ジューンベリーに忘れ物

シンボルツリーはジューンベリー
どこかに沢山の忘れ物をしてきた気がして

ゴルフ GOLF Golf

2021-09-11 11:33:18 | 思い
 ▼ T君は、幼なじみの上、
中学3年からは仲良し5人組の1人だった。
 30歳を過ぎて間もなく、全くの偶然だが、
同じ団地のしかも隣の棟に、彼と私は住み始めた。

 北海道室蘭で18歳まで過ごし、
別々の道を歩んでいた2人が、
遠く千葉市の一角で再び出会ったのだ。

 自動車関係の仕事をしていた彼には、
マイカーの購入から点検整備まで、
何かと便宜を図ってもらった。

 丁度バブル景気が始まった頃だったろうか。
お客さんが、彼の仕事ぶりを見て、
ヘッドハンティングをした。

 そして、起業したばかりのカーリース会社の、
営業マンとして、毎日、都心にある営業所へ通勤していた。

 「ワタル、俺、ゴルフを始めたんだ。
最初は、仕事の接待で社命が出て、
クラブを買ったんだ。
 やってみると、それが中々面白い。
ワタルもどうだ。一緒にゴルフ・・・」。
 
 久しぶりに、少々酒を酌み交わしながらの近況報告で、
彼はそんなことを言いだした。

 話は止まらなかった。
芝生の緑が広がるコースの綺麗なこと、
洒落たクラブハウスのこと、
そして、白球がカップインした時の嬉しさ等々。
 
 中学、高校を通して、文化系だった彼が、
夢中でゴルフを語ることが不思議だった。

 最後には、
「とにかく、練習場に行こうよ。
クラブを振ってみようよ!」。
 そうくり返し、とうとう誘いに同意することになってしまった。

 次の日曜日、彼と2人で国道沿いの、
打ちっ放しのゴルフ練習場へ初めて行った。
 1階と2階に、100席余りの練習席があった。
大勢の人がクラブを振っていた。

 『ゴルフは金持ちの道楽!』。
そんな先入観があったが、
熱心に練習している人たちの顔ぶれは、
彼や私と大差を感じなかった。
 どの人も乾いた打球音で、
遠くへボールを飛ばしていた。

 2階席を1つ借りて、2人で使うことにした。
彼は、マイクラブの入ったキャディーバッグを持ってきた。
 私は、彼に言われるまま、受付でクラブを3本借りた。

 最初は、彼が打つのを見た。
乾いた音と一緒にボールが空へと飛んだ。
 やや方向が違うことがあっても、
白球は高く、遠く飛んでいった。
 途中で違うクラブを握った。
これも、心地よい音といっしょにボールが飛んだ。

 彼の打ちっぷりと一緒に、近くの席で練習する様子も見た。
みんな変わりなく、次々とボールは空へと向かった。

 そこで、私はとんでもない誤解をした。
文化系の彼ができる。
 私とさほど変わりない人たちも、
周りでポンポンと打っている。
 だから、「簡単にできる!」と思い込んだ。

 「ワタル、やってみるか?」。
彼に、クラブの握り方を教えてもらい、
一番短いクラブを持って、練習席に立った。
 彼や周りと同じように、2,3回素振りをして、
緑色の人口芝シートにあるゴルフボールに向かった。

 クラブを振りきると、「ボールは遠くへ飛んでいく・・」
はずだった。
 ところが、打球音も打感もない。
予想していた方向にボールが飛んでない。
 急いで、緑色のシートを見た。
白球が、そのまま残っていた。
 「カラ・・フ・リ!」
誰にでもなく、小さく言った。

 その日、くり返しくり返し彼から、
スイングのアドバイスを受けた。
 しかし、白球が乾いた打球音で、
遠くへ飛んでいくことはなかった。
 2階席から打ったボールが力なく地面に落ちるのを、
何度も何度もくり返した。

 数週間後、再び練習場へ誘われた。
今日こそはと、アドバイスを受けながら、
時には彼のクラブも借りて、スイングした。
 結果は前回と大差なく、
2階席からぽとりとボールが落ちた。

 以来、彼と練習場に行くことも、
ゴルフを話題にすることもなくなった。

 ▼ それから、40年が過ぎた某日。
いつもより1時間も早い昼食を済ませると、
ゴルフ用のポロシャツとズボンに着替える。

 玄関でゴルフシューズを履き、
キャディーバッグを愛車のトランクに積み込む。

 そして、通い慣れた道を有珠山の麓へ向かう。
農道のような十字路の脇にある『熊出没注意』の看板を、
見ながら右折すると、まもなく伊達カントリー倶楽部に着く。

 自宅から15分で、クラブハウスでの受け付けが終わる。
キャディーバッグをゴルフ場のスタッフに預けると、
持ち物は財布とスマホだけ。
 ロッカーも使わない。着替えもしない、
レストランで食事もしない。

 マスター室へ直行すると、
「クラブは、31番カーに積んであります。
いつでも出発できます。
 用意ができたら、どうぞ!」。
常連さんのような振る舞いには、できるだけ気をつけ、
家内と二人乗りカートで、静かに1番ホールへ向かう。

 予約は、12時30分スタート。
でも、それより15分も早い時間にティーグラントへ。

 70を過ぎた夫婦のラウンドへの気配りか、
次にスタートする組との間隔が空いている。
 だから、ゆったりとした気持ちでプレーする。

 中々パーは取れないが、
ドライバーもフェアーウエイウッドもアイアンも、
乾いた打球音で飛んでいくことが多い。
 白球が、イメージ通りの弧を描いて緑の中を飛ぶ。
その爽快感の虜になって、
次へ次へとカートを走らせ、コースを進む。

 珍しく17番ホールまで好成績で進んだ。
谷越えのパー3だった。
 ワンオンねらいで、ショートアイアンを振った。
思いもしない、ミスショット。
 ボールは谷へぽとりと落ち、「OB!」。
突然、40年前の練習場の私を思い出した。

 T君は、10年以上にわたる闘病生活の末、3年前に他界した。
一緒にラウンドすることはなかった。

 「あの時、君が語っていたゴルフの楽しさを、
今、満喫している!」。
 その日の日記に、そう記した。




     薄紅色のコスモスが 町中に
                      ※次回のブログ更新予定は、9月25日(土)です  

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 学校の危機をマネージメント | トップ | スタート前の時間 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

思い」カテゴリの最新記事