キロを過ぎたところで、
10キロのランナー達が折り返していった。
 女性も、折り返していった。
急に前にも後ろにも、走者が少なくなった。

 そこから約4キロ程、ダラダラとした上り坂が続いた。
寂しい走りの沿道には、緑の牧草地が広がっていた。
 時々、牛たちが不思議な顔で私を見ていた。

 伊達から遠方の大会なのに、
声をかけ合って走る方がいた。
 今までとは違った、楽しさがあった。 


 ③ 後半の走り
 
 ダラダラ坂の途中に折り返しがあった。
そのすぐ近くで、背の高い男性が、勢いよく私を追い抜いた。

 折り返すと、当然坂は下りになった。
しばらく走ると、息が整い、走りが軽くなった。
 私を抜いていった背の高い男性が、間近になった。
勢いよく追い抜いた。
 気分がよかった。
 
 しかし、再び長い上り坂になった。
息が荒くなり、ペースダウンした。
 すると、あの背の高い男性が、
私に追いつき、勢いよく抜いていった。
 悔しいが、その速さにはかなわなかった。

 ところが、また下り坂。
しばらく進むと、背の高い男性が近くなった。
 少しスピードを上げ、嬉しい気持ちを隠しながら、
追い抜いた。

 緩い坂道のアップダウンが続いた。
その度ごとに、何回も抜かれた。その度ごとに、何回も抜いた。
 悔しさと嬉しさが、交互にやってきた。

 40歳代だろうと思った。
途中から、私は2人のレースに年令を忘れ、
むきになった。

 「上り坂で抜かれても、下りで絶対に抜く。」
そう思って走った。
 彼もきっと、同じ思いで走っていたに違いない。
「下り坂で抜かれでも、上りで絶対に抜く。」

 2人の「抜きつ抜かれつ」は、
12キロ付近から18キロ付近まで続いた。
 その間、下り坂を軽快に走る私に驚いた。
そんなスピードで走っていることが、嬉しかった。
 このままゴールまで2人のレースを続けたいと思った。

 しかし、あれは、18キロを過ぎた辺りだった。
緩い下りが終わって間もなくだ。
 彼は私を抜いた。
ここからゴールまでは、平坦な道が続いた。

 残り3キロだ。
彼はラストスパートをかけたのだ。
 みるみる2人の距離が離れた。
追いかけようと思った。
 でも、悔しいが、足が進まないのだ。呼吸が荒いのだ。
ここまでで、2人のレースは決着がついた。

 もう、走り切ることだけを目指して、
「後2キロ!」「後1キロ!」と足を運んだ。

 ゴールの陸上競技場トラック入ると、
先にゴールしたランナーたちが、
拍手で迎えてくれた。
 アットホームな雰囲気に迎えられた。

 その中から、10キロを走り終えた、あの女性と、
その仲間から声が飛んだ。
 「ツカハラさん、最後まで頑張れ!」
 悔しいゴールだが、笑顔になった。

 きっと私よりずっと早くにゴールしたであろう、
あの背の高い男性を探した。
 見つけたら、握手がしたかった。
だが、その姿はどこにもなかった。

 無言のライバルがいたからこその、後半だった。
少し走りに自信がついた。 

         『69歳の向暑&野分(2)』につづく





 収穫を待つ 秋キャベツ

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