1、『決められたリズム』
若干、本題から逸脱する。
山田洋次監督が、2002年から2006年にかけて、
時代劇映画『隠し剣』シリーズ3部を作った。
その第1作目は、真田広之と宮沢りえの
『たそがれ清兵衛』である。
この映画のあらすじは、こうだ。
時代は幕末、舞台は庄内・海坂藩。
この地の無垢な方言が、飾らない雰囲気を作る。
労咳で妻を亡くした下級藩士・井口清兵衛は、
幼い娘2人と老いた母と、貧しく暮らしていた。
お城での勤めを終えると、黄昏時を下城し、
内職に追われる日々を送る。
そこへ、幼なじみの朋江が顔を出すようになり、
一家は華やぐ。
朋江は、乱暴をくり返す夫を逃れ、
実兄の元に身を寄せていた。
次第に湧いてくる朋江への想いを、
貧しさを隠れ蓑に否定する清兵衛。
ところが、清兵衛に藩命が下る。
短剣を手に、剣のつかい手との対峙に向かうことになる清兵衛。
その時、ずっと恋い焦がれていたと打ち明け、
無事戻ったら・・と、朋江に告げる。
そして、死闘の末、血まみれで帰宅した清兵衛を、
安堵の表情で迎える朋江がいた。
それから3年間を共にすごした後、
清兵衛は戊辰戦争で帰らぬ人になる。
数10年後、娘は言う。
「わずか3年間だが、父は幸せだった。」
映画は、そこでエンディングとなる。
そして、最後にスタッフや出演者の名前が字幕で出てくる。
そのエンドクレジットで流れる音楽が、
井上陽水の『決められたリズム』である。
私は、この歌がすごく好きだ。
しばしば結婚式などのご挨拶で、歌詞を引用させてもらった。
時代劇映画からは、かけ離れた現代の歌詞だが、
陽水はきっと、清兵衛と朋江が幼なじみだったから、
その上で芽生えた想いだったから、この歌にした。
そう推測している。
この歌には、誰にでも思い当たる、
幼少期の郷愁が漂っている。
その歌詞を記す。
起こされたこと 着せられたこと
凍えつく冬の白いシャツ
せかされたこと つまずいたこと
決められた朝の長い道
ふざけ合うたび 怒られたこと
静けさを区切る窓の中
配られた紙 試されたこと
くり返し響くベルの音
声をそろえて ピアノに合わせ
大空に歌声 決められたリズム
笑われたこと 立たされたこと
残されて ひとりガラス窓
許されたこと ほめられたこと
うつむいて歩く帰り道
驚いたこと ときめいたこと
渡された白いラブレター
愛されたこと 選ばれたこと
初めての夢のプレゼント
声をそろえて ピアノに合わせ
大空に歌声 決められたリズム
決められたリズム
この歌に寄せる私の思いを拾ってみる。
▼ いつも母の姿があった。
どこの家にもあるのだろう、
寒い朝の慌ただしと活気ある親子の温もり。
そして、一歩玄関を出た時の、
学校までの道の長さに辛さを刻む。
▼ その学校には、先生がいた。
どんな注意も無視した、やんちゃ盛りの頃だ。
先生にお目玉を食らう姿が、微笑ましく窓辺に映る。
それとは裏腹に、時には自分を試されるテストに向かう。
開始と終了のベルが、物悲しく胸に迫る。
▼ いつしか自分を問いただす年頃になる。
多感な時期を迎え、周囲の目に傷つき、
孤独を知る時代だ。
友や恩師、両親からのどんな評価や励ましにも、
自信も明るさも失ったまま、毎日を心細く過ごす。
▼ しかし、愛情を捧げる存在に気づいた。
寄せられた好意に、高まる喜び。
その高揚感を夢のようだと思う一方で、
その愛に精一杯応えていこうと、つい意気込む。
私は、歌の力を信じている。
いい歌には、どんな人の心も揺さぶる共通項がある。
想いや高鳴りを共有できる景色が映し出されるのだ。
私たちは、それに共感し、明日の力をもらう。
だがら、その歌をくり返し聴き、口ずさむ。
『決められたリズム』には、
みんなの幼少期に共通する1コマがある。
陽水は、透き通ったあの頃の日々を、
みんなで声をそろえて、確かめようと呼びかける。
素敵なピアノの旋律にのせて・・・。
だが、ちょっとだけ彼らしく、シャイに照れを隠し、
「それとて、どこかで決められたリズムだけどね。」
と、注釈を入れる。
2、『瞬 き』
土曜日の夜、NHKテレビ『ブラタモリ』のエンディング曲が、
『瞬き』である。
その日の番組での、タモリさんと近江アナ、ゲストを撮った、
いくつかのスナップ写真と一緒に、
ゆったりとした旋律に載せたリフレインが流れる。
番組の余韻を十分に味わえる。
聞くところによると、
陽水は、この番組の挿入歌『女神』と一緒に、
喜んでこの曲を創作したと言う。
それだけ、『ブラタモリ』という番組を、
念頭においた曲なのだろう。
題名『瞬き』は、「まばたき」と同義語ではないと思う。
夜空の、あの星の瞬き、ロマンを指していると理解したい。
まずは、歌詞を添付する。
未来の あなたに
幸せを 贈る
記憶と 想い出を
花束に 添えて
瞬く 瞳に
魅せられて ゆれて
恋する この胸は
求め合う ままに
愛して いるなら
ささやいて みせて
あまい恋の 言葉を
あふれるほどに
逢わずに いるなら
瞬いて みせて
青い夜の空から
星降るように
未来の あなたに
幸せを 贈る
記憶と 想い出を
花束に 添えて
ひとときの 夢を
瞬いて みせて
番組『ブラタモリ』は、日本各地の今の成り立ちを、
歴史的な痕跡を訪ね、そこからひも解いていく。
川の流れ、地形、そして道筋など、
現在に残る過去からのチョットしたサイン。
それが、現代の私たちに伝えているものを、
陽水は、『瞬き』と表現してみせた。
曲の始めと終わりのリフレインにある「未来のあなたに」とは、
先人たちが、私たち現代人を指したものだろう。
そして、川原の小石や地層のヒダなど、すべての痕跡は、
「花束を添えた記憶と想い出」なのだろう。
だから、毎回、エンディングのたびに、
先人たちから「贈られた幸せ」の奥深さを、
私は再認識させられる。
でも、いつだって陽水の歌は、ラブソングである。
この歌も例外ではない。
「くり返される小さな微笑みに魅せられ、その魅惑に恋する。
そして、求め合う愛のささやきが、あふれるようにと願う。
それが叶わないなら、一時の夢でいいから、
夜空の星のように、時々は瞬いていてほしい。」
そんな切ない恋心を、陽水は穏やかな曲に載せた。
それは、『ブラタモリ』への、
彼の期待と敬意の現れと私は思う。
そんな番組と歌の共演に、ジワリッと体が温かくなる。
つい、どうかこれからも、瞬いてと祈ってしまう。
ライラック(リラ)も満開
(次回のブログ更新は 6月23日の予定)
若干、本題から逸脱する。
山田洋次監督が、2002年から2006年にかけて、
時代劇映画『隠し剣』シリーズ3部を作った。
その第1作目は、真田広之と宮沢りえの
『たそがれ清兵衛』である。
この映画のあらすじは、こうだ。
時代は幕末、舞台は庄内・海坂藩。
この地の無垢な方言が、飾らない雰囲気を作る。
労咳で妻を亡くした下級藩士・井口清兵衛は、
幼い娘2人と老いた母と、貧しく暮らしていた。
お城での勤めを終えると、黄昏時を下城し、
内職に追われる日々を送る。
そこへ、幼なじみの朋江が顔を出すようになり、
一家は華やぐ。
朋江は、乱暴をくり返す夫を逃れ、
実兄の元に身を寄せていた。
次第に湧いてくる朋江への想いを、
貧しさを隠れ蓑に否定する清兵衛。
ところが、清兵衛に藩命が下る。
短剣を手に、剣のつかい手との対峙に向かうことになる清兵衛。
その時、ずっと恋い焦がれていたと打ち明け、
無事戻ったら・・と、朋江に告げる。
そして、死闘の末、血まみれで帰宅した清兵衛を、
安堵の表情で迎える朋江がいた。
それから3年間を共にすごした後、
清兵衛は戊辰戦争で帰らぬ人になる。
数10年後、娘は言う。
「わずか3年間だが、父は幸せだった。」
映画は、そこでエンディングとなる。
そして、最後にスタッフや出演者の名前が字幕で出てくる。
そのエンドクレジットで流れる音楽が、
井上陽水の『決められたリズム』である。
私は、この歌がすごく好きだ。
しばしば結婚式などのご挨拶で、歌詞を引用させてもらった。
時代劇映画からは、かけ離れた現代の歌詞だが、
陽水はきっと、清兵衛と朋江が幼なじみだったから、
その上で芽生えた想いだったから、この歌にした。
そう推測している。
この歌には、誰にでも思い当たる、
幼少期の郷愁が漂っている。
その歌詞を記す。
起こされたこと 着せられたこと
凍えつく冬の白いシャツ
せかされたこと つまずいたこと
決められた朝の長い道
ふざけ合うたび 怒られたこと
静けさを区切る窓の中
配られた紙 試されたこと
くり返し響くベルの音
声をそろえて ピアノに合わせ
大空に歌声 決められたリズム
笑われたこと 立たされたこと
残されて ひとりガラス窓
許されたこと ほめられたこと
うつむいて歩く帰り道
驚いたこと ときめいたこと
渡された白いラブレター
愛されたこと 選ばれたこと
初めての夢のプレゼント
声をそろえて ピアノに合わせ
大空に歌声 決められたリズム
決められたリズム
この歌に寄せる私の思いを拾ってみる。
▼ いつも母の姿があった。
どこの家にもあるのだろう、
寒い朝の慌ただしと活気ある親子の温もり。
そして、一歩玄関を出た時の、
学校までの道の長さに辛さを刻む。
▼ その学校には、先生がいた。
どんな注意も無視した、やんちゃ盛りの頃だ。
先生にお目玉を食らう姿が、微笑ましく窓辺に映る。
それとは裏腹に、時には自分を試されるテストに向かう。
開始と終了のベルが、物悲しく胸に迫る。
▼ いつしか自分を問いただす年頃になる。
多感な時期を迎え、周囲の目に傷つき、
孤独を知る時代だ。
友や恩師、両親からのどんな評価や励ましにも、
自信も明るさも失ったまま、毎日を心細く過ごす。
▼ しかし、愛情を捧げる存在に気づいた。
寄せられた好意に、高まる喜び。
その高揚感を夢のようだと思う一方で、
その愛に精一杯応えていこうと、つい意気込む。
私は、歌の力を信じている。
いい歌には、どんな人の心も揺さぶる共通項がある。
想いや高鳴りを共有できる景色が映し出されるのだ。
私たちは、それに共感し、明日の力をもらう。
だがら、その歌をくり返し聴き、口ずさむ。
『決められたリズム』には、
みんなの幼少期に共通する1コマがある。
陽水は、透き通ったあの頃の日々を、
みんなで声をそろえて、確かめようと呼びかける。
素敵なピアノの旋律にのせて・・・。
だが、ちょっとだけ彼らしく、シャイに照れを隠し、
「それとて、どこかで決められたリズムだけどね。」
と、注釈を入れる。
2、『瞬 き』
土曜日の夜、NHKテレビ『ブラタモリ』のエンディング曲が、
『瞬き』である。
その日の番組での、タモリさんと近江アナ、ゲストを撮った、
いくつかのスナップ写真と一緒に、
ゆったりとした旋律に載せたリフレインが流れる。
番組の余韻を十分に味わえる。
聞くところによると、
陽水は、この番組の挿入歌『女神』と一緒に、
喜んでこの曲を創作したと言う。
それだけ、『ブラタモリ』という番組を、
念頭においた曲なのだろう。
題名『瞬き』は、「まばたき」と同義語ではないと思う。
夜空の、あの星の瞬き、ロマンを指していると理解したい。
まずは、歌詞を添付する。
未来の あなたに
幸せを 贈る
記憶と 想い出を
花束に 添えて
瞬く 瞳に
魅せられて ゆれて
恋する この胸は
求め合う ままに
愛して いるなら
ささやいて みせて
あまい恋の 言葉を
あふれるほどに
逢わずに いるなら
瞬いて みせて
青い夜の空から
星降るように
未来の あなたに
幸せを 贈る
記憶と 想い出を
花束に 添えて
ひとときの 夢を
瞬いて みせて
番組『ブラタモリ』は、日本各地の今の成り立ちを、
歴史的な痕跡を訪ね、そこからひも解いていく。
川の流れ、地形、そして道筋など、
現在に残る過去からのチョットしたサイン。
それが、現代の私たちに伝えているものを、
陽水は、『瞬き』と表現してみせた。
曲の始めと終わりのリフレインにある「未来のあなたに」とは、
先人たちが、私たち現代人を指したものだろう。
そして、川原の小石や地層のヒダなど、すべての痕跡は、
「花束を添えた記憶と想い出」なのだろう。
だから、毎回、エンディングのたびに、
先人たちから「贈られた幸せ」の奥深さを、
私は再認識させられる。
でも、いつだって陽水の歌は、ラブソングである。
この歌も例外ではない。
「くり返される小さな微笑みに魅せられ、その魅惑に恋する。
そして、求め合う愛のささやきが、あふれるようにと願う。
それが叶わないなら、一時の夢でいいから、
夜空の星のように、時々は瞬いていてほしい。」
そんな切ない恋心を、陽水は穏やかな曲に載せた。
それは、『ブラタモリ』への、
彼の期待と敬意の現れと私は思う。
そんな番組と歌の共演に、ジワリッと体が温かくなる。
つい、どうかこれからも、瞬いてと祈ってしまう。
ライラック(リラ)も満開
(次回のブログ更新は 6月23日の予定)
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