ジューンベリーに忘れ物

シンボルツリーはジューンベリー
どこかに沢山の忘れ物をしてきた気がして

確かに シニアだけど・・・

2022-02-05 11:19:54 | 思い
 ▼ 思いのほか、深夜の降雪が少なく、
20分位で雪かきが済んだ。
 なのに、着替えて、朝食の席に座ると、少々腰が痛い。
そんな時は、いつも『バンテリン』を塗ることにしている。

 食事前に、常備薬の引き出しを開ける。
そこから、箱に入ったジェル状の『バンテリン』を取り出す。

 部室を移り、「さあ塗ろう!」と、
シャツを上げてズボンを少し下げ、腰を出す。
 そして、箱の『バンテリン』を手に取った。
ところが、その箱が同じような色の『のどヌール』だった。

 「まったく!」とつぶやき、今度はシャツを下げてズボンを上げる。
『のどヌール』を持って、再び常備薬の引き出しへ行く。

 確か『バンテリン』と『のどヌール』の間違いは、
これが3度目だ。
 類似したことは、年々増えているような気がする。

 「年寄り」という言葉を、簡単には受け入れたくない。
でも、『シニア』を思い知らされる小さな気づきに、
たびたび巡り会う。
 素直に、現実を認めるしかないのだが・・・・。

 ▼ こんなこともあった。
休日の午後だったからか、
体育館のランニングコースは利用者が多かった。
 
 私が走り始めてしばらくすると、
一緒に自治会の仕事をしている方が1人、また1人とやって来た。
 走りながら会釈し、それぞれ自分のペースでランニング。

 1人は、100キロウルトラマラソンを何回も完走していた。
もう1人は、定年後も再任用で消防署に勤務していた。
 2人とも、私より5歳以上も若い。 
   
 200メートルの周回コースだ。
しばらくして、バラバラに走る2人に追い抜かれた。
 それから5周走ったあたりで、再びそれぞれに抜かれた。 
そして、また5周、同じように抜かれた。
 少し早めに走ってみたが、矢っ張り追い抜かれた。

 その日、私は50周、つまり10キロを走り終えた。
汗をぬぐいながら、暗算した。
 同時に走り始めていたら、
2人は2キロも先を走っていることになった。

 吹き出る頭の汗を、タオルでゴシゴシと拭きながら、
「5年前なら、あの早さでも一緒に走れた。でも、もう無理!」。
 誰にも気づかれず、小さく唇を噛んでいた。
「シニア」の衰えを、思いっきり知らされた。

 とは言え、「まだまだ」と普段は見栄をはっている。
なのに、私を「シニアだから」と気遣う方々が時々現れる。
 その「好意?」に、複雑な気持ちになりつつも、
気づかれないよう甘受するよう努めている。

 ▼ 体のキレの精だろう。
年々、ゴルフの飛距離が短くなる。
 以前は、アイアンで届いた距離でも、
ウッドを使う場面が増えた。

 「そんなはずない」と、頑張ってスイングしてみても、
飛ばないのは、歴然とした事実だ。
 そこで、頼る場面が多くなったウッドを新調しようと、
ゴルフショップへ行った。

 高価なものは避け、バーゲンの品で手頃な価格の、
3番、5番、7番ウッドを探した。
 丁度、予算に合致した3本セットを2組見つけた。

 手にとっても、善し悪しの判断がつかない。
そこで店員さんのアドバイスを受けることにした。

 応じてくれた店員さんは、
2種類のクラブの特性を簡単に説明した後、
やや価格の高い方のセットを薦めた。

 「高い方がいいのか。
なるほど、店員のアドバイスらしい!」
 私は、そう笑止しながらも、
店員さんの薦めるクラブを買うことにした。

 「じゃ、このセットにします。
3本でいくらになります?」。
 それを聞いた店員さんは、
目の前にある5番と7番ウッドを手に持ち、言った。
 「3番ですが、要りますか?」。

 予期しない質問だった。
返答に困った。
 すると、ためらわずに店員さんは続けた。

 「3番ウッドを使って、思い通りに飛びますか。
年齢とともに、3番はあつかいが難しくなります。
 無駄な買い物になる方が多いです。
もう5番と7番だけでいいと思いますけど」。

 見栄を張って、「3番まで買います」と言い張れなかった。
確かに3番ウッドは、思い通りに振れなくなっていた。

 アイアンよりウッドの必要性を感じての買い物だったのに、 
それに加えて、「年齢とともに」と3番ウッドまで不要になるとは・・・。
 買った2本のウッドを手に店を出ながら、
いつまでも、気持ちは重く沈んでいた。

 ▼ 2年に1度は、市保健課が奨励する定期健康診断を受けている。
1時間余りで済むものだが、
同じような健診で胃がんが見つかった方を知ってからは、
まじめに受診している。

 前回は、医師の聴診器による心音で、
会場の別室に設けられた所で、心電図をとることになった。

 その部屋の廊下でしばらく待っていると、
準備ができたのか、名前を呼ばれた。

 入室すると白衣の女性が、
やさしいやや大きめの声で、ゆっくり言った。
 「では、これから心電図をとりますからね。
上はハダカ、それからズボンの裾を上げてください。
 そこまでできたら、あのベッドで横になりますね。」
 いつもと変わらない心電図の手順だが、
女性の言い方が、何となく不快に感じた。

 でも、指示通りに裾を上げ、シャツを脱ぎ、ベッドまで進んだ。
すると、女性は再び大きめのゆっくりとした声で、やさしく言った。

 「ベッドが少し高くなってます。1人で横になれますか。
踏み台をお持ちしましょうか」。

 踏み台が要るほどの高さではなかった。
私は、無言でベットに寝た。

 すかさず女性は、
「あら、大丈夫でしたか。
この高さでも大変な方が、結構多いんですよ。
 お元気ですね」。

 「それほどの高齢者じゃない!!」。
そう大声を張り上げたら、本物の年寄りになる。
 だから、「それは、どうも」と答え、
上半身裸で仰向けのまま、静かに目を閉じた。

 心穏やかでないのが、心電図に出たりはしないかと、
心配しながら、測定の終わりを待った。

 全ての健診が済んだ帰りの道々、
白衣の女性の過剰な年寄り扱いへの怒りを、
何度も何度も家内にぶちまけた。

 「同じことを、また言ってる。
本当の年寄りみたい!」。
 家内に、笑われた。

  


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