冬真っ盛りの今だから、「冬を満喫しよう!」。
どうもそんな気にはなれない。
寒さには、やはり勝てない!
せめてこんな時季だから、春を待ち望み、待ち望み、
昔むかしのほろ苦い想いを、振り返るのもいいかも・・・。
初 恋
島崎 藤村
まだあげ初めし前髪の
林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛の
花ある君と思ひけり
やさしき白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅の秋の実に
人こひ初めしはじめなり
わがこころなきためいきの
その髪の毛にかかるとき
たのしき恋の盃を
君が情に酌みしかな
林檎畑の樹の下に
おのづからなる細道は
誰が踏みそめしかたみぞと
問いたまふこそこひしけれ
詩の内容は、ほどんど理解できなかった。
なのに、暗唱できるまでになったのは、
中学1,2年の頃だったと思う。
国語の先生が授業で取り上げた。
黒板に書いてくれた詩を目で追いながら、
こんなフレーズに、ひとり顔を赤らめた。
『まだあげ初めし前髪の/林檎のもとに見えしとき』
『やさしき白き手をのべて/林檎をわれにあたへしは』
『誰が踏みそめしかたみぞと/問いたまふこそこひしけれ』
未知の世界だが、一気に憧れた。
そんな恋を、いつかはしてみたい。
だから、せめてこの詩だけは忘れないようにしよう。
すぐにノートに書き写した。
あの年齢だ。
覚えるまでに、そんなに時間を要しなかった。
登下校など1人のときにぶつぶつと、
「まだあげ初めし・・・」とつぶやきながら歩いた。
そんなある日の道々、なんの前ぶれもなかった。
「僕の初恋は、Eチャンだ!!」
はっと気づいて、胸が熱くなった。
思えば、ずっとEチャンを気にしていた。
でも、それが恋と言うものとは・・・。
あの『初恋』に登場する「君」のイメージが、
少しずつEチャンと重なっていった。
Eチャン以外に、「君」をイメージできる人なんていなかった。
「初恋に、間違いない」。
そう確信した。
Eチャンは、4歳の頃から知っている。
私が通っていた保育所に入ってきた。
前髪をきれいに切りそろえたおかっぱ頭。
それだけが、記憶にある。
背格好が同じくらいだったからか、並ぶ時はよく隣になった。
小学校の入学式の日もそうだ。
受付の後、教室に行き名札の貼ってある席に座った。
まだ隣に座っている子がいなかった。
その席の名札を読んだ。
Eチャンだった。嬉しかった。
しばらくしてEチャンが教室に入ってきた。
私は、その時の喜び、そのままに声を張り上げた。
「Eチャン、ここ。僕のとなり。」
Eチャンは、明るい顔で隣の椅子に座った。
その日からだと思う。
いつもEチャンを気にした。
3年生でクラス替えがあった。違う学級になった。
でも、5、6年生でまた同じ組になった。
席替えやグループ学習の抽選では、よく一緒になった。
それだけで、嬉しかった。満足だった。
中学1年では、違うクラスだったが、
2年3年は、また同じ教室で過ごした。
3年生の時には、
Eチャンを特別な想いで見るようになっていた。
幼い頃からのEチャンへの視線を、
『初恋』の詩に重ね、勝手に心を熱くしていた。
まさに初恋の人になった。
あの頃、男子5人が仲良くなった。
そのメンバーと、Eチャンの女子グループが、
同一行動を取ることが多くなった。
修学旅行などでも、行動を共にした。
学級でも、何かと一緒に行動していた。
グルーブの中で、遠慮なく言葉を交わした。
それだけで毎日が楽しかった。
しかし、卒業後の進路は違った。
男子5人もそれぞれだったが、Eチャンとも別になった。
私は、普通科の高校へ進んだ。
Eチャンは、看護婦さんを目指し、その養成学校へ行った。
Eチャンの学校は同じ市内にあったが、全寮制だった。
中学卒業後、Eチャンは自宅を離れ、その寮に入った。
自宅に戻れるのは、月に2回程だった。
学校で、毎日顔を合わせ、声をかけ合っていたのに、
中学卒業と同時に、会えなくなった。
ところが、どんな経緯があったのか、思い出せないが、
Eチャンが自宅へ戻る日に、
待ち合わせ場所を決めて、
家の近くまで一緒に帰るようになった。
私は、その日をワクワクしながら待った。
毎回、Eチャンより早くその場所へ行った。
そして、緩い下り坂を小走りで近づいてくるEチャンを待った。
一緒にバスに乗り、互いの学校生活のことを語り合った。
わずか1時間にも満たないで、別れた。
でも、その時間が楽しかった。
そんなことが半年以上も続いた頃だったろうか、
次第に会話が弾まなくなった。
それより何より、
Eチャンがどんどん大人になっていくように感じた。
「はじめて病室で患者さんの脈をとったんだ。」
「食事のお世話をしてあげたのよ。」
想像がつかなかった。
それだけでなかった。
会うごとに、服装がおしゃれになった。
学生服の私とは、釣り合わなく思えた。
靴のヒールも、いつの間にか少し高くなった。
高校2年になってからは、生徒会活動に熱が入った。
Eチャンと待ち合わせる回数が次第に減っていった。
そして、いつしか特別な時だけになり、
やがて逢う約束が先送りのままになった。
そうして待ち合わせは、立ち消えになった。
振り返ると、私の初恋はそれで終わった。
あの頃、そのことを思い出し、
悔いたり、後ろ髪を引かれたり、そんなことは全くなかった。
それより、多感な日々が待っていた。
高校での新鮮な毎日が、私を惹きつけた。
だから、その後Eチャンと出逢う機会はなくなった。
もの凄い時間が流れた。
50歳を過ぎてからだ。
突然、K中学校3年4組クラス会の案内が届いた。
懐かしさに誘われ、出席をきめた。
その日、空路を経由し、中学校近くの会場へ向かった。
30数年ぶりの再会に、緊張しながら受付へ行った。
名前を言って、会費を出した。
同じ年格好の女性が2人、受け付けをしていた。
「あら、渉ちゃん、久しぶり。」
会費を受け取りながら、明るい顔が応じてくれた。
どこか見覚えのある顔だが、思い出せなかった。
「あれ、誰だっけ、分からないなあ。」
「分からないの・・、教えない!」。
茶化された感じがした。
「すみません。」
笑顔でそう切りかえしたが、その女性を気にしながら宴席へ座った。
何人も懐かしい顔があった。
会話が弾んだ。
やがて、自己紹介と近況報告が始まった。
斜め前方の離れた席に、受付にいた女性がいた。
立ち上がって、旧姓を名乗って話し出した。
どんな近況報告だったか、耳に入らなかった。
それは、その女性がEチャンだったと分かったからだ。
確かに、表情や仕草は、
30数年前のEチャンを思い起こさせてくれた。
でも、「あれ、誰だっけ・・」はない。
軽率な言葉を、悔いていた。
とうとうEチャンの所へは、
飲み物をつぎにも、言葉を交わしにも行けず、
会は終わってしまった。
またまた、そんな結末を悔いた。
ところが、会場の帰り口に、
幹事の1人として、Eチャンが立っていた。
見送ってくれる幹事一人一人にお礼を伝えた。
そして、Eチャンの前に立った。
すっと右手が伸びてきた。
柔らかな女性の手を想像しながら、握った。
「これからも看護婦さんで、頑張るからね。」
「そうだね、頑張って。」
固くて、少しごつごつとした手だった。
その手からは、強くしっかりとしたEチャンが伝わってきた。
頼もしかった。
再会した初恋の人が、そんな手をしていた。
それだけで、よかった。嬉しかった。
遠い春を待ちながら、
とりとめのない話に筆が滑ってしまった。
今も、窓の外は、雪が強風にのって視界を遮っている。
でも、こんな思い出を綴っているとき、
この部屋は、ほっこりと私を包んでくれる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/21/5d/e04feed2ad1e0d1c864020d2921738d6.jpg)
凍てつく漁港 & 漁船
どうもそんな気にはなれない。
寒さには、やはり勝てない!
せめてこんな時季だから、春を待ち望み、待ち望み、
昔むかしのほろ苦い想いを、振り返るのもいいかも・・・。
初 恋
島崎 藤村
まだあげ初めし前髪の
林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛の
花ある君と思ひけり
やさしき白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅の秋の実に
人こひ初めしはじめなり
わがこころなきためいきの
その髪の毛にかかるとき
たのしき恋の盃を
君が情に酌みしかな
林檎畑の樹の下に
おのづからなる細道は
誰が踏みそめしかたみぞと
問いたまふこそこひしけれ
詩の内容は、ほどんど理解できなかった。
なのに、暗唱できるまでになったのは、
中学1,2年の頃だったと思う。
国語の先生が授業で取り上げた。
黒板に書いてくれた詩を目で追いながら、
こんなフレーズに、ひとり顔を赤らめた。
『まだあげ初めし前髪の/林檎のもとに見えしとき』
『やさしき白き手をのべて/林檎をわれにあたへしは』
『誰が踏みそめしかたみぞと/問いたまふこそこひしけれ』
未知の世界だが、一気に憧れた。
そんな恋を、いつかはしてみたい。
だから、せめてこの詩だけは忘れないようにしよう。
すぐにノートに書き写した。
あの年齢だ。
覚えるまでに、そんなに時間を要しなかった。
登下校など1人のときにぶつぶつと、
「まだあげ初めし・・・」とつぶやきながら歩いた。
そんなある日の道々、なんの前ぶれもなかった。
「僕の初恋は、Eチャンだ!!」
はっと気づいて、胸が熱くなった。
思えば、ずっとEチャンを気にしていた。
でも、それが恋と言うものとは・・・。
あの『初恋』に登場する「君」のイメージが、
少しずつEチャンと重なっていった。
Eチャン以外に、「君」をイメージできる人なんていなかった。
「初恋に、間違いない」。
そう確信した。
Eチャンは、4歳の頃から知っている。
私が通っていた保育所に入ってきた。
前髪をきれいに切りそろえたおかっぱ頭。
それだけが、記憶にある。
背格好が同じくらいだったからか、並ぶ時はよく隣になった。
小学校の入学式の日もそうだ。
受付の後、教室に行き名札の貼ってある席に座った。
まだ隣に座っている子がいなかった。
その席の名札を読んだ。
Eチャンだった。嬉しかった。
しばらくしてEチャンが教室に入ってきた。
私は、その時の喜び、そのままに声を張り上げた。
「Eチャン、ここ。僕のとなり。」
Eチャンは、明るい顔で隣の椅子に座った。
その日からだと思う。
いつもEチャンを気にした。
3年生でクラス替えがあった。違う学級になった。
でも、5、6年生でまた同じ組になった。
席替えやグループ学習の抽選では、よく一緒になった。
それだけで、嬉しかった。満足だった。
中学1年では、違うクラスだったが、
2年3年は、また同じ教室で過ごした。
3年生の時には、
Eチャンを特別な想いで見るようになっていた。
幼い頃からのEチャンへの視線を、
『初恋』の詩に重ね、勝手に心を熱くしていた。
まさに初恋の人になった。
あの頃、男子5人が仲良くなった。
そのメンバーと、Eチャンの女子グループが、
同一行動を取ることが多くなった。
修学旅行などでも、行動を共にした。
学級でも、何かと一緒に行動していた。
グルーブの中で、遠慮なく言葉を交わした。
それだけで毎日が楽しかった。
しかし、卒業後の進路は違った。
男子5人もそれぞれだったが、Eチャンとも別になった。
私は、普通科の高校へ進んだ。
Eチャンは、看護婦さんを目指し、その養成学校へ行った。
Eチャンの学校は同じ市内にあったが、全寮制だった。
中学卒業後、Eチャンは自宅を離れ、その寮に入った。
自宅に戻れるのは、月に2回程だった。
学校で、毎日顔を合わせ、声をかけ合っていたのに、
中学卒業と同時に、会えなくなった。
ところが、どんな経緯があったのか、思い出せないが、
Eチャンが自宅へ戻る日に、
待ち合わせ場所を決めて、
家の近くまで一緒に帰るようになった。
私は、その日をワクワクしながら待った。
毎回、Eチャンより早くその場所へ行った。
そして、緩い下り坂を小走りで近づいてくるEチャンを待った。
一緒にバスに乗り、互いの学校生活のことを語り合った。
わずか1時間にも満たないで、別れた。
でも、その時間が楽しかった。
そんなことが半年以上も続いた頃だったろうか、
次第に会話が弾まなくなった。
それより何より、
Eチャンがどんどん大人になっていくように感じた。
「はじめて病室で患者さんの脈をとったんだ。」
「食事のお世話をしてあげたのよ。」
想像がつかなかった。
それだけでなかった。
会うごとに、服装がおしゃれになった。
学生服の私とは、釣り合わなく思えた。
靴のヒールも、いつの間にか少し高くなった。
高校2年になってからは、生徒会活動に熱が入った。
Eチャンと待ち合わせる回数が次第に減っていった。
そして、いつしか特別な時だけになり、
やがて逢う約束が先送りのままになった。
そうして待ち合わせは、立ち消えになった。
振り返ると、私の初恋はそれで終わった。
あの頃、そのことを思い出し、
悔いたり、後ろ髪を引かれたり、そんなことは全くなかった。
それより、多感な日々が待っていた。
高校での新鮮な毎日が、私を惹きつけた。
だから、その後Eチャンと出逢う機会はなくなった。
もの凄い時間が流れた。
50歳を過ぎてからだ。
突然、K中学校3年4組クラス会の案内が届いた。
懐かしさに誘われ、出席をきめた。
その日、空路を経由し、中学校近くの会場へ向かった。
30数年ぶりの再会に、緊張しながら受付へ行った。
名前を言って、会費を出した。
同じ年格好の女性が2人、受け付けをしていた。
「あら、渉ちゃん、久しぶり。」
会費を受け取りながら、明るい顔が応じてくれた。
どこか見覚えのある顔だが、思い出せなかった。
「あれ、誰だっけ、分からないなあ。」
「分からないの・・、教えない!」。
茶化された感じがした。
「すみません。」
笑顔でそう切りかえしたが、その女性を気にしながら宴席へ座った。
何人も懐かしい顔があった。
会話が弾んだ。
やがて、自己紹介と近況報告が始まった。
斜め前方の離れた席に、受付にいた女性がいた。
立ち上がって、旧姓を名乗って話し出した。
どんな近況報告だったか、耳に入らなかった。
それは、その女性がEチャンだったと分かったからだ。
確かに、表情や仕草は、
30数年前のEチャンを思い起こさせてくれた。
でも、「あれ、誰だっけ・・」はない。
軽率な言葉を、悔いていた。
とうとうEチャンの所へは、
飲み物をつぎにも、言葉を交わしにも行けず、
会は終わってしまった。
またまた、そんな結末を悔いた。
ところが、会場の帰り口に、
幹事の1人として、Eチャンが立っていた。
見送ってくれる幹事一人一人にお礼を伝えた。
そして、Eチャンの前に立った。
すっと右手が伸びてきた。
柔らかな女性の手を想像しながら、握った。
「これからも看護婦さんで、頑張るからね。」
「そうだね、頑張って。」
固くて、少しごつごつとした手だった。
その手からは、強くしっかりとしたEチャンが伝わってきた。
頼もしかった。
再会した初恋の人が、そんな手をしていた。
それだけで、よかった。嬉しかった。
遠い春を待ちながら、
とりとめのない話に筆が滑ってしまった。
今も、窓の外は、雪が強風にのって視界を遮っている。
でも、こんな思い出を綴っているとき、
この部屋は、ほっこりと私を包んでくれる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/21/5d/e04feed2ad1e0d1c864020d2921738d6.jpg)
凍てつく漁港 & 漁船
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